1話 午後のお茶会
土用の丑の日。それは鰻を食べる日ではありません。これは、日本の昔の暦で表す1年のある1日の事です。
昔の人は世界は5つの要素で作られていると考えていました。
木・火・土・金・水
これを五行と言います。昔の人は四季にこれを当てはめました。
草花が目を覚ます春に『木』を
一年で一番暑い夏に『火』を
沢山の実りをもたらせる秋には『金』を
雪の降る冬には『水』を。
そして、あまった『土』をこの四季の変わり目の数日に当てはめたのです。
と、言うことで、山の精霊たちは、土用になると忙しくなります。
なにしろ、季節が変わると言うことは、季節を司る女神のお引っ越しがありますし、雷様や風神さまは夏には水を運び、鎮守の神様は、人々が健やかに季節の変わり目を過ごせるように心を尽くすのです。
信州の小さな山の女神、春江の所でも、執事の家守が来客の準備に忙しく立ち回っていました。
「さあ、さあ、皆さん、急いで下さい。
本日のお客様は、口の肥えた方々ですからね、丁寧に、そして、手早く準備を進めませんと。」
家守は、ぽんっと手を打つと、ナイフやフォーク、食器達がぴんと背筋を伸ばして客間のテーブルに収まって行きます。
家守は、そんなテーブルウェア達が粗相がないように目を光らせ、曲がっていたスプーンをそっと直しました。
それから、壁の絵画や窓の汚れを最終確認を済ませると、ほっとため息をついて絹のチョッキのポケットから金時計を取り出しました。
「さあ、皆さん、お茶の時間になりますよ。
お客様と、お嬢様に、精一杯、楽しい一時を演出しましょう。」
そう言って、家守は「ぽん」と手を打ちました。