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ヒトとキツネの異世界黙示録  作者: 遊戯九尾
第九章 復讐の勇者と英雄達の晩餐
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二人目の英雄殺し

 三課との合同任務まであと三日、永戸は単独で任務に当たっていた。


「ひぃっ! 英雄殺し…!」

「…死んでもらう」


 さっくりと指名手配犯を処理するが、彼は妙な感じになる。ここ最近、何故か英雄殺しの名が広がっているのだ。特に何かしたっけ? と永戸は思い返す。


「何であれ恐れを抱いてくれるのはいいことか」


 抑止力になるしと考えると彼は四課のオフィスに帰ろうとする。

 そうして歩いていると、一つの店に目が向いた。


「武器屋か」


 剣や銃火器がショーケースに置いてあるのを見て、彼はまじまじと見つめる。


(今月の新作武器とか何かないだろうか)


 三日後にパーティーが控える今、パーティーの場でも扱える武器がないかと彼はショーケースの武器を眺めていく。と、武器を見ている時だった。ある一人の少女がこちらをじっと見つめているのがガラス越しに見えた。


(…刺客か?)


 何処の組織の回し者かは分からないが、その少女は永戸の動きを見張っているように見えた。

 永戸は武器屋のショーケースから目を離すとそのまま歩き出す。


(やっぱり、追ってきてるな)


 先程から少女がずっと永戸のことを等間隔でついてきていた。このままイストリアに帰れば流石に離れてくれるだろうとは思いたいが、かと言って放置すればまた次の日にも目をつけられかねない。

 そこで彼はイストリアに向かわず、通りから裏路地の方へ入った。


(これでもついてくるのか)


 裏路地はミズガルズの法が届かない無法地帯で、マフィアなどの組織や闇ギルドなどがあり、普通の人なら近づかないところだ。

 永戸のような英雄殺しや四課の肩書きを持ってる者なら恐れる事はなく悠々と歩けるが、肩書きのない者は組織のテリトリーに入った途端襲われる、そんな所だった。

 だが、永戸を追う少女は躊躇わずにこの場所に入ってきた。絶対に何かあると思い、永戸は裏路地の奥の方に向かっていく。

 少女は永戸を追いかけるが、路地の奥の袋小路に入ると、彼の姿を見失ってしまった。


「どこに⁉︎」

「お前の後ろだ」


 少女の後ろを永戸はとり、ブレイズエッジの銃口を突きつける。少女は永戸から距離を取ろうとするがここは袋小路、彼に追い込まれてしまった。


「俺をずっとつけていただろ、何処の差金だ」


 ハンマーを下ろし、いつでも撃てる状態にする。すると少女は剣を構えた。


「見つけた! 英雄殺し、陽宮永戸!」

「…復讐か? 誰の子だか知らないが、今この場で荒事を起こすのはやめとけ」


 永戸はそう言って引かせようとするが、少女は歯を食いしばると叫んだ。


「とぼけないで! 貴方が、私の兄さんを殺した!」

「兄さん…?」

「そうよ! 私の名前はヒカル・ハインドウェイン! 貴方が殺したケイ・ハインドウェインの妹よ!」


 ケイの名前が出て来て、永戸は驚いた。少女はロングの綺麗な茶髪の髪をしていて、瞳も茶色、歳も桐枝と大して変わらないくらいの姿で、永戸は確かにケイの妹だと思った。彼に妹がいるのは大戦時に聞いていたが、まさかこうして実際に会うとは。だが、彼にも思うところはあった。


「ケイは普通に戦死しただけだ、俺は殺してない」

「だったら何故貴方はその聖剣を背負ってるの! その剣、形は変わってるけど、私達の家の家宝、聖剣レイマルクよね!」


 永戸は自身の聖剣、イクセリオスにチラリと目をやる。だがこれもこじつけに過ぎない。彼は答えた。


「これはあいつから託されただけだ。殺して奪った訳じゃない」

「…だったらどうして貴方はそんなに悠々と生きてるのよ! 人殺しのくせに!」


 人殺しと聞いて永戸はブレイズエッジの引き金に指をかける、そして、彼はそのままヒカルの頭から少し外して撃った。


「…戦争も何も知らないガキが、大戦の経験者を人殺しと言うんじゃない」

「…! ガキって…舐めた口を!」

「じゃあお前の兄さんも人殺しになるが、どうなんだ?」

「っ!」


 そう言われると、ヒカルは口をつぐんだ。


「お前だな? 英雄殺しの名前を最近広めたのは? どんな経緯かは知らないが、俺はあいつの妹であるお前を殺したくはない。帰ってくれ」

「そんな事、できる訳ないじゃない! 兄さんを殺した相手が目の前にいると言うのに!」

「だから俺はあいつを殺しては…」


 永戸は殺してないともう一度言おうとしたが、そう言う前にヒカルが剣を持って切り掛かって来た。永戸は素早く背中からイクセリオスを抜き、攻撃を受け止める。


「人の話を聞かない奴だな。大体話を聞いてくれたケイとは大違いだ」

「うるさい! 貴方みたいな人殺しが、兄さんを語るな!」

「…甘い奴だな」


 すると永戸は剣を弾き返し、聖剣を逆手に持って慣性を乗せた回転斬りをした、ヒカルの剣は弾き飛ばされ、彼女は永戸に剣を突きつけられる。


「お前にとって戦争に参加した奴はみんな人殺しなのか?」

「ええそうよ! 皆が戦わなければ、兄さんは死ぬ事はなかった!」

「……ガキの妄言だな」


 見てられないと永戸は聖剣をしまうと、その場から立ち去ろうとする。


「待ちなさい! 勝負はまだ終わってない!」

「もう少し現実を見るようになってから俺に戦いを挑むんだな、甘ちゃんが」


 永戸は腰のひけたヒカルをその場に置き、裏路地から立ち去った。


 ーーー


 その後、イストリアに戻った永戸は自販機でジュースを買ってオフィスに戻ろうとする。


(ケイの妹か…あいつ、妹を残して先に行ってしまったのか)


 妹から仇とばかりに狙われたことに対して、永戸はしんみりする。せめて彼が生きていれば、せめて彼が妹に一言残していれば、こんな事にはならずに済んだのだろうと永戸は思う。


「永戸さん、お疲れ様です」


 気がつけば、資料を抱えた神癒奈が隣に立っていた。永戸は神癒奈と一緒に歩き、先ほど起こった事を話す。


「ケイさんの妹が英雄殺し、そういえば、英雄殺しが別にいるのは噂になってましたね」

「あぁ、まさか、ケイの妹が俺を目の敵にしてるとは思いもしなかった」


 永戸は困った表情で歩く。またあんなのがやってくるのかと思うと、彼はうんざりした。


「……あいつの言い分は、初めて会った時の神癒奈より甘えた事だった。異世界大戦で戦った奴らは人殺しなんかじゃない。皆、何かの想いを胸にして戦っていた」

「そうですね、戦争で人を殺す事は、悪意さえなければその人自身が悪い事じゃないです。本当は…そうなってしまった戦争が悪いのに」


 神癒奈がそう言うと、二人一緒にオフィスの中に入る。すると、フィアネリスが出迎えてくれた。


「お疲れ様です、マスター、大丈夫でしたか?」


 どうやら既に情報は入っているらしく、タブレットを持ったフィアネリスが待っていた。


「あぁ、まぁトラブルはあったが任務は達成したよ」

「それならばよかったです。しかし…ヒカル・ハインドウェイン……ケイさんの妹が襲いかかってくるとは…彼女は、再び襲いかかってくるでしょう」

「…それはいつになりそうだ?」


 永戸は重々しい表情で全知の力を持つフィアネリスに聞いた。するとフィアネリスは目を閉じて少し考えると、こう答えた。


「三日後…パーティーの時に、強大な力を持って襲いかかってくるでしょう」

「よりにもよってその日か……なんであいつは俺を狙うんだ?」

「…誰かに唆されたと思われます、ただ、誰までは私の力を持ってしても分かりません、存在がぼやかされてるのですよ」


 ですがとフィアネリスは続ける。


「確実に、英雄殺しの名を広げたのは彼女でしょう。大戦の英雄達を次々と襲う姿は、英雄殺しと呼ばれてもおかしくはありません」

「二人目の英雄殺しか。それで、強大な力って言ったけどあいつの能力はそもそもなんなんだ?」

「"勇者"、一般的に異世界転生者に与えられる基礎能力ですね。あらゆる武器や魔法、スキルなどを扱えるようになるという、ですが、出力は桁違いです」


 フィアネリスからタブレットを渡されると、そこにはヒカルの詳細な情報が記されていた。

 永戸はタブレットの情報を流し見していくと、フィアネリスはこう答える。


「パーティーの日、彼女は大勢の人を連れて襲いに来るでしょう、英雄や貴族の存在によって苦しめられた民を連れて」

「出迎える準備が必要だな、せめて聖剣が持ち出せれば…」

「あぁ、それに関しては考えがございます」


 するとフィアネリスはある書類を出した。それは緊急時に武器の使用許可を求める申請書だった。


「これを使って、少々悪い事をしますので」

「…へぇ、面白そうじゃないか」


 永戸は、フィアネリスの笑みに、微笑んで返した。

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