足取りがおぼつかなくても
天界から帰った後、元の日常は戻ってきた。永戸にも全知の能力が告げられ、困惑されたが、優しく迎えられた。だが、フィアネリスの日常はまるっきり変わった。
「ま、マスター! 神癒奈さん! その……不純物の排泄などはどうやって…!」
「あーー…」
「その…」
生体の身体になってから、フィアネリスは苦労ばかりだった。トイレの仕方はわからないし、寝ずに仕事をしたら翌日は倒れるように寝てるし、全知の能力はあっても目測を誤って頭をドアの上にぶつけたりするしで苦労ばかりだ。
だが楽になったものもあった。
「フィアネリス君、これに関係する書類はどこにあったかね?」
「そちらの棚の上から二番目にあります」
「うむうむ、ありがとう」
物の場所や計算などがすぐにわかるようになった。そのおかげで四課の仕事がスムーズになり、困ったらフィアネリスに頼ればいいという空気ができた。
「フィアネリス先輩、前より肌ツヤツヤになってないっすか?」
「よく笑うようにもなったと思います…」
「天界で何があったんだろうね?」
後輩達に噂される中、フィアネリスは悠々と仕事に出かけ…。
「あだっ」
またドアの上に頭をぶつけた。
ーーー
フィアネリスが来てから大きく変わったことがもう一つある。それは、戦場を見通す"目"ができたことだった。
「マスター、貴方の所に敵が向かって来ております、数は3、全員近接です。神癒奈さん、その速度だと予定より20秒の遅れが出ます、もう少し早めてください」
「了解した」
「はいっ!」
フィアネリスに言われた通り、二人は動く。すると、フィアネリスの目論見は的中し、作戦がスムーズに進んだ。
「凄いなフィーネ、言った通りにやると本当に楽に仕事が終えられる」
「全知様々ですね、助かります」
辺りの敵を一掃すると、永戸達は空を見る。すると、索敵用の装備をしていたフィアネリスが空から降りてきた。
「いかがでしたでしょうか?」
「ばっちり、お陰様で楽な仕事で済んだよ」
「それは良かったです」
いつものようにフィアネリスは笑う。それはいいのだが…。
「フィーネ、今お前が向いてるのは俺の方じゃなくて壁の方だぞ」
「はて⁉︎」
まだ全知の制御がうまくいかないらしく、時々変な方向を向いたりする。全てわかっても自身の身体の動かし方はまだ慣れていないようだ。
「戦闘の時は上手く行くのですが…」
「集中力足りてないんじゃないのか?」
「そうでしょうかね?」
何はともあれと仕事を終え、永戸達は帰路につく。
「何もかもが見えるようにはなりましたが…マスターの顔をこの目でしっかりと見れないのは、残念ですね」
ふと、そんな事をフィアネリスが言い出した。
「…そうか」
「もっと貴方の顔を見ておけば良かったと少し後悔しております」
永戸は立ち止まり、フィアネリスの顔を見る。その瞳は琥珀色に輝いたままだ。
「だったら、肉眼じゃなくても構わない、これからも、俺たちの行く先を見ててくれるか?」
「…ええ、もちろん、貴方の通るその道が、いずれ一つの物語としてなるまで」
フィアネリスは目を閉じて静かに礼をする。
友との約束もある。この素晴らしくてクソッタレな異世界を、果てから果てまだ見て、せめて、彼らの道の先だけでも見ていこうと、フィアネリスは思った。




