舞い上がる翼
「ネアゼル…これ以上、貴方の天使達の好きなようにはさせません!」
神癒奈がそう言った時だった、天界の一部から、天使達が飛び立つのが見えた。
「守護天使の本隊! なぜこんなに早く…!」
ネアゼルが驚愕していると、遠くから見知った天使が飛んできた。
「ご無事ですか⁉︎ 皆さん! 私が動ける天使に連絡をして、守護天使を呼んできていただきました!」
「アステリスさん!」
傷を治したアステリスが飛んでやってきた。大勢で空を飛んできた天使達は彼女が呼んだらしく、彼女は降り立つと、ミカエルとフィアネリスの無事を確認する
「熾天使フィアネリス、戻ってきてくれたのですね」
「ええ、まぁ、色々ございましたが」
因縁深そうに互いに見合うが、今はまだ戦闘中だ。二人は手持ちの武器を構え、ネアゼルに向ける。
「ちっ…ここは一度引くか…まだ私には、切り札があるからな」
「逃げるのですか?」
「ああそうさ、だが、これだけの軍勢、君達は追ってはこれまい」
そう言うとネアゼルは虚空に消え、機械天使が目の前を阻む。
「神癒奈さん、続けての戦闘になりますが、行けますか?」
「当然、です!」
フィアネリスは艤装"カロン"を外すと、いつも使っている艤装"ラグナロック"を展開した。漆黒の鎧から純白の鎧へと代わり、彼女の手に対艦槍と大楯が装備される。
神癒奈も刀を構えると、目の前に現れた天使達を見る。
「攻撃開始!」
四人は一斉に飛び出し、機械天使に向けて攻撃を始めた。
大勢の天使達が四人を潰そうとするが、神癒奈とフィアネリス、ミカエルとアステリスの二人に分かれ、戦闘が始まる。
「たぁっ!」
突撃してきた天使を斬ると、神癒奈はその天使を足場にして飛び上がり、空中で回転して次々と機械天使を切り刻んでいく。その背中をフィアネリスは守り、神癒奈を狙う天使達を次々と落としていく。
「邪魔ですっ」
コピーされたとはいえ本物のフィアネリスとはスペックも戦う感覚も全然違う。大勢の機械天使はフィアネリスを潰そうと波動砲やミサイルを飛ばしていくが、彼女はそれを軽々と回避するとカウンターで波動砲を撃ち、突撃しては槍で貫いて一匹ずつ敵を狩る。
「あはっ、所詮はデッドコピー、本家には勝てませんよ」
物量で攻める機械天使をフィアネリスは大火力で押し返す。確かに彼女は戦うために作られた兵器かもしれない、だが、彼女は無機質に武器を振るう存在ではない。自分を慕ってくれる仲間を思い守るために戦う、その為に彼女はここにいる
「神癒奈さんっ! 行きますよ!」
「はいっ!」
フィアネリスは神癒奈の手を掴むと、彼女を敵の集団に向けて投げつけた。真っ直ぐに飛んで行った彼女は、刀を構えると叫ぶ。
「焔月式抜刀術・弐式!」
連続の斬撃が機械天使達をバラバラに切り裂き、返しで放った壱式で空中を一筋の線を描きながら次々と切り倒して行く。
「ハイパードライブシステム・解放! 薙ぎ払え!」
フィアネリスが武器のチャージを解放すると、波動砲が連射され、機械天使達が墜ちて行った。射撃の反動で砲身が冷却状態になるが、フィアネリスはそれを気にしないかのように近接戦闘を繰り返し、敵を薙ぎ倒す。
「凄い…アレが、決戦兵器の力」
「フィアネリスは、私の戦闘能力も模倣してますからね、ちょっとやそっとでは彼女は墜ちませんよ」
フィアネリスが一騎当千の力を見せつける中、アステリスとミカエルはそれを見る。彼女達から見て、神癒奈とコンビを組んだフィアネリスは、文字通り鬼神とも呼ぶべき強さを持っていた。
「数が減りませんね…」
「相手は簡易量産型です。お手頃な3Dプリンターがあれば簡単に作ることができる兵器です。ですが……我々の敵ではありません」
長距離砲撃型の天使が波動砲を照射してくるが、フィアネリスは無数の光の線を避けると、自身の槍をその天使に向けて投げて突き刺した。そのまま近づくと、槍を引き抜き、敵が持っていた長距離砲撃型の槍を持ち、波動砲を照射する。
「妹の癖に、姉に歯向かうなんて、図が高いのですよ!」
なんとか抗えてる状況だが、このまま戦闘を続けていればいつかはバテてジリ貧になる。それほど敵の数が多かった。
神癒奈とフィアネリスは背中合わせで敵を見る。まだ空を覆い尽くす程の数がいた。
「もっと、広範囲を殲滅できれば…!」
「だったら!」
神癒奈は停止の能力を発動させ空一帯に境界線を敷いて天使達を覆う。すると、天使達は生命活動が止まり、空間内で原始レベルまで分解され、身体は霧散していった。
「そんなチートがあるんなら最初からそれを使ってください!」
「この能力は強力すぎて危ないんですよ⁉︎ 下手に使えないんです!」
神癒奈の加速と停止の能力は出力を調整すれば、生命活動の停止から原始までの分解までできる。だが、あまりにも危険な能力なので普段の現場では使用を禁止されていた。
神癒奈の能力を見て危険と察知したのか、機械天使達は攻撃を止めるとその場から去って行った。
「…しのぎ切りましたね」
「ええ、一先ずは落ち着けそうですね」
装備を解除し、フィアネリスはいつもの姿に戻る。それを見た神癒奈は、彼女が戻ってきてくれたことに安心した。
だが、天界の景色はやってきた時から変わっていた。あちこちで火事や崩落が起き、負傷者や死者も多数出ていた。
それらを神々や天使達が直そうとしていたが、この調子だと、明日行われる神癒奈の誓いの儀式はなさそうに思えた。
「偵察隊の情報によると、ネアゼルは天界の果てに逃げたそうです。これから私達は討伐隊を編成します。フィアネリス、貴方もきてください」
「お断りします。どうせ行ってもケダモノ扱いが目に見えているので」
首謀者と戦闘に加担した裏切り者の機械人形、そう言われると思ったフィアネリスは拒否をした。だが、ミカエルは彼女に頭を下げるとこう言った。
「貴方への偏見や批判は私が罰します。今は少しでも動ける戦力が欲しいのです、どうか…我々を手伝ってください」
「……はぁ、分かりました、晩年役立たずな守護天使に少しだけ手伝いをしてあげます。これだけですので」
「ありがとうございます…」
そうしてフィアネリス達は作戦会議室の方に向かった。
「私も行きます」
「いいえ、ここからは天使がやりますので、神癒奈様はここで待っていてください」
「でも…」
「心配はいりません、彼女達は、天使としての役目を果たしにいくだけなので」
神癒奈も行こうとするが、アステリスに止められた。天使としての役目…そう聞いて、神癒奈はフィアネリスの背中を見守ることしかできなかった。
ーーー
討伐隊の作戦会議室にフィアネリスが到着すると、早速罵声が飛んできた。
「なぜ、敵の天使がこんなところにいる!」
「この天使、天界を襲った天使じゃないか! ここから出ていけ!」
「裏切り者の機械人形風情が! 神聖な天界を壊して…!」
フィアネリスは帰ろうとするが、ミカエルに止められる。するとミカエルは大声で叫んだ。
「彼女は確かにこの天界を破壊しようとしました、しかし、それはあの天使、ネアゼルに操られての事! 今の彼女は我々の味方です!」
「しかし! 彼女を信用することなどできません! そもそも、なぜ彼女はミカエル様と同じ姿を取っているのですか!
「詳しい事は深くいえません、ですが、彼女は敵ではありません! 彼女をここに呼んだ私を信じてください! この場の全責任は私が取ります!」
そう言い切ると、天使達はしん…と黙った。流石のフィアネリスもこれには驚いたのか目を見開いている。
「作戦を説明します。天使ネアゼルは、天界の果ての自身の研究棟に逃げました。そこの防御には多数の機械天使が加わっています。我々は、できる限りの戦力で強襲を仕掛け、敵の防衛網を突破し、ネアゼルを粛清します」
ミカエルは次にこちらの戦力と敵の戦力のデータを出した。
「次にこちらですが、戦力としては数はこちらの方が圧倒的に不利です。敵はいくらでも天使を量産することができ、こちらはこの場の全員とそれぞれの場所にいた守護天使しか戦力はありません。ですが、敵は彼女の戦闘データを元にしたとは言っても、通常の天使には至らない存在です。量より質の戦法でいけば敵防衛網を突破できなくはありません」
場の天使がざわつく中、ミカエルはそう言うと、全員に対して言った。
「一騎だけでも構わない、敵の本拠地まで突入して、ネアゼルを粛清する事ができれば、天使達も動きを止めるでしょう。作戦の成否には、皆様の力がかかっています、どうか、よろしくお願いします」
作戦の説明を終えると、各々の天使達が準備を始める。フィアネリスも動き出すが隣をミカエルが歩く。
「フィアネリス。こうなってしまったのは、不出来な親である私の責任です。許さなくても構いません。ですが、どうか、他の天使達を責めないでください」
「はいはい、博愛主義なのは別に構いませんが、下手に発言をしてフラグを建てて貰えなければよろしいです」
最高の天使とそれを模して作られた天使が並んで歩く。同じ見た目ながら何もかも違う二人だが、共通の敵を持った今、二人は共に戦う覚悟ができた。




