空を覆い尽くす群翼
「フィアネリスさん……ですよね?」
神癒奈は目の前にいるフィアネリスに聞く。だが、フィアネリスは答えずに銃口を向けてきた。
「っ!」
直後、フィアネリスは容赦なく神癒奈にレールガンを連射してきた。神癒奈は即座に停止の力場を発生させ、飛んできた攻撃を防ぐ。
「どうしたんですかフィアネリスさん! なんで攻撃を…!」
質問を受け付けず、フィアネリスはどんどん神癒奈に攻撃を加えていく、神癒奈は回避しつつもフィアネリスに声をかけるが、どう言うことか、彼女に声は届かなかった。
「熾天使フィアネリス! 気でも狂ったのですか! そこにいるのは貴方の仲間のはずですよ!」
「…」
アステリスが声をかけても彼女は答えない、フィアネリスは至近距離で神癒奈を突き飛ばすと、彼女に波動砲を撃ち込んだ。電撃となった波動砲が神癒奈を襲いかかる、それを神癒奈は回避するが、回避した先の建物に命中し、崩れ落ちた。
それにより天界が混乱に見舞われる。天使が反乱を起こしたと。
あちこちにいた天使達は逃げ出すが、機械天使に追いつかれ、次々と殺されていく。
「フィアネリスさん! やめてください! 何故、なんの罪もない者達に攻撃を加えるのですか!」
「…」
それでもフィアネリスは答えない。彼女は大量の機械天使を呼び出すと、神癒奈に向けて攻撃させた。
「どうしてっ!」
次々と攻撃を回避していくが、神癒奈は攻撃できずにいた。同じフィアネリスの顔をした天使達を、切ることができなかった。
「ぁあっ!」
ここで、アステリスが機械天使の攻撃を受けてしまう、肩から先を負傷して、よろめく彼女を神癒奈は支えると、二人で逃げ出した。
フィアネリスは微動だにせず、機械天使が追いかけてくる。
「神癒奈様! 私のことは構わず、貴方はお逃げを!」
「できません! 目の前の命を、放っておくことなんか!」
神癒奈はアステリスを背負いながら、天界の広々とした道を駆け回る。砲撃が雨のように降り注いでくるが、停止の力で壁を築き、ひたすら防ぎながら走る。
途中、機械天使に先回りされることもあったが、その大群を押し除け、神癒奈は逃げ回った。
「攻撃が止みません! 彼女達は一体なんの目的でこんな事を…!」
そう言った時だった。フィアネリスが先回りをし、神癒奈に向かって槍を突き刺そうとしてきた。神癒奈はアステリスを突き飛ばすと、その槍を両手で寸前で受け止めた。
バチバチと開放型バレルから放出される電撃で痺れそうになるが、彼女はフィアネリスに語りかける。
「もうやめてください! こんな事、誰に命令されたか分かりませんが、絶対に良くない事です! フィアネリスさん! 貴方ならわかってるはずです! お願いします! 攻撃をやめてください!」
槍の手元に手を伸ばし、彼女の手に触れると神癒奈はフィアネリスに語りかける。すると、フィアネリスと神癒奈の脳に、共に暮らしていた時の景色が広がった。
その景色を見た途端、フィアネリスは一瞬揺らぐが、すぐに立て直すと、神癒奈を蹴飛ばした。
「きゃっ!」
強い力で蹴られ、神癒奈は吹き飛ばされてそのまま倒れてしまう。立ちあがろうとするも、そうする頃にはフィアネリスが波動砲をチャージして神癒奈の方に構えていた。
「…み…ゆな……さ………っ?」
ぽつりと、そう呟いたかと思うと、彼女は構えた波動砲を下ろした
その直後、神癒奈は何者かに掴まれ、アステリスと共に天界の空へと離脱した。
空の上から見た天界の景色は波乱の状況に陥っていていた。あちこちで火が上がり、それに対応する守護天使達や、神々でいっぱいだった。
「ご無事ですか?」
声が聞こえたので神癒奈は振り返ると、そこには、フィアネリスがいた。
「フィアネリスさん⁉︎ えっ…えっ⁉︎」
先程までいたフィアネリスと、今自分を担いでいるフィアネリスを見て、神癒奈は驚く。
「あぁ…初めてならば混乱しますよね、私は天使長ミカエル。機械の天使フィアネリスの、その元となった天使です」
ーーー
あれから神癒奈達は天界の遠くの場所へ逃げ、天使からの追跡を振り切ることができた。ミカエルに降ろされ、神癒奈はひとまず落ち着く。
「ありがとうございます、ミカエルさん」
「いえいえ、神々の助けになるのが我々の使命ですので」
そう言ってミカエルは服装を整え、遠くの景色を見る、今でも天界では大量の機械天使が暴れている状況だ。逃げているうちに話は聞かされた、フィアネリスがラグナロクプロジェクトで生まれた決戦兵器となる機械天使であることを。
「どうして…こんなことに」
「……それに関して、私は謝らなければならないことがあります」
するとミカエルは神癒奈に頭を下げた。
「私は、ラグナロクプロジェクトに参加した責任者の一人なのです」
「どういうことなんですか?」
「つまり私が…彼女を生み出した元凶の一人なんです」
ミカエルは頭を上げると、ラグナロクプロジェクトの真相について話し始めた。
「プロジェクト初期……私は、最強の天使を生み出す一環として、試作機の素体の元になりました。私の身体を研究して、そうして産まれた存在が彼女、フィアネリスです」
ミカエルは手から光を出すと、ある映像を見せる。それは、機械の天使の内部構造だった。
「フィアネリス、正式名称、fine試作機、彼女は本来仮初の魂しか持たない感情も心もない機械の天使として生まれるはずでした」
「はず?」
「ええ、素体が完成した時に、魂を宿す際に、仮初の魂ではなく、誤って本物の魂を入れてしまった。それにより彼女は、機械の身体を持ちながらも普通の天使として産まれた。そのおかげで、彼女に感情と心が芽生え、機械の天使を作ると言う計画は破綻、プロジェクトは公にバレてしまい、凍結されました。これが、公的なプロジェクトの記録です。でも、それも違った」
「違った?」
アレやこれやと話が移り変わる中、神癒奈は疑問を浮かべる。それに答えるようにミカエルは話を続けた。
「私は、怖くなったんです。感情も心もないただ戦うだけに作られた機械の天使、それが作られることに。だから私は彼女に宿す魂を、仮初のものから本物の魂にわざと移し替えました」
「つまり、貴方がフィアネリスさんに心を与えたのですか?」
「はい」
フィアネリスが機械でありながら心を持つのは、彼女のおかげなのかと思うと、神癒奈は目を丸くした。だが、ミカエルはそんな神癒奈を他所に顔を伏せる。
「けれど、フィアネリスが地上で戦闘を行い、データを収集してきたことによって、凍結された計画は再び稼働を始めました。計画の総責任者であるネアゼルは、権力を使ってフィアネリスの追放を解除。彼女を天界に戻してもう一度その研究をしました。その結果、産まれたのがあの軍勢です」
ミカエルは顔を伏せたまま話し続ける。
「私は、彼に脅されました。フィアネリスを渡さないと、未完成の軍勢を率いて天界にいる天使達を虐殺すると。従うしかなかった。彼女の命ももちろん大切でしたが、それ以上に天界の全てが大切だった。だから、彼女を引き渡してしまった。でも、それは間違いだった。彼女を引き渡したことにより研究は完成し、天界は今、機械天使達に襲われ、大混乱の状況に陥っています。どっちを選んでも、彼は天界を破壊するつもりだったんです」
遠くから聞こえる爆発音を聞き、ミカエルは涙を流し、崩れ落ちる。
「私は…選択を間違えました! 一人の娘のような存在を守れず、天界の仲間達も守れず、私のせいで、多くの犠牲者が出てしまった! あそこで反抗し戦う事を選択していれば、きっとこんなことにはならなかった! 私は、中途半端な選択を取り続けたせいで、多くの者を不幸にしてしまったんです!」
「…ミカエルさん」
涙を流すミカエルに神癒奈が近づくと、彼女を抱き上げた。
「…確かに貴方は間違いを犯したかもしれません、でも、怖かったんですよね? 選択をするのが」
そう言うと、神癒奈はミカエルの背中をさする。神癒奈には、彼女の感情がわかっていた。自分だって、これまで選択を取る時が怖いと思う時があった、最初に永戸と会った時も怖かったし、日々の中で戦うことに関しても怖かった。だから、彼女の痛みが理解できた。
「教えてください、どうしたらフィアネリスをたすけられますか?」
「…彼女は今、多くの魂の奔流に晒されたせいで本来の自我が潰された状態。とにかく彼女に近寄って、ひたすら語りかけて、彼女の目を覚させてあげないと…、でも、それをしたとしても、帰ってくるかどうかは…」
「それでいいんですね?」
すると神癒奈は、背中に夜廻桜を背負うと、準備を始めた。
「何を…」
「フィアネリスさんを助けに行きます」
「…!」
助けに行くと言い出した神癒奈を、ミカエルはじっと見つめる。
「いいん…ですか? この役目は、本来はプロジェクトの呪縛から解放するために私がやる役目で…」
「私は、フィアネリスさんの友達です。友達なら、困っている友達を助けてあげないと」
「しかし、彼女と戦うことになるのですよ? あの大勢の機械天使を倒さなきゃならないのですよ? 貴方は、戦う勇気はあるんですか?」
「……正直、フィアネリスさんと戦いたくないです。でもそれ以上に、誰も悲しませたくないし、フィアネリスさんに苦しい事を押し付けたくないんです」
決意をあらわにすると、神癒奈は拳を握り締め、まっすぐ目の前に見えた景色を見た。機械天使が天界を壊そうとあらゆる箇所で暴れ回っている。
「手伝ってくれますか? 大切な友達を助けたいんです」
「ええ、ええ! 私も、彼女を助けたいです! 彼女の、生みの親として」
「…では、行きましょう。アステリスさん、貴方は他の天使の避難誘導を任せます、私たちが戦いますので、貴方はできるだけ多くの方を助けてあげてください」
「分かりました。では神癒奈様…ご武運を」
そうしてアステリスは一人、天使達の避難誘導に向かった。神癒奈とミカエルは並んで立つ。片方は自分の作った子を救う為、片方は友達を守るために。
「行きましょう!」
「はい!」




