落ちていく影
一度教会から出て、神癒奈とシグナイトは教会の中を振り返った。やっぱり見た目は普通の教会だ。
「アヌバがどんなウイルスか分からん以上神癒奈っちの嗅覚に頼るっきゃない、で、なんであの教会が嫌やったんや?」
「生気を吸われてる気がしたんです」
神癒奈は通りに戻りながら話をする。
「生気を吸われて…えぇっ⁉︎ そんな感じ全然せんかったけど!」
「短時間なら確かに何も感じないでしょうね。その程度なら少し調子を崩す程度で済みます」
「まぁ確かに、若干肩が重いような、そんな気はすんやけど」
「けど、あの場に居続けたら、間違いなく危なかったです」
近くのベンチに座って、教会の様子を見る。
「…一度メディカルチェックを受けてみてください」
「わ、わかった、神癒奈っちの頼みなら…」
そう言うと神癒奈とシグナイトはメディカルチェックを受けにいった。
簡単な血液検査などを受けて、2人は検査結果を待つ。そして、検査結果が出た時、2人は驚愕した。
「アヌバウィルスに……感染しとる⁉︎」
「…やっぱり」
ウィルスに感染してると判断された瞬間、2人は隔離用の部屋に送り込まれた。そこには、他にも感染したメンバーもいた。
「シグナイト、お前まで感染したのか⁉︎」
「そうらしいなぁ…アンタらはなんで感染したん?」
「あの教会に行ったんだ、あそこに行って会話してたら相方が倒れて…帰ってきてメディカルチェックを受けたら感染したって…」
奥のベッドには感染したメンバーの相方らしき人物が横たわっていた。
「……この人、このままでは死にますね」
「あぁ…体調も優れなくて、アヌバの末期患者になってるってさ」
すると神癒奈はベッドに横たわる人物に手を当てた。その後、ふわりと暖かな気が走り、ベッドにいた人の顔色が良くなる。
「何をしたんだ?」
「私の生気を分けてあげました。少ししたら体を動かせる程度には回復すると思います。でも……ウィルスがある以上、余命が伸びただけですね」
「ありがとう…」
そうすると神癒奈はベッドに腰をかけた、シグナイトは神癒奈が何か知ってるのに気付いたのか、彼女に問いかける。
「神癒奈っち…生気だのなんだのとやけに詳しいやんけ、ひょっとしてアンタ…アヌバがどんなウィルスか気づいとるんちゃうんか?」
「大まかには…ですけどね」
そう言うと神癒奈はウィルスの全貌について話し始めた。
「アヌバ患者は正確には病気なんかじゃありません。正確には……ウィルスから生気を吸い取られてるんです」
「…まさかと思うけど今この瞬間もか?」
「はい」
「いやーーーーー! 死にとうないーーーー!」
シグナイトが聞くんじゃなかったと後悔するが、神癒奈は話を続けた。
「で、あの教会が恐らく病気の蔓延の元でしょうね。あの教会に入った瞬間から、ウィルスの感染は始まったと捉えていいでしょう」
「つまりはあの教会がまずいんか⁉︎ 他のメンバーに通達せんと!」
そう言ってシグナイトはEフォンから皆に連絡を取る。
「裏が取れるまでは分かりませんけどあの教会に近寄るのは避けた方がいいですね」
「わ、わかった…そう連絡をと…ぁっ…」
シグナイトが連絡を取ろうとした時、彼女はふらっと倒れかけた。神癒奈は慌てて支えて彼女をベッドに寝かせ、生気を与える。
「っとっ…これは、定期的に皆さんに生気を与えないといけませんね」
「助かる…てかなんで神癒奈っちだけ無事なん?」
「私は生死について研究してきた妖狐の末裔で神様ですからね、不死な分ウィルスの効果を受けてないんだと思います。多分このウィルスは私からはすぐに消えると思います」
「ズルい! …いやでも待てよ、つまりはアンタから生気を供給すればウチらも無事ってことかいな?」
そうですねと神癒奈は答え、他の四課の情報を見てみる。他の四課のメンバーは無事に活動できているようだ。
「…今は他の方に調査を任せるしかないですね…」
ーーー
一方、教会前の建物の上では、コリーとエイルが教会内を監視していた。
「神癒奈ちゃんからの情報だと教会が怪しいって聞いたけど…」
双眼鏡を持ち、各種センサーを設置してコリーはじっと教会を見続ける。
「なーんもわかんない、センサーには全部正常って書いてあるし」
「でも……神癒奈さんの言う通りなら通常の手段では検知することはできないって」
「そこだよね〜、直接中に入って確かめるしか方法はなさそうだけどそんな事したら感染するらしいし」
配給からこっそりパクってきたドーナツを食べながらコリーはひたすら調べる。
「…それ、食べてるのバレたら怒られるんじゃ…」
「いいんだよ、どうせ消費されるもんだし」
食べる? とコリーはエイルにドーナツを半分差し出す。遠慮しますとエイルは言うと、センサーに目を通す。その時だった。背後に異様な気配を感じた。
「「っ!」」
2人はすぐに戦闘態勢に入る。エイルは二課で使われている破砕用トマホークショットガン"ドアノッカー"を2丁両手に持ち、コリーは武器を取られることがなかったのか、いつも使っている拳銃"ピアサー36"を構える。
そこにいたのは黒い天使の姿をした影だった。やや抽象的な見た目ではあるが、2人は影を警戒する。
すると、影から線が伸びてきた。
「危ないっ!」
2人は回避するが、線が通ったところはスパリと何もかもが切れていた。
「これは…一体どんな敵なんでしょうか⁉︎」
「分かんない! けどやるっきゃない!」
コリーは試しに拳銃を撃つ。それは命中するも、敵の体をすり抜けた。
「効いてない⁉︎」
「実体がない敵なのでしょうか!」
今度はエイルがショットガンを撃つ。今度は白銀弾が装填された弾だ、命中すれば効果は出るはず。が、その弾もすり抜けていった。
影がケタケタと笑いながら2人に迫る…その時、2人は影から一本の線がどこかに伸びているのを見つけた。
「…コリーさん! あの線…!」
「追いかけてみます!」
エイルはそのまま影と交戦を続け、コリーは線を追いかける。
「こちら…です!」
ショットガンの先についた斧をぶつけるもやはり効果がない、物理攻撃そのものが効かないのかとエイルは悩みながらも抵抗を続ける。
一方、コリーは伸びていた線を追いかけていた。そして、その線の先にあったのは、この街の住民だった。
「あら、イストリアの兵士さん、どうかしたのかしら?」
住民からあの影に向けて一本の線が伸びている。だとすると…とコリーは考えて拳銃を向けた。
「そんな危ないものを取り出して、一体どうかしたの? 私は悪いことなんて一つもしてないわ」
「……!」
本当に撃っていいものか、コリーは焦る。あの影から線がこの住民に伸びていたとなると、この住民を撃てば何か変化がある。だが、コリーの銃に装填されているのは実弾だ、間違えて殺してしまった場合、大変な事になる。
撃つべきか悩んでいる時だった。後方からエイルが飛んできた。
「けほっけほっ!」
「エイル先輩! …なっ…!」
先程の影がエイルに迫る。エイルはショットガンを撃ち続けるが、先程同様効果がなかった。
やはり影から住民に向けて線が伸びていた。
このままではエイルがやられる。そう思うと、コリーは拳銃を住民に再び向け、引き金を引いた。
「うあぁああああっ!」
何度も何度も引き金を引き、住民に風穴を開けていく。ひとしきり撃つと、住民は何も言わず動かなくなった。
「はぁっ…はぁっ…」
コリーはやってしまったと思い、その場に座り込む。だが、住民を見た時、その疑惑は確信に変わった。
住民から、黒いタールのような血が流れていたのだ。襲ってきた黒い影も消え、住民の方は目が窪み、血を垂れ流す。
「…お手柄ですね、コリーさん」
「……こんなのって、やだよう…」
まだ銃を持つ手が震えている。自らが住民に手をかけてしまったことを悔やんでいるらしい。
「……コリーさん、あなたの判断は正しかった。あなたが撃ってなかったら、私は死んでました…ありがとうございます…」
そう言うとエイルはコリーを抱きしめ、背中に乗せると、他の仲間に連絡を取った。
「今回の事件で重要な物を確認しました。急ぎ調査をお願いします」




