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ヒトとキツネの異世界黙示録  作者: 遊戯九尾
第六章 誰が為に行く英雄と光放つ聖剣
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英雄の条件

 戦闘での能力の使用による身体の変化について、永戸はメディカルチェックを終えて帰ってきた。


「どうでした?」


 帰ってきた永戸に神癒奈は問いかける。

 永戸が出した紙にはこう書かれていた。


【計測不能】


「あー…」

「身体そのものはピンピンしてるけど機器での検査は全くダメらしい、血液の脈動は感じるのに聴診器を当てても心音は聞こえない、レントゲンを撮っても何も映らない、それなのに会話も存在もしてるものだから医療部からは幽霊扱いまでされた…全く」


 やれやれと言いながら彼は自販機でジュースを買い、神癒奈の隣に座って飲む。


「それで、四課の方は大丈夫なのか?」

「はい、皆さん元気を取り戻していつも通りになりましたよ」

「よかった、桐枝も入れて三人だけしか動かないんじゃあ四課は成り立たないからな」


 そう言うと永戸は神癒奈の頭を撫でる。神癒奈は撫でられて気分は悪い気はしなかったが、気になることがあった。


「永戸さん、永戸さんはどうしてアズウルに負けなかったんですか?」

「諦めなかったからだろ? それ以外に何があるって言うんだ?」


 まぁそれも答えですよねと神癒奈は思うと、自分の事を話した。


「あの時、私は無我夢中で戦ってました。確かに無謀だったかもしれません、でも、それでも、諦めたくなかったんです」

「…俺も同じだ」


 ジュースを片手に永戸は神癒奈の話に共感する。


「なんですかね私達、意地にでもなってたんですかね?」

「いいや……いや、きっとそうだろうな」


 否定しようとしたが、その否定を取り消し、永戸は考える。あの時失っていた手を見ながら、永戸は答えた。


「俺もあの時は夢中だった。腕もないし、毒も回ってるしで大変な状態だったけど、不思議と力が沸いていた」

「私達に宿った力は、なんだったんでしょうかね」


 あの時、アズウルに能力抜きに対抗できていたのは永戸と神癒奈だけだった。あの力は、一体どこから湧いてきたのだろうか。


「あの時、私も怖くて、たまらなかった。でも、何故か戦えたんですよね」

「……そうだな」


 ジュースを飲み終えると、永戸は缶をゴミ箱に捨てた。


「あいつのことは、俺だって怖く思った。だからと言ってそのまま死ぬのを受け入れるのは嫌だった」


 手の感覚を確かめながら永戸は言う。


「諦めたくない、その一心だったのは確かだ。あいつに攻撃が通ったのは、きっと、絶望に挫けずにその心を持ち続けていたからなのかもしれない」

「…永戸さんは強いですね」

「お前こそ、よく戦ったと思うよ」


 互いに褒め合うと、二人微笑んだ。


「絶望は、確かに俺たちの心を惑わす深淵より深い闇かもしれない、きっと、また現れるだろう。その時、お前は戦えるか?」

「…戦います。どれだけ深い闇だったとしても、どれだけアレが怖い存在でも、私は、戦います」

「よく言った」


 ふと、そういえば気になることがあった。神癒奈はそれを永戸に聞く。


「永戸さんから見て、アズウルはどんな姿をしていましたか? 私は、お母さんでした」

「……昔の戦友だよ、前に話した、俺にレイマルクを託して死んでしまった友達」


 そう言うと永戸は四課の手帳に挟まっていた写真を取り出した。そこには、若い永戸と、折れてないレイマルクを持った青年がいた。


「ケイ・ハインドウェイン、それが、俺の親友の名前だ」

「いい人そうですね?」

「そうだ、ぶっちゃけただのいい奴だった」


 永戸はその写真を見ながら思い出にふける。


「どんな状況でも立ち上がって、悪を許さなくて、呆れるほどまっすぐで、あいつは、本物の英雄だった。戦死する最後まで、あいつは英雄の精神を貫いていた」


 いい思い出なのか、永戸は彼の顔を思い出しては微笑んだ。


「俺があの時諦めなかったのは、あいつの格好が、ケイになってたからなんだ。あいつがケイの姿を模倣して、絶望を押し付けようとしたのが許せなかった」


 写真を手帳にしまうと、永戸は話を続ける。


「ケイなら、そんな事は言わない、寧ろ、逆の事を言っただろうな。諦めるなって、背中を押されたんだよ、死んだあいつの姿に」


 あの時、不思議と力が沸いてたのはあいつに助けられたからだろうなと永戸は思う。


「やっぱり、永戸さんは強い人です。貴方は英雄殺しなんかじゃない、むしろ、本物の英雄ですよ」

「どうしてそう思うんだ?」


 肩に体を預けてきた神癒奈に、永戸は聞く。


「ケイさんと同じように、どんな状況でも立ち上がって、悪を許さなくて、呆れるほどまっすぐで。貴方も、同じ英雄です」

「それはお前も同じだろう、お前の方が英雄だ。夢を叶えて、人と妖を繋いだんだからな」

「じゃあ、私達は2人とも英雄ですね」


 ふふふっと神癒奈は笑う。それを見た永戸は、出会った時の夢を語る神癒奈を思い出した。


「私は思うんです、英雄になる条件は、そんな難しい事じゃないって」

「英雄になる条件?」


 神癒奈の言葉に永戸は聞き返す。


「どれだけ倒れそうになっても、どれだけ辛くても、立ち上がって、困難を乗り越えて、誰かの前に立つ光になる。それが、英雄の条件なんだと思います」

「…地球にいた頃、そんなことを歌った曲を聴いてたな」


 懐かしいと思いつつ、永戸は共感する。


「そうだな、きっとそうだ。なんだかお前が言うと、なんでも真実に聞こえてくる気がするよ」

「だって私は神様ですから」


 ふふんと自慢げに神癒奈は答える。


「…私は、ここに来れて良かった、人の役に立てて、毎日を一歩一歩踏み締められて、そして、私の夢も叶えられて。とても幸せです。お仕事は大変ですけどね」


 神癒奈は四課での思い出を思い出す…これまでたくさんのことがあった。辛い事も、苦しい事もあった。でも諦めずにここまでやってこられた。


「でも、誰かの光になれる英雄になれた気がします。こうして、過去を振り返ってみると」


 屋敷の中でのんびりと暮らしていた頃とは違う。忙しくて休めそうもない毎日。だけどその中で、自分は英雄になれたんだと、神癒奈は思う。


「永戸さんはどう思いますか?」

「……そうだな」


 大戦が終わって、イストリアができて、そこからなんやかんやで仕事の毎日、汚れ仕事ばかりだけれど、時として、人から感謝をされて、落ち込みそうになった時はみんなに支えられて。ケイのようなただまっすぐに突き進む英雄になったわけじゃない。

 けれど、大切な仲間と守るもののためなら全力を出せる、そんな英雄になれた気がする。彼はそう思った。


「きっと俺も、英雄になれたんだと思う」

「っ…はいっ!」


 静かに微笑む彼の姿を見ると、神癒奈は元気に笑った。

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