四課としての使命
《ミズガルズシティ内部で、開発中の軍の試作兵器が暴走中です、都民の方はすぐに避難をしてください》
都市のサイレンから聞こえてくる情報を耳にしつつ、永戸達は走る。体に新しい能力が宿ったせいか、永戸はどれだけ肉体速度を加速しても問題がないようになっていた。
おかげで全力で走りたい放題だ
「これ学生なら帰宅時間っすよね⁉︎ なんで急に出撃に呼び出されるんっすか!」
「他のメンバーがダメだから呼び出した。これも仕事だ、慣れろ」
「あああああきりちゃんの普通の学園生活がー!」
そもそも四課に普通を求めんなバカタレと永戸は叱りつつも、神癒奈達と走り、目標を確認した。
「目標確認、目標は軍の新型兵器"キラージャック"…? これ無人機じゃないな? 誰かが乗って動かしてる?」
永戸がそのことに気づくとキラージャックから広域音声が流れてきた。
『イストリアの犬どもめ! 出てこい! この私グレゴリー・バートンが粛清してくれるわ!』
「…マジか」
あのバカ議員、脱獄したのかと永戸は思った。記憶処理も施された筈なのに、倒す相手を覚えているとはなかなか執念深い、が、倒す相手には変わらない。
「桐枝、開幕やつに向けてパイルブレードを撃て。どんな分厚い装甲でもお前の能力ならぶち抜けるはずだ」
「あー、それっすけど先輩、なんかきりちゃん、上層部から武器の使用を禁じられたっす」
「…はぁ⁉︎」
思わず永戸が振り向く、すると桐枝が持っていたのは、聖剣やパイルブレードではなく、ただの警棒しかなかった。
「その、きりちゃんの光の能力は武器の攻撃力を大幅に引き伸ばす効果があるらしくって、だからその、通常の武器を持つとその武器があっという間に聖剣やそれクラスの武器になるから、マトモな武器を持たせるなと言われたっす」
「クソ上層部が! 街ぶっ壊れてもいいのか⁉︎」
こんな時にどうすればと永戸は思う。
「あ"ー! こんな時にフィーネやエイルがいればあんな巨大兵器重火器で装甲引っ剥がしてくれるのに!」
「でもいないんじゃ仕方ないですよね…諦めて帰ります?」
「やらなきゃ敵前逃亡で査問会送りだ、嫌でもやるぞ」
そうして三人は巨大兵器、キラージャックの前に立つ。
今度の敵は、前回の反省を活かしたのか、四脚でありながらも装甲で固めたタンクの足になっていて、上半身には多数の砲台が増設され、関節の強度も上がっていた。
『出たな! イストリアの害獣どもめ!』
グレゴリーの乗るキラージャックから、開幕速攻でミサイルと多数の射撃が飛んできた。三人はそれぞれの方向に回避すると、手持ちの武器で応戦を開始する。
「っ!」
力場でガードしながら神癒奈はキラージャックに近寄ると、夜廻桜で上から切りつけた。だが、あまりにも大きすぎるため、装甲の表面を傷つけるだけで終わってしまう。
「だったら!」
地面に落ちる直前にブーストでもう一度ジャンプして敵の攻撃を回避すると、左手を銃に見立て、6発の焔の弾丸を構える。
『絶火六連!』
六回連続の焔のバースト射撃で、キラージャックの装甲に穴が空いた。だが、やはり巨大すぎるせいでダメージが全然入らない。
「ダメです! 装甲表面が硬いし、大きすぎて斬るのが難しいです!」
「能力で刀身を伸ばすことはできるか⁉︎」
「伸ばせますけどここビル街ですよ! そんな事したら周辺のビルまで大惨事になっちゃいます!」
あーもう街を守りながら戦うのって大変! と、無線越しに神癒奈は叫ぶ。続いて桐枝が背後を取った。
「うおおお切れろーーー!」
そう言って桐枝は空中で回転しつつ足に光の刃をぶつけるが、素の武器が警棒なせいで、ガツンっと弾かれた。
「いやーーー! ダメージが入らない! エルメイルちゃんとパイルブレードを使わせて欲しいっす!」
泣きながら砲撃から逃げまくる桐枝。警棒では厳しいのか、盾として弾くくらいしかできなかった。
「神癒奈、道を作ってくれ! 能力を試す!」
「はい!」
すると神癒奈は神の力を行使して地面を壁につながるなだらかな坂に変化させ永戸はその上を走る。永戸に向けて砲撃や銃撃が飛んでくるが、その攻撃は、すべて彼をすり抜けた。
(思ってた通りだ、存在を現世からずらす事で攻撃を回避することができるのか! そして、攻撃するときだけ現世に戻れば!)
空中に飛び上がった永戸は、腰から小型のデバイスを取り出した。するとそのデバイスは剣状に変形し、彼の専用武器、リヴァンジェンスⅡとなる。
「ブースト!」
ガンブレードのブースターを点火し、一気に飛び込んで斬りつけた、同時に彼は能力を発動させる。
(攻撃を重ねればどうなる!!)
今行った斬撃を模倣し、それを百回行ったように複写してみる。すると、永戸の行った斬撃が、百回分の一撃となってキラージャックに命中し、装甲を抉った。
「通った! ならば!」
ガチャリとガンブレードを構え、砲弾を撃つ。パイルブレードより威力こそ落ちたが、連射が可能になったそれは、複写によって弾丸が複数に増えて放たれ、一点に集中して命中し、装甲に穴を開けた。
「よし…攻撃は通る…けど」
この三人の武装ではあの分厚い装甲を抜いて内部まで破壊するのには骨が折れると思った。永戸はやはり他の四課メンバーの助けが欲しいと思った。
ーーー
彼らが戦っている時だった…オフィスに残っていた四課のメンバーはテレビのニュースから彼らの戦いを見ていた。
《見てください! イストリアのエージェントが巨大兵器と戦っています! ですが巨大兵器は健在、近くの都民の方は速やかに避難を! きゃあっ!》
テレビの生中継で人気のお天気お姉さんが必死に報道しているが、報道してるところに桐枝が吹っ飛ばされてきた。
《あー失敬! 邪魔をして悪いっす! 兎に角、都民の皆様方は避難をよろしくっす!》
桐枝がマイクを借りてテレビカメラの前でそう言うと、敬礼をして、諦めずにキラージャックに向けて走り出した、あまりの光景にお天気お姉さんもぽかんとしたが、すぐに報道に戻った。
その光景を、四課のメンバー達が見ていた。
「……ダメだ、現在の三人じゃあ火力が足りない」
「それだけではありません、都民が集まるビル街だから本気が出せないのですよ、このままでは…」
街により被害が及ぶ、その場の全員がそう思った。
「神癒奈ちゃん…桐枝ちゃん…」
「永戸…先輩…」
ライやフィアネリス、コリーにエイルが心配する中、ユリウスは戦う彼らを見てこう思う。
(彼らが必死に戦う中、我々はただ指を咥えて見ているだけでいいのか?)
ユリウスは、己の無能さを恥じた。自分の部下であったはずの、自分より遥かに若い戦士達が、今なおこうして戦っている事に。彼らは絶望に飲み込まれず、四課としての使命を果たしていた。
なのに自分達はどうだ? 絶望に押しつぶされ、恐怖に怯えて見るだけしかできなくなっているではないか。
「……諸君」
ユリウスは、重い口を開けて、その場にいたメンバー全員に問いかけた。
「我々は、異世界特別調査隊四課だ。世界を守るためなら、どんな汚名だって、汚れ仕事だって行う死神の部隊だ」
ユリウスの言葉に、全員が耳を傾ける。
「我々は戦闘のプロフェッショナルだ、なのに、こうして、仲間が必死に戦っているのを見る事が、本当に我々の仕事なのかね?」
「…違う」
「違います」
「違うよ」
「違うと…思います」
それを聞くと、四課の隊員達は全員否定した。皆同じ気持ちだった。仲間が戦っているのを黙って見てられないと。
「……彼らは絶望に襲われてもそれでもなお戦った。そして、今もこうして戦っている。彼らは立派な戦士だ」
ユリウスは目を閉じて、アズウルと相対した時のことを思い出した。突きつけられた絶望、理解できない事象、普通なら諦めるところを、彼等は諦めずに戦おうとした。彼らは、四課としての使命を果たしている。
「……諸君、今一度問う、我々はなんだ」
「異世界特別調査隊…」
「四課です」
ライとフィアネリスが答える。
「ならば彼らはなんだ?」
「同じ部隊の…」
「仲間です!」
エイルとコリーが答える。
「ならば…」
テレビの映像を消し、ユリウスは立ち上がる。瞼を閉じて、深呼吸をすると、彼は答えた。
「我々は、彼らと共にあらねばならない」
ーーー
ビル街での戦闘は長期戦と化してきた。
「げほっげほっ! え、エイル先輩の地獄のトレーニングのおかげっすかね…まだ走れてるっす」
桐枝は落ちていた看板を手に取ると、光を発生させ、簡易のバトルアックスとしてキラージャックに振るった。だがやはり威力がでないのか、看板がへし折れるだけだ。
『大花火五連!』
神癒奈と爆炎で攻撃するが、爆発しても装甲が傷つくだけで内部まで攻撃が通らない。
「永戸さん! 聖剣を!」
「あぁ、一か八かだ!」
そう言うと、彼は聖剣を引き抜き、魔力を循環させる。以前のレイマルクの時と違う、倍以上の刀身の長さの光が溢れ出た。その刀身をより短く、集中させるように尖らせると、彼は叫ぶ。
「光を宿せ! イクセリオス!」
刀身を一点集中させ、高出力となったイクセリオスを斬り上げた、その時、初めてまともなダメージが通った。だが、同時に大きな隙を見せてしまう
『叩き落としてくれるわ!』
砲撃がバカバカと撃たれ、永戸はもろに喰らってしまい、地面を転がり落ちる。
「くそっ…!」
イクセリオスで防いだのはいいが、能力の行使のしすぎで身体のノイズが酷くなってきた。これ以上の能力の使用は危険だ。
「永戸さん!」
神癒奈がやってきて、永戸の状態を回復させる。だがその間も無防備に敵に姿を晒すだけとなっていた。
「くぅっ!」
ノイズは消えたが砲撃の圧が凄すぎて守ることしかできない、頼れる火力は永戸のイクセリオスだけだ。
そう思っていた時だった。
遠くのビルからきらりとスコープの反射光が映る。そして次の瞬間、キラージャックの背中を、重戦車砲の砲弾が撃ち抜いた。
『なんだ⁉︎ 新手か⁉︎』
キラージャックは周囲を見渡す。
「味方⁉︎ でも一体誰…⁉︎」
神癒奈がそう言うと、無線越しにこう聞こえてきた。
『お待たせしました!』
「その声…コリーさんですか⁉︎」
『はい! 三人とも、迷惑をかけてごめんなさい!』
コリーがいるならフェイタルポイントで装甲を撃ち抜いて引き剥がせる。そう思って永戸は指示を出そうとした。
「コリー、フェイタルポイントでひたすら奴の装甲を引き剥がせ!」
『その役目は、他の人がやってくれます!』
「他の人って⁉︎」
永戸が聞き返すと、空に一筋の流星が流れた。
『試作型バルムンク、発射します、衝撃にご注意を!』
強力な大型ミサイルがキラージャックに命中し、大爆発を起こす。そして、その爆風の中から駆け抜けてきた流星が、砲撃を受けていた永戸と神癒奈を掴んで安全圏まで運んだ
「フィーネ!」
「はい♪ いつも頼れる、どこにでもついていく天使のフィアネリスです」
二人を下ろすと、フィアネリスは敬礼をして、そのまま飛び去っていく。
『ここからは不肖このフィアネリスも戦闘に参加します、マスター、指示を!』
「聖剣の力で一気にぶち抜きたい、けど装甲が分厚くて抜けないんだ! ありったけの火力でやつの装甲を剥がしてくれ!」
『了解しました! だ、そうですよ、エイルさん』
『は、はい…! えへへ、こんなに大火力を持ち出したのは、久々です…♪』
無線から次々と聞き慣れた声が聞こえてくる。
「ぎゃーーー! 死ぬーーー!」
桐枝が必死に走り回ってると、正面から多脚型の重戦車…いや、エイルがやってきた。
「桐枝さん、頭を下げててくださいね……今からとっておきをぶっ放しますから…♪」
「その声、エイル先輩…ひっ⁉︎」
桐枝はエイルの姿に気付くが、とんでもない事に気がついた。馬鹿でかい砲を持ち、こちらに銃口を向けていたのだ。
「モンスター荷電粒子砲…これを久々にぶっ放せるだなんて、夢のような時間です…♪ いきますよぉ♪」
「お、鬼ーーーーっ!」
桐枝が伏せた瞬間、エイルの荷電粒子砲が火を吹き、キラージャックの装甲をぶち抜き、風穴を開けた
「そ、それ、使用に許可がいる超ド級の荷電粒子砲だろ⁉︎ 街中でぶっ放していいやつじゃないだろ!」
「いいんですよぉ、だって…射線状のビルは…」
「私が、守っているからな」
荷電粒子砲の一撃から、ライがビルを守っていた。これなら問題なくどんな武器も振り回せる。その時、通信が再び聞こえてきた。
『永戸君、ここまでよく頑張ってくれた』
「課長!」
その声は、ユリウスの声だった。
『すまない、君と神癒奈君に世話をかけてしまったね』
「いいんですよ、今更」
『我々は、四課としての使命を忘れていた。君達のその頑張りが、我々にもう一度、その使命を教え、勇気を与えてくれた。感謝する』
通信が切れると、永戸は大きな声で全員に指示を出した。
「全メンバーに通達する! 最大火力であのデカブツをスクラップにしてしまえ!」
『了解!』
その声と共に、全員が一斉に攻撃を始めた。
「桐枝さん、上層部から許可が降りて聖剣を持ち出してきました、使ってください…♪」
「助かるけど次それ撃つ時はきりちゃんの前で撃たないで欲しいっす!」
慌てて走ってきた桐枝がエイルの背中になると、そこにあったケースから聖剣エルメイルを手に取った。
「叩き切れ! エルメイル!」
聖剣から光が放たれ、極大なレーザーブレードとなる。それを桐枝は振り下ろすと、キラージャックの片腕を切り落とした。
『んなっ⁉︎ そんな馬鹿な⁉︎ また、やられるわけには!』
「お次はこちらですよ」
フィアネリスが低空を飛行すると、そのまま地面を滑り下から波動砲で脚部をつなぐユニットを撃ち抜いた。これでキラージャックの動きは止まる。
その次に…遠くから重戦車砲がもう片腕を撃ち抜き、腕の機能を停止させた。
「フェイタルポイント効果確認! 行けるよ!」
「荷電粒子砲二射目…いきまぁす♪」
エイルが再び荷電粒子砲を撃ち、装甲を飴細工のように溶かす。
すると、キラージャックのコアが露出した。
「神癒奈、合わせるぞ!」
「はい!」
永戸と神癒奈が、砲撃の雨あられの中、キラージャックのコアに向けて走った。
『やめろぉ…来るな! 来るなぁあああああ!』
怯えたグレゴリーが砲台を乱射してくるが、永戸達はそれを乗り越えるとコアの前に到達する。
「これで!」
神癒奈は刀に焔を纏わせて構え…。
「トドメぇえっ!」
永戸は聖剣に光を宿し、振り上げる
そして、同時に攻撃をした瞬間、キラージャックのコアが破壊され、そのまま爆散する。
空から、コックピットブロックが降ってきた。
ガツンと地面に落ちると、中からグレゴリーがころりと出てくる。
「ひぃいいっ! 化け物ぉ!」
彼は逃げようとするが、速攻で押さえつけられた。
「グレゴリー・バートン、脱走に強奪その他諸々の罪で再逮捕する!」
永戸がそう言って手錠をつけて彼を刑務所に転移させると、周りを見渡した。絶望していた仲間達が、永戸達の努力を見て再び立ち上がってくれた。
「ありがとうな、みんな、戻ってきてくれて」
そう言うと、絶望から抜け出したメンバー達は、頷いてくれた。




