零
永戸が起きたと聞いて、医務室へ向かう神癒奈達、部屋にたどり着くと、そこでは永戸がのんびりEフォンを触っていた。
「永戸さん!」
「先輩!」
「来てくれたか。元気そうだな」
神癒奈と桐枝はベッドの横の椅子に座ると、永戸に質問をした。
「傷や毒はもう大丈夫なんすか?」
「あぁ、腕も治ってるし、毒も治療されてる……ただ……」
「ただ?」
すると永戸は心電図の方を指差した。そこには、ピーーーッと音を立てながらなんの動きもない心電図が映し出されていた。
「ぎゃぁああああ! お化け!」
「永戸さんが死んでます⁉︎ でも生きてる⁉︎ なんで⁉︎」
「そうびくつくなよ地味に傷つく」
椅子から転げ落ちて部屋の隅でガクガク震える二人に対して、ちょっとしょんぼり顔になる永戸、だがすぐ調子を戻すと、こう答えた。
「正確には、機械が俺のことを認識してないらしいんだ」
「どういうことですか?」
すると永戸は、近くの机にあった差し入れのリンゴを指差した。直後、テーブルからリンゴが消え、気がつくと彼の手にリンゴが握られていた。
「ぎゃぁああああ! マジック⁉︎」
「なんでリンゴが瞬間移動したんですか⁉︎ 永戸さんは魔法使いだった⁉︎」
「いちいち驚くなバカタレ」
再び部屋の隅でガクつく二人にため息をつくと、永戸は二人に質問をした。
「今、リンゴが瞬間移動したって言ったな?」
「言いましたね?」
「今リンゴは瞬間移動したんじゃなくて、俺に取られたんだよ」
「? でもそんな動き見えませんでしたよ?」
永戸が自分で取ったときくと、神癒奈と桐枝はどう言うことだろうと首を傾げる。それを見ると永戸はこう答えた。
「これが俺に与えられた新しい能力、"零"と呼ばれる力だ」
「…零?」
「なんすかその厨二臭いネーム」
「桐枝、そろそろ医務室から放り出すぞ」
なんでーっと桐枝が嘆く中、永戸は能力の説明をする。
「俺の体はここに存在してるが、ここに存在してない、同じ場所でも、別の時間軸に存在してるんだ」
「どういうことですか?」
「そうだな…お前らがいる現世を普通の時間として、俺がいるのは、その普通の時間から隔離された別の時空って事だ」
「あー、同じラジオのチャンネルを聴いてても、違う番組を聴いてる、そんな感じっすか」
「大体そんな感じだ」
そう言うと、手にあったリンゴは、今度は皿に乗ってパカっと綺麗に切られた状態になった。
「で、今やったのは動作の短縮だ。今リンゴは瞬間で剥かれ、切られたように見えたが、実際には別の時間軸の俺が、その時間軸でリンゴを剥いて、本来の時間軸なら物を取ったり、物を剥いたりするその動作がされるのを時間をずらすことで短縮したってわけ、だから瞬間移動したり、パカっと開いたように見えたわけだ」
「成る程…」
納得こそしたが、だが、それとこれが何故アズウルに効いたのか、神癒奈は分からなかった。
「で、何故アズウルの大量の影にその能力が効いたんですか?」
「時間を巻き戻して、無かったことにしたんだ」
「無かったことにした?」
すると永戸は再びりんごに指を差した。テーブルに置かれたりんごだが、気がつくと、剥かれた状態から元の形に戻っていた。
「わっ、元に戻ってます、切られた跡もないです」
「今みたいに、俺が指定した対象の時間を戻し、起きた出来事を起きる前まで戻すことができる。その力を利用して、アズウルが出した影を、出す前まで戻して消したってことだ」
「ほーーーっ、凄い能力ですね」
今までの能力とは違い、複雑なシステムから、二人は特別な力を感じた。
「で、どうしてそんな能力が永戸さんに宿ったんですか?」
「それは…さっぱりわからん」
「分からない?」
「分からない」
うーんと永戸はその時のことを考えた。すると彼はあっと何かを思い出した。
「ただ一つ、声を聞いたな」
「声?」
「何かが泣く声だ、助けてって声が聞こえたから、その声に応えるように手を伸ばしたら、いつの間にか使えるようになっていた」
永戸は口に手を当てて考え込むと、ある一つの仮説を出した。
「俺が思うに、アレは世界そのものの声だったんじゃないかと思う」
「世界そのものの声、どうしてそれが聞こえたんでしょうか?」
「多分、答えはアズウルというイレギュラーだろうな」
永戸は再びリンゴを、今度は普通に剥くと、一人齧りながら答えた。
「アズウル自体が、世界を滅ぼす病原菌で、それで苦しんだ世界が、俺に対してカウンタープログラム、つまりはワクチンとしてこの能力を与えたんだと思う」
剥いたリンゴを一つずつ二人に配ると、永戸は話を続ける。
「間違いなく言えるのは、この能力は能力者を殺す為の力だ、普通に使っても強いが、この能力はなり損ないや能力者に対して、ある種の特攻のような力を持っている」
「凄いじゃないですか! これがあれば、四課の戦いがどれだけ楽になるか!」
神癒奈は絶賛するが、永戸は俯いた。
「だが、同時に代償がある」
そう言うと、永戸は自分の手を出した。するとそこには、ノイズがかかったように手がざらついて見えた。
「使えば使うほど、俺はこの世にとどまれなくなる。存在がどんどんずれていって、そして最後には、消えてしまうんだ」
「そんな……」
「デカすぎるデメリットじゃないっすか!」
二人はそれを聞くと、使っちゃいけない能力じゃないかと思うが、ここで神癒奈はあることを思い出した。
「っ! そうです! 手、貸してください」
「? あぁ」
ポフッと神癒奈の手の上に自分の手を乗せる、すると、神癒奈が神の力を行使し、直後、永戸の手にあったノイズはまっさらに消えた。
「…直った?」
「…永戸さんが初めて能力を使って倒れた時にたまたま気づいたんです」
「なぜ……ああそうか、神癒奈が俺を現世にとどまらせるアンカーになってるんだ、能力を使えば存在が消えていくが、神癒奈と一緒にいて、逐次俺の存在を現世に戻せば、そのデメリットがなくなるのか」
「じゃあ、二人一緒ならば無敵っすね! 凄いっす!」
そう言われると、二人は照れ臭くなる。
「これなら、今度またアズウルが来た時、戦えるんすね!」
「…あぁ、そうだな」
希望が見えてきたと桐枝がテンションを上げているのをみて、永戸は笑う。神癒奈も、永戸が強くなり、無事に戻ってきてくれたことに、嬉しく思った。
ーーー
「もう歩いていいんですか?」
「いいだろ、どうせ心電図とかとっても無駄なんだから」
イストリアの廊下を永戸は神癒奈と歩く。桐枝はこのまま残らせても可哀想なので帰らせた。
「そういえば、聖剣も新しくなりましたよね?」
「あぁこれか、これも世界のプレゼントらしいな」
永戸は背中に背負った新しくなった聖剣を手で確かめる。
「レイマルクでも充分強かったが、この剣、俺用に新しく作られたせいか、すっごい馴染むんよな…折角だから新しく名前でもつけるか……イクセリオス、なんてどうだ?」
「イクセリオス…いいですね! かっこいいです!」
そんな話をしながら、二人は四課のオフィスへと戻った。
「陽宮 永戸、ただいま帰還しました」
部屋に戻ると、全員が永戸の顔を見てきた。
「永戸…お前…」
「先輩! 無事だったんですか⁉︎」
「マスター! もう動いて大丈夫なのですか⁉︎」
「永戸先輩…い、生きてますよね?」
四課の皆が永戸のことをすごく心配するが、まぁ待て待てといい、全員を並ばせると、一人ずつゲンコツを喰らわせた。
「痛っ!」
「い"っ!」
「あふん」
「ゔっ…」
痛みで全員が悶える中、永戸は全員を叱った。
「お前ら、この中で1番新人である神癒奈に情けない姿を見せたそうじゃないか、それでも、死神部隊である自覚あるのかよ」
そう言うと、永戸は一人ずつ叱り始めた。
「ライ、四課の盾役であるお前が何絶望に飲まれてるんだ、お前は皆を守る盾だろう、その盾が1番先に逃げ出すのか?」
「それは…確かにできないが」
ライは永戸の言葉を聞くと、悔しく思ったのか歯を食いしばった。
「コリー、俺たちを後ろから支えてくれるのはお前だろう、お前がいないと援護も何も飛んで来ないんだぞ、後方でお荷物に成り下がりたいのか?」
「嫌です! でも…あの時は」
コリーははっきりと拒否したが、だが、アズウルのことを考えると震えた。
「フィーネ…お前は俺の従者だ、その従者がなんで俺に何もできずに叱られてるんだ。いつもの強かなお前はどこにいった。俺の知るフィーネは、いつだってどこにでもついてきてたぞ」
「マスター…しかし」
絶望に飲み込まれて何もできなかったのが無念に思ったのか、彼女は頭を下げた。
「エイル。優秀な四課の便利屋のお前がなんでバックアップをしないんだ。火力支援や物資支援はお前がいないと成り立たないんだぞ、元気を出せ」
「永戸先輩……でも」
エイルは元気を出そうとも、あの時目にした絶望を思い出すと、顔を背けた。
全員を叱った後、永戸はユリウスのところまで向かう。
「……課長」
「…何かね?」
やつれた顔をしたユリウスを、永戸が見る
「課長のそんな顔を見るのは大戦以来です。四課を率いるのはあなたです。その貴方が、何故腐ってるんですか」
「…勝てるわけがないと思ったからだ。アレは神癒奈君の危険度を遥かに上回る、世界を滅ぼす装置だ」
「だから諦めて死を選ぶのですか? 貴方がいなければ四課はまとまらない、皆を見てください」
永戸はユリウスに皆の様子を見せた。ライ達は悩み、苦しんでいて、神癒奈もさらに心配している様子だった。
「…彼らを動かすのは貴方です。その貴方がその様子では、四課は崩壊してしまいます。どうか、心を強く持ってください」
「…永戸君」
そう言っているうちだった、出撃要請が回ってきた。全員がそのタスクを見るが、動けずにいた。
「…こんな時に出撃か、神癒奈、桐枝に連絡して連れ戻せ、臨時で俺が指揮を取る」
「永戸さん?」
そう言うと永戸はテレビをつけ、映像を流した。映像には、ミズガルズシティにて、暴走した巨大兵器が映っていた。
「行くぞ神癒奈、ここにいるバカどもに、ちょっくら先輩としての威厳と後輩の意地を見せつけに行こう」
「っ! はいっ!」
そう言うと二人は、四課の他のメンバーを残して出撃していった。




