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ヒトとキツネの異世界黙示録  作者: 遊戯九尾
第六章 誰が為に行く英雄と光放つ聖剣
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絶望を切り裂きし者

 神癒奈を覆った影、それを切り裂いたのは、片腕を失った永戸だった。


「へぇ…腕を無くして、毒もまだ治癒されてないのに、まだ立ち上がるバカがいるんだ」


 アズウルはボロボロの永戸の姿を見て笑う。だが永戸は言い返した。


「バカだって? それこそ笑う話だ」

「何?」


 片手で剣をアズウルに向けると、永戸は絶望に怖けずに言った。


「たかが人のトラウマ掘り返す格好程度しかできないお前みたいな奴が、人間を語るな!」


 そう言うと永戸はへっと笑って見せた。神癒奈にはアズウルの存在が母親である八尾乃の姿に見えた。永戸にとってはじゃああれは何に見えているのだろうか。


「だが、キミは満身創痍じゃないか、見てわからないのか? この敵の数を、こんな数、キミなんかには倒せないだろう」

「やってみなくちゃわからねぇだろうが!」


 次から次へと襲う影を、永戸は切り裂いていく。それを見たアズウルは驚愕した、彼が神癒奈と同じように、まだ希望を失っていないことに。

 数々の影にボコボコにされて吹き飛ばされようとも、彼は立ち上がり、歩き出した。

 ゆっくりと歩み、飛び掛かる影を一匹ずつ狩りながら、神癒奈の前に立つ。

 大量の敵が永戸達に飛び掛かる。

 その大量の敵を、永戸は剣の一振りで薙ぎ払った。


「よくみれば大した事ない。こんな敵だって、ただ数を揃えただけの雑魚にすぎない」

「だったら、より強い敵で相手してやるよ!」


 永戸達の前に山のように巨大な敵が立ち塞がる、そしてその敵は拳を振ると、二人に殴りかかってきた。それを永戸はガードするも、リヴァンジェンスⅡはバラバラに砕け散った。だがそれでも、彼は己の身体だけで防ぐ。


「永戸さん!」


 敵の攻撃を防ぎきるも、永戸は限界を超えているのか、地に膝をついてしまう。思わず神癒奈は叫んだ。

 だが、彼は少し息を吐くと、ゆっくりと立ち上がった。

 腰のポケットから聖剣の核だった石を取り出すと、それを構える。もう武器として機能しないその石を、無理やり武器として使う気だ。


「諦めろ! この絶望の中で、もがく事なく死ぬがいい!」


 先程とは段違いの大量の敵が、永戸と神癒奈に襲いかかった。その時、彼は叫んだ。


「まだ、諦めるものか!!!」


 石を手に、まっすぐ天に手を突き出した、次の瞬間…。

 空から光が落雷の如く落ちてきた。

 光が闇を切り裂き、永戸に宿ると、彼の失った腕は再生し、彼の握る石が変化し、剣の形に作られていく。そして彼がそれを振るうと、目の前の絶望的な景色が切り開かれた。


「何……?」


 その時、初めてアズウルは眉を歪めた。タダの人が、目の前に広がる絶望を切り裂いたからだ。その場にいたすべての者が、永戸に向く。赤黒い稲妻を発する彼の体は、完全に再生していて、彼の手には新たな聖剣が握られていた。


「絶望を、払っただと?」


 先程まで余裕だったアズウルが、表情を崩す。それに対して永戸は見上げながら言った。


「もう一度言うぞ、たかがお前程度が人間を語るな」


 剣を構え、永戸はアズウルと相対する。今の永戸は全力で戦える状態だ、対してアズウルは理由は分からないがたった一人の人間に自分の力を封じられてる状況だ。


「…くくく、あっははは! 面白い! 面白いよキミは! キミの名前はなんだ?」

「…陽宮 永戸だ」

「ああわかった。永戸、今は僕の負けとして引いてやろう、だがいつかまた、お前の前に現れて、次こそは、真の絶望を埋め込んでやろう。それまで待っているがいい!」


 そう言うとアズウルは影の中に消え、絶望的だった景色も、徐々に元に戻っていった。どうやら、この絶望的な状況から、生き残ることができたらしい。


「…ふぅ」


 永戸はため息をつくと、自分の失ったはずの手を見た。バチバチと手から赤黒い稲妻が流れている。恐らくは、彼に宿った新たな力だろう。もう一度ふぅっとため息をつくと…。


「ぁ…」


 意識が飛んだ。


「永戸さん⁉︎」


 慌てて神癒奈は近寄る。彼の容態を軽く見るが、気絶しただけらしい。ほっとすると、念には念を入れてと彼にアンプルを刺した。


「いでっ」


 気絶しながらもそんな反応を見せる彼に、神癒奈は表情が綻ぶ。


「…生き残った…のか?」

「そうみたいです」


 四課のメンバーが傷だらけで近づき、ユリウスが聞くと、神癒奈は答えた。


「今の存在は…結局何だったんだ…」

「……多分、本当に、絶望そのものだと思います」


 そう言うと、神癒奈は永戸を担いで立ち上がる。


「異世界を滅ぼす本物の邪悪。いずれ四課が相対しなければならない最恐の敵、私は、そう思います」

「それは、神様としての言葉かね?」

「いいえ、生物としての本能です」


 永戸を装甲車まで運ぶと、神癒奈はあることに気づいた。永戸の体の端が、ノイズがかかったみたいに消えていることに。その部位に手を当てると、すぐにそのノイズは消えた。


「みんな、大丈夫ですか?」


 神癒奈が振り返って皆に聞くが、皆、精神的に衰弱している状態だった。ユリウスの方に向くも、ユリウスの方も相当気が持ってかれたらしく、ため息をついていた。


「とにかく、今回のミッションは達成です、帰りましょう」

「あぁ…そうだね」


 そうして全員は役目を終えて、イストリアの本部へ帰還する。


 ーーー


 イストリアの本部へ帰れば、全員満身創痍だった。今回の任務は大規模な長期作戦になり、かつ、アズウルというイレギュラーが出たことによって、傷はともかくとして、四課のメンバーの精神は限界を迎えた。


「あの…皆さん」


 自分のデスクに座り、俯く皆に対して、神癒奈は聞く。アズウルと相対して、精神的に無事だったのは神癒奈と永戸だけだった。

 そんな永戸は今医務室送りで、気絶してて絶望に飲み込まれなかったとしても桐枝も入隊の検査中、この場で正気だったのは神癒奈だけだった。


「お、お茶とか汲んできますね!」


 なんとか場を持たせようと神癒奈はお茶やコーヒーを持ってきた。一人一人に渡していくも、皆暗い顔をしていた、あの課長のユリウスでさえも辛い表情だった。


「…皆さん! しっかりしてください!


 絶望する皆に対して、耐えられなくなったのか、神癒奈は声を上げた。


「アズウルは、永戸さんのおかげで逃げて行きました! 私達は生き残ったんです!」

「でも、撃退しただけだ、永戸がもしいない時に襲撃されたらどうする?」

「そもそも永戸先輩だって今どうなってるのかすら分かりませんからね」


 ライとコリーがそう呟く。だけど神癒奈は負けずに声を上げた。


「私達は異世界を守るイストリアの四課でしょう! その四課が、人を救う前に絶望で苦しんでいてどうするんですか!」

「…いいえ、無理です。あのような敵が相手になってしまっては…いつかまた相対すれば、次こそ我々はあの黒い影に飲み込まれてしまいます」

「私…これまでなんとか生きてこれましたけど……流石にアレは…絶対死ぬと確信しました……無理ですよ、勝てる気がしません」


 神癒奈の激に、フィアネリスとエイルがそう答える。普段は強かな彼女達からしても、勝機がないと、諦めることしかできなかった。


「課長! ユリウス課長! 四課のリーダーである貴方が悩んでてどうなるんですか! 貴方がいなければ、私達は誰の命令を聞けばいいんですか!」

「…残念だが、相手は超常的な存在すぎる。諦めるしかないのだよ…」


 頼りであったユリウスですら、こう答える。


「もういいです! だったら、私一人でも戦っていきます!」


 どうにもできなくなった神癒奈は、一人部屋を出て行った…。


 ーーー


「……」


 一人で食堂でポツンと座る神癒奈、いつもならなんでも頼んで食べまくっているのだが、今日はそんな気分じゃなかった。

 そんな中だった、ある人が戻ってきた。


「やっほー、きりちゃん完全復活っす!」

「桐枝さん!」


 にぱーっとした顔で桐枝がやってきた。彼女は絶望を目の当たりにしなかったせいか、いつもの調子だった。


「どーしたんすかー先輩、浮かない顔をして、きりちゃん、歓迎会とか楽しみにしてたんすよ?」


 対面の椅子に座り、笑顔になる桐枝、それをみた神癒奈は、これまでの経緯を話した。


「ふむふむ、世界を滅ぼす存在、絶望そのもの…なんかまた壮大っすね…でー、神癒奈先輩と永戸先輩が精神的に無事だったと」

「はい…他のメンバーは意気消沈してて、全然ダメで…」


 神癒奈は耳をぺたんと倒しながら悩む。いち隊員である神癒奈が、彼らのメンタルを完全に復帰させるのは、神であっても無理があった。


「んー、これは若人であるきりちゃんの感想っすよ? 冗談半分で聞いてほしいんすけど」


 悩む神癒奈に、桐枝は答える。


「もし仮にきりちゃんの目の前に絶望が現れたら、きりちゃんも絶望しちゃうと思うっす。むしろ、永戸先輩と神癒奈先輩のメンタルが強いのが不思議に思っちゃうくらいっす」

「そうですか…」


 その話を聞いて、神癒奈はしゅんっと落ち込む。だが桐枝はそこで「でも」と付け加えた。


「でも、絶望から人を救い出す方法って、簡単だと思うんすよ」

「簡単?」


 神癒奈が顔を上げると、桐枝は笑顔でこう答えた。


「希望となり、道を示すことっす。きりちゃん、神癒奈先輩と永戸先輩を尊敬してるんすよ?」


 にししっと桐枝は笑うと、神癒奈を指差した


「神癒奈先輩はいつも明るくって、みんなの事を思いやれる凄い方っす、その明るさを少し分けて欲しいくらいっすよ」


 そう言われると、神癒奈は少し照れ臭くなった。


「じゃあ、永戸さんは?」

「永戸先輩も同じっす、本人はあんまり気が付いてないかもっすけど、同じく思いやりがあって、尚且つみんなの前に立って戦う人っす」


 永戸のことを評価すると、それで…と桐枝話を続けた。


「んで、そんな二人はきりちゃんにとって憧れであり道標みたいなもんっす。かっこよくて凄い先輩で、異世界で野垂れ死にかけてたきりちゃんをひろってくれたのは、二人でもあるっすからね。だから……どれだけ苦しくても、先輩達がいてくれれば、なんとかなる、そう思っちゃうんすよね」


 えへへと言うと、桐枝は神癒奈の手を取った。


「神様とかそんなの関係なく、きりちゃんにとっては二人は大先輩なんすよ」


 桐枝のその言葉に、神癒奈は少し救われた気がした。


「だから、みんなを元気にしたいなら、みんなの道を示して、自分たちは凄いんだぞーって見せつければいい、きりちゃんはそう思うっす」

「桐枝さん…分かりました、私、頑張ってみます」


 そう言ってると、Eフォンに通知が来た。


「おっ、永戸先輩が起きたらしいっすよ!」

「本当ですか⁉︎」


 通知を確認すると、本人からメールが来ていた。


「一緒に行きましょう!」

「はいっす!」


 そうして二人は、永戸のいる医務室へと向かった。

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