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ヒトとキツネの異世界黙示録  作者: 遊戯九尾
第一章 絶望を知るヒトと希望を夢見るキツネ
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定めから外れた怪物

 走り出した二人に勇者だった怪物がとても大きな声で吠える。あちこちの家で明かりがつく中、二人は剣と刀を手に怪物へ斬りかかる。


「はぁっ!」

「いきますっ!」


 同時に二人は片腕へ武器を振るうと、見事に腕は斬れるが、血が溢れると思いきやそれが映像が巻き戻されるように体に戻り、腕が再び生えてきた。


「再生の能力が暴走してるのか⁉︎」


 完全に回復した怪物は再び吠え、男へ向けて拳を振り下ろす。剣を横にして男は防ごうとするが、あまりの威力に吹き飛ばされてしまう。


「ぐっ…⁉︎」


 強い打撃を受けて、痛みで膝をつく男。なんとか立ち上がるが、こんなのを次貰えば、今度はタダでは済まないだろうと脳裏によぎった


「大丈夫ですか⁉︎」

「問題ない!」


 怪物と打ち合いながら、神癒奈は男へ声をかける。すると、男はある提案をしてきた。


「この化け物の再生能力はさっきとは桁違いだ、だが、中身はあの勇者な分、もう一度こいつ(鉄針)を突き刺せば、この能力も暴走してあの図体もマトモに保てなくなるはず! 俺が奴をこれで止める!」


 そう話すと、男は手に持つ剣を再び構え、走り出した。鈍い銀色の剣の先端に取り付けられた杭を見た神癒奈は先程勇者に刺した時のことを連想する。

 ただ同時に不安もよぎった。"果たしてこの杭一つだけであの怪物は止まるのか"と。


「援護します!」


 不安がどうにも頭から離れないが、考えていても仕方ない、男に賭けてみようと、彼女は走りだした彼に合わせて、術を使い、炎を放った。


「ーーーー!!」


 生身の人間ならば炭にするほどの業火を怪物はマトモに受け、声にならない声をあげる。

 だが、火傷を負わせても即座に回復し、再び万全な状態へと戻ってしまう。


(傷は入らない……けど、流石に回復してすぐは、それに力を持っていかれて身体を十全にうごかすことができないはずです!)


 しかしそれも神癒奈の予測の内だった。炎はあくまで男に攻撃させるための時間稼ぎに過ぎず、怪物が回復能力に意識を向けて彼に攻撃のチャンスを与えるためのものだった。

 それもあって、怪物は火傷を回復するが、動きが遅くなり、彼に接近を許してしまう。


「穿つ!」


(白銀が使われた杭、どこだって構わない、当たれば奴の動きも止まるはずだ!)


 ゼロ距離まで近づいた男は、怪物の大きな体に剣を突き立て、杭打ち機のトリガーを引く。

 耳を塞ぎたくなるほどの轟音と共に鉄針が放たれ、男は勝ちを確信したが、直後、その期待は虚しく、ガンッ! と音を立てて鉄針は弾かれてしまう。


「弾かれた⁉︎」


 高威力の杭打ち機が弾かれたことに理解の追いつかない男は、命中した箇所を見てみる。すると、そこには、鉄のように硬化した皮膚があった。


(回復の能力を過剰に働かせて身体を硬化させたのか⁉︎ なんてバケモノなんだ!)


「危ない!」

「はっ⁉︎」


 神癒奈の声を聞いて、自らの危険を察知した男だが、既に遅く、怪物は男を前にして眩く光る聖剣を振り上げていた。

 避けようと考える事もなくそれは振り下ろされ、男は背中のケースを突き出してガードするが、ケースごと叩き切られ、ダメージを受けてしまう。


「かはっ……!」


 体を光で焼き切られ、吐血すると共に男は地面にゆっくりと膝から崩れ落ちてしまう。


「大丈夫ですか⁉︎ っ⁉︎」


 神癒奈は慌てて男の安否を心配するが、男のところへ行かせないとばかりに怪物がすごい勢いで走って切りかかってきた。


「っ⁉︎ 逃げられない!」


 横なぎで振られた聖剣を間一髪で避けるが、怪物の攻撃があまりにも早く、神癒奈は追い詰められてしまう。男のいる壁まで押し込まれ、神癒奈は逃げ場を無くすが、すると、後方から発砲音が聞こえ、怪物の聖剣を持つ腕が吹き飛ばされた。


「……まだ、終わってないぞ!」


 銃口から煙が出ている大型拳銃を片手に、ふらふらとしながら立ち上がった男はケースから再び鉄針を抜き取り、剣に再装填する。傷が酷くうずくが、まだ戦えると男は剣を構えた。


「動けるんですか⁉︎」

「あぁ、だがもうこれは一発しかないからな、次がラストチャンスだぞ…」


 もう後がないと神癒奈に告げた男は彼女の隣に立つ。


「もう一度、あいつの動きを止められるか? 今度は、奴の頭にコレを撃つつもりだ。頭の部位なら流石に硬化はできないはず」

「……ええ」


 腕の傷が回復し、再び聖剣を構え直す怪物に対し、静かに会話する二人。そして、怪物が二人に向けて剣を振り上げた途端、二人は怪物の左右へ向けて駆け出した。


「今度は、体に風穴を開けてあげます!」


 抜いた刀で足を滅多斬りにして、怪物に膝をつかせると、神癒奈は怪物の背後に立って、片手を銃に見立てて指を立てた。すると、銃口にあたる人さし指の先端に、火が灯り、メラメラと燃え盛ると、収縮し、小さな球になる。


『絶火!』


 ばきゅんと撃つ真似をすると、人差し指の先端にあった球が、本当に銃で撃たれたかのように放たれ、怪物の胸を炎で焼き穿った。


「今です!」

「分かった!」


 神癒奈の合図に合わせて、男は怪物の体に足をかけ、頭部へと駆け上がる。


「デタラメみたいな怪物が! コレで終わりだぁあああ!!!」


 頭部まで上がった男は、怪物の歪に膨らんだ目の部分に剣を突き刺すと、罵声を浴びせながらトリガーを引いた。先程の同じように、轟音と共に放たれた鉄針は、怪物の目に綺麗に突き刺さり、そのまま破裂させ、体を内部から破壊する。


「やった! ははっ! ざまぁみやがれ!」


 地面に落ちた男はしてやった顔で怪物を見る。

 鉄針をマトモに食らった怪物は、体を回復させようとするが、鉄針に使われた物質"白銀"の効果を受け、回復するどころか、身体が泥のように溶けて崩壊する。

 だがそれでも尚、怪物は最低限体の形を保ち、聖剣を握り、男に向けて振りかざした。


「っ! まさか、これでもまだ動くのか⁉︎」


 なんという執念と男は絶句するが、もう打つ手はない、腰にあるケースにはもう鉄針は入っていない、先程のものが最後だ。それでもまだ戦えるのなら、本当にもう何もできることはない。

 振り上げられた剣を見て男は死を覚悟した。だが、その覚悟は、直後怪物の身に襲った真っ赤な焔によって砕かれる。


「もう回復しないなら、コレでやれるはずです! 『劫火!』」


 神癒奈が放った焔が、怪物の全身を焼き尽くす。焔の中でかつて勇者であった怪物は、剣を落とし、呼吸もマトモにできずもがき苦しむ。そして、かつて己を陥れた者達を恨むように、力無く吠えて天を仰いだかというと、今度こそ、全身が焼け爛れた怪物は、地面に倒れ伏した。


「は……はは、やったな」


 凄いものを見せてもらったと男はひきつった笑顔でそのまま地面に倒れる。どうやら文字通り骨が折れたらしく、疲れと痛みで顔をしかめながら月が浮かぶ空を見る。


「おーい、大丈夫ですか?」


 ひきつった笑顔をしたまま倒れる男に対して、冗談混じりな表情で見下ろす神癒奈。それを見た男は、"どうやら大変なやつと共闘したものだな"と思う。


「大丈夫だよ。あぁクソ……全身が痛い」


 痛みで軋む脇を押さえながら、男は立ち上がると、近くに突き刺さっていた聖剣を手に取る。


「……せめて、もう少しでも、在り方が評価されていれば、救われたのだろうな」


 死んだ勇者カインのことを思ってなのか、そう男はつぶやくと、聖剣を大事に抱えながら、自分の剣諸共、ケースの中へしまった。


「ちょっと、勝手に持ち出していいんですか?」

「いいんだ、もともとコイツの回収も仕事の内に入っていたからな」


 ぽんぽんとケースを叩きながら男は言うが、神癒奈は不服そうに、けどもどこか恐ろしそうな表情で問い返した。


「回収って…そもそも、一体あなたは何者なんですか! 英雄を殺すのが仕事って……!」

「それは……」


 先程の戦闘で必要以上に喋り過ぎたと男は気づくと、何か申し訳なさそうな顔をしてそっぽを向く。

 それに対して神癒奈は余計に不服に感じたのか、さらに問いただそうとしたが、直後、遠くから松明と武器を持った村人達が二人のいるところへ走ってきた。

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