大戦
長い戦争があった。
ある日突然、ある異世界ではじまったそれは、幾多の勢力と世界を巻き込み、はてしない戦火を生んだ。
当然沢山の犠牲がでた。
戦いの場となった世界は毎日戦火にさらされ、長くつづけばつづくほど犠牲は増え続けたが、誰もとめる事はできなかった。その戦争は、とどまることをしらずどこまでも激化し、最後には開戦の理由すらしらない者まで現れたとも言われている。
最初はごく当たり前の国の争いのような戦いが続いたが、戦線が疲弊するにつれ後になればなるほどなりふり構わずなり、ついにはクローンや生物兵器などの冒涜ともいえる技術の使用や、英雄という存在を求めて異世界から人を召喚してまきこんでまで、長く続けられたという。
そんな中で、陽宮永戸は、異世界に召喚された。
召喚した原因は飛行機事故での死によるものだった。俗に言う、異世界転生、というものだ。
異世界に召喚された彼は、身体能力強化の能力を与えられ、勇者として戦争に参加させられた。
その戦争にて、彼は多くの者を殺した。老若男女関係なく、敵であらば容赦なく、全てを殺した。
同時に、彼と共に召喚された勇者達は、どんどん死んでいった。先に召喚された者達も、後で召喚された者達も、同期に召喚された者達も、皆死んでいった。
そしていつしか、彼はこう呼ばわることとなった。
"英雄殺し"と。
どんな作戦に出ても必ず生き残り、どんな英雄であろうとも殺し、味方の英雄の死骸を踏んで生き延びるその姿から、敵味方からそう呼ばれた。
そんな彼にも少なくとも友人はいた。
まずはフィアネリスだ。天界から追放された彼女は、機械の体であることを理由に周囲から避けられ、戦線を渡ってはフラフラとしていた所を、永戸が拾い、従者として彼女を従えた。同じはぐれ者同士、通じ合うところがあったのかもしれない。
次にユリウスだった。ユリウスは永戸にとって先生のような存在で、彼も彼で敵の血を全身に浴びて生き延びる様から、"吸血男爵"の異名を持っていた。そんなユリウスの下で、永戸は部隊の隊員として戦っていた。
そして最後に、彼にはもう一人友人がいた。その者は、本物の英雄で、永戸と常に一緒にいては、彼を引っ張って道を教えてくれていた。永戸はそんな彼を若干羨ましく思っていたが、けれど共に戦っているうちに、絆が生まれ、いつしか戦友とも呼べる関係になっていた。
聖剣レイマルクは、彼から受け継いだものだった。彼が死んだ日、彼は大勢の敵をたった一人で押し留め、大量の攻撃を一人で浴びて、力尽きて死んだ。
死ぬ直前、永戸は彼から託された。英雄としての意志と、持ち主と共に戦い抜き、折れてしまった聖剣を。
そして彼はそれを背負い、彼の代わりに英雄として立ち上がり、戦った。とても目立つ鮮血のような紅色のコートを纏い、彼が持っていた折れた聖剣を手にし、彼と同じように多くの敵と戦った。
その姿から、"英雄殺し"の二つ名はさらに箔がついた。敵と味方からその名で恐れられ、終戦の時まで、彼はその名と共に最後まで戦った。
そして戦争は終わった。多くの犠牲を出し、多くの異世界を壊し、いつまでも続くかと思われたその戦争は、ある日、呆気なく終わった。
その戦争を体験した者達は、もう二度とそんな事が起きないようにと、ある組織を立ち上げた。
それが、異世界管理組織『イストリア』だった。
異世界を守る為、数々の戦士達が所属するようになったその組織は、更にその中で、異世界での悪を止める為の部隊が四つ設立された。
対魔・対悪戦闘部隊の一課
僻地・危険地帯調査部隊の二課
外交・要人護衛部隊の三課
そして…特別事案対処部隊の四課
ユリウスと共に、立ち上げられたその部隊に入った永戸とフィアネリスは、異世界に蔓延る悪と戦うことになった…。
これが、かつてあった戦争の話であり、後に、"異世界大戦"と呼ばれることとなった戦争で、彼がそこで戦ってきた全てである。
ーーー
自分の経歴の全てを話し、永戸は疲れたのかその場の石に腰掛ける。
「異世界…大戦」
神癒奈は知らなかった。自分が千年もの間暮らしてきた中で、そんな戦いが裏で行われていたなんて。
「……そうだ、その戦争があったから、今のイストリアがある」
石を眺めながら、懐かしむように永戸は言う。神癒奈は思った。彼が強いのは、その戦争の経験があったからなのかと。
イストリアの四課にいる彼は、ある意味四課の英雄として活動していた。
あらゆる危険な任務に赴き、どんなに辛い任務でも、やり遂げて帰ってくる姿は、確かに四課の英雄とも呼べた
だがその彼を形成したのが、かつて起きた大戦による出来事なのかと知ると、彼が最初に神癒奈に言った「英雄に夢を見るな」と言う発言も、重く感じた。
「俺だって、最初は英雄に夢見てたさ…けどな、毎日毎日戦場に送られて、仲間が死んでいくのを見ていくと、次第にそんな夢も語れなくなった、生きるのに必死でさ」
永戸はそう言うと、目を閉じて過去のことを考えた。
「その結果が"英雄殺し"という名前だ、笑えるよな、英雄になるつもりが、その英雄を殺す奴だって言われることになったんだから」
はははと乾いた笑みを浮かべ、永戸はそう言う。
すると神癒奈は隣に座り、彼に体を預けてきた。
「…笑いませんよ、誰も……だって貴方は、いつだって仲間のことを考えて戦ってきた人ですから」
「…そんな事ないさ、俺は沢山の仲間を見殺しにした」
「…本当にそうでしょうか?」
尻尾をくるりと彼に巻き付けると、神癒奈はこう口にした。
「少なくとも、今の貴方は、もう誰も悲しまないように、誰かのために必死に戦ってるように見えます。それは、守るべき人たちだけでなく、部隊にいる私たちも含めて、ですよ」
「…そうかな」
そう聞くと、永戸は神癒奈のいた世界で、波婆さんから言われた言葉を思い出した。
【優しい顔じゃ。口では違うと言っても、出会う人全てに無償の善を振る舞う、とてもいい奴さ。人間の良さ悪さは、日常の動きでわかる。礼儀や作法から手は取るようにな。お前さんは、本当は優しい奴じゃ、神癒奈ちゃんとよう似ておる】
「…そうかもしれないな」
そう、彼はポツリと呟く。それを聞いた神癒奈はにっこり笑った。




