巨人に挑む勇者達'
時刻は夜となり、桐枝達は巨人が現れると言う谷の場所までやってきた。
「本当に、巨人なんて出るのかな?」
典子が心配気味に聞いてくる。
「絶対に出る、そして、俺が倒す!」
自信ありげに言う忠政。だが反対に、桐枝には自信がなかった。
すると、谷の遥か地下深くのところから地響きが鳴り響き、本当に巨人が現れた。
その巨人は、光の体でできていて、顔はのっぺらぼうのように何もなかった。
「…現れたな、巨人!」
忠政が剣を抜き、戦闘態勢に入る、それに合わせるように、桐枝達も各々の武器を取った。
……しかし妙だ、巨人が攻撃をして来ない。まるでこちらのことを気にしていないかのようだ。
「おい! こっちを向けデカブツ!」
忠政が叫ぶが、巨人は忠政の方を向いても、全然攻撃の意思が感じられなかった。
「きりちゃん達を、襲う気はない?」
桐枝は、攻撃して来ない巨人を見て、違和感を抱いた。この巨人は、果たして本当に敵なのかどうかと。
すると、忠政が前に走り出した。
「攻撃して来ないんなら、こっちから行くぜ!」
「待つっす! そいつはまだ敵かどうか分かんないっす!」
桐枝の警告も聞かず、忠政は飛び上がると、巨人に一撃を入れた。
「ダメージが…⁉︎」
「通った! こいつは…倒せる!」
攻撃が通ったことで、忠政は勝利を確信した。
そのまま巨人に向けて、次々と攻撃を入れていく。つられて先生や典子も攻撃に加わった。
「っ!」
巨人が声にならない声をあげて怯む。だがそれでも、攻撃はして来ない。それどころか、怯えて苦しんでいるように見えた。桐枝は攻撃をせず、襲ってこない事に、ある確信を抱いた、これは敵ではないと。
「やめろ! こいつは敵じゃない! ただ痛みで苦しんでるだけの普通の生き物っす!」
桐枝は巨人の前に立って、忠政達に立ち塞がった。それを見た巨人は、桐枝の方へ向く。
「何邪魔してんだ! 桐枝! そいつは敵なんだぞ!」
「違う! これはただの生き物っす! ただ私達に怯えてるだけの、ごく普通の生き物! 現に攻撃をしてこないじゃないっすか!」
桐枝は手を広げて攻撃しないよう忠政に諭す。
「こいつをのさばらしにしておけば村の人達は大変な目に遭うんだぞ!」
「そうとは限らないっす! こいつを目撃した人はいても、襲われたと言う人はいなかった! こいつを敵と見るのは早すぎるっすよ!」
桐枝の発言に典子と先生も止まる、確かに、この巨人はさっきから攻撃は受けても苦しんでるばかりで一向に攻撃をしてこなかった。それに気づいた桐枝はある一つの勘を信じて、話を続ける。
「この巨人には人間と同じ"意思"があるっす! 動物のように本能で動くようなものじゃない! でなければ、私たちはとっくに攻撃されてるはずっす!」
そう言われると、忠政も止まった。
「分かったよ、桐枝」
「分かってくれたっすか…」
「あぁ、お前の言うことが……」
桐枝は話を聞いてくれたことに微笑むが、その直後、彼女は胸元を抉るように斬られた。
「は…?」
「世界を救う気のない、魔物に加担するクズだってことが、分かったよ」
下半身の感覚がなくなり、桐枝はどさりと地面に落ちる。血が溢れ出て、ズキズキと痛みが走り、パニックに陥った。
「な…なに…を…して…あがっ!」
倒れた桐枝の胸元に、再び剣が突き刺さる。
「お前は! 今から! 世界の敵だ!」
そういうと忠政はただひたすら桐枝に剣を突き刺し続けた。
「忠政君! やめてよ! 桐枝ちゃんが死んじゃう!」
「黙れ! こいつは敵だ! 魔物に味方する裏切り者だ!」
止めようとする典子を忠政は怒鳴る。そんな中、先生は忠政に近づいて彼を止めようとした。
「やめろ忠政! お前どうしたんだ! 桐枝は同じクラスメイトじゃないか!」
「クラスメイト……なんだそりゃ」
「なんだそりゃって…お前! 学校の事を忘れ…!」
先生が忠政を叱ろうとした直後、先生の首が刎ねられ、地面に落ちた。
「っっっーーーー!」
「うるさいな、俺が勇者だってのに」
先生が首を刎ねられたのを見て、典子は腰を抜かした。忠政の豹変に耐えられなくなり、怖くなったのだ。
「典子…お前は勇者だよな」
ぎらりとした目つきで忠政は典子を睨む。だが、ここで、桐枝は忠政の足を掴んだ。
「逃げろ典子! もうこいつは…学校にいた忠政なんかじゃない!」
桐枝は最後の力を振り絞って、典子に叫んだ。それを聞いた典子は、信じられないように桐枝を見ると、振り返って逃げた。
「なんだよ…まだ死んでなかったのか、死に損ないが、さっさと死ね!」
そう言って忠政が剣を振り下ろそうとするが、その時、光のバリアが現れて、攻撃が塞がれた。
「なんだ⁉︎」
「……なに…が…」
攻撃が防がれたことに忠政は驚き、周囲を見渡す。桐枝も、どう言うことか分からなくなった。だが、直後、忠政は何かを見つけたのか、ポカンと口を開けて一点を見つめた。
桐枝も、その方向を見る。するとそこには、傷の癒えた巨人が立っていた。
「はっ! 今更やるってのかよ!」
忠政が剣を握って巨人に立ち向かうが、先ほどと違って、剣を振ると、攻撃はバリアで塞がれた。
「くそっ! なんで通らないんだ!」
忠政はそのまま乱雑に斬りまくるが、攻撃は一向に通らないでいた。すると、巨人は拳を振りかぶると、忠政を殴った。
「ぐへぁっ!」
その一撃で、身を守っていた鎧は粉砕され、忠政は地面に叩きつけられる。おそらく骨もいったであろう彼は、頭を上げると、巨人に恐れをなした。
「ば、化け物が! やめろ……やめろぉおおおお!」
忠政の静止も聞かず、巨人は手を上にあげると、そのまま忠政をぐちゃりと潰した。それを見た桐枝は今度は自分が襲われるかと思ったが、巨人からは襲われる気配がなかった。
「……なんで…」
もう虫の息である桐枝が、巨人をじっと見つめる。すると、彼女の脳内に声が響き渡ってきた。
ーダイ…ジョウ…ブ?ー
「…ははっ、全然……というか…喋れたんすね…」
桐枝は何度も刺されたお腹を触るが、そこからは血が溢れて止まらなかった。
ー……オマエ…ボク……マモル…シター
脳に聞こえる声はたどたどしく、まるで外国語を覚えたての人のような声をしていた。だが、巨人はどうやら桐枝の事を襲う気はないのか、巨大な顔でじっとこちらを見つめてきた。それどころか、むしろ感謝するかのように見てきた。
ー…オマエ…ヤサシイ…ボク……オマエ…チガウ…ノニ…ー
「…ただの勘っすよ………だって…あんたが…苦しそうにして……」
ここで力尽きたのか、桐枝の目から光がなくなる。それを見た巨人は無表情のまま、桐枝を見続けた。
ー……オマエ…マモル…シテクレタ…コンド…ボク……マモルー
そう巨人は言うと、体から眩い光を放ち、姿を消す。それと同時に桐枝の周りに光の幕が張られ、桐枝の体はたちまち傷が治っていった。そして……その場は静寂に支配される。
「……見つけた! 見つけました! ここに勇者パーティーの戦闘の痕跡があります!」
暫くして、吟遊詩人と呼ばれていた男と女性がやってきた。だが、吟遊詩人にしてはゴテゴテの格好をして、辺りを見渡している。
「酷いな…一人は潰されてるように死んでるし、一人は首を斬られてる…生きてる奴はいるのか?」
「さっきの光からして、何かあったのは間違いないと思うんですけど…」
男達は、戦闘の痕跡を探る。
「向こうの戦闘は無事に済んだようだけど、こっちは明らかに課長が危惧していた通りになってしまったな。多分この首からない死体は、人為的な奴だ、けどこっちの潰れた奴は魔物か何かにでもやられたのか? どちらにせよいたたまれない話だ」
そう言って男は女の方に行く。すると女は、倒れている桐枝を見つけると叫んだ。
「これは……こっちにきてください! この方! 生きてます!」
「本当か…!」
二人は桐枝の体に近づくと、バイタルのデータを確認する。
「身体の方は正常…意識はない…気絶してるだけなのか? でも血の跡が酷い、まるで何かに切られた後に何かで治ったみたいだ」
「兎に角、生きてるなら、この方を一度保護しましょう! 一人で置いておくと危険ですし」
「そうだな、医療班を呼んで見てもらおう」
そうすると、男は桐枝を担ぎ、どこかへ持って行った…。




