小さな旅路
翌日、旅立ちの時となり、桐枝は典子や忠政達と一緒に旅をすることになった。
「力がないとはいえ、お前らは俺の仲間だ! 俺が全部ぶっ倒してやるから、よろしくな!」
「忠政、先生に対して態度が悪いぞ」
「硬いこと言うなよ先生、ここは異世界だぜ、もっと楽しんでいかないと」
忠政が胸を張って言うが、同行する先生は厳しくしていた。先生の能力は可もなく不可もない"防御強化"の能力、自身とパーティーの防御力を上げる能力だ。
「私達…お金全然渡されなかったね」
「期待されてないんすよ、きっと、見習い勇者のきりちゃんたちには」
出発前に国から義援金を頂いたが、拓人達強い能力者は大量の義援金を頂いたのに対して、桐枝達はその半分以下の金しかもらえなかった。
「なーに、金なんか依頼をこなせばたくさん入るさ、それより、桐枝の防具を整えようぜ、開始早々ぶっ壊すなんてださい真似したからよ」
忠政の言う通り、桐枝の防具は最初の戦闘で破壊されてしまった。防具を用意しないと今後の旅で桐枝が致命傷を負う危険性がある。忠政の言い方が気に食わなかったが、桐枝も確かにと考えた。
「じゃあまずはRPG的に武器屋…っすかね?」
と言うことで行き先は武器屋に決まり、四人はまずそこへ向かう。
「いらっしゃい」
武器屋に来た四人は、手持ちの金で、使う装備を整える。
「きりちゃんは戦士…っすかね」
桐枝は、軽装のアーマーと、そこそこ使えそうな鉄の剣を選んだ。本来なら重く感じるが、身体能力強化により、その重さは剣道の防具より軽く感じた。
「私は魔法使い?」
典子は、よくある魔法使いのローブと、杖を買った。能力が魔法強化なだけあって、シンプルに魔法を扱うことに特化させたらしい。
「ぐっ…重い…」
「先生、無理しなくてもいいんすよ?」
先生が選んだのはフルプレートのアーマーだった。それに槍と盾を持った装備で、身体能力強化がデフォルトでついている中位以降の能力者らしい装備だが、流石に重かったようだ。
「どうだ俺の装備、かっけーだろ!」
忠政の装備は桐枝と同じく軽装のアーマーだが、桐枝より高級で高性能なものだった。剣も普通の鉄の剣ではなく、魔物により効く煌びやかな剣となっている。
これで四人の装備は整った。後は道具屋で回復薬を買い、宿用の少しの金を残して四人は旅立った。
「で、これから先何処へ向かえばいいんすか?」
「まずは南の村だ! そこで巨大な魔物が現れて皆が怯えているそうだから、その解決に向かう!」
「いきなり大きな敵に挑むの…?」
「あぁ、じっとしてると他の奴らに先を越されてしまうからな! だから先に俺たちが手柄を取ってくるのさ!」
そう言うと、パーティーは忠政を中心として歩き出した。目的の街へ向かって。桐枝はそれについていくが、そんなのを果たして自分たちが本当に倒せるのかどうか、心配になった。
ーーー
旅が始まってすぐの事、早速魔物とのエンカウントがあった。
「やぁっ!」
現れたのはよくあるスライムで、桐枝はスライムを斬りつけようとするが、上手く攻撃が入らない。
「どけ! 俺がやる!」
すると忠政は、スライムの前に立つと、剣を全力で振り回した。するとその剣はスライムを内部の核までズタズタに切り裂き、爆発四散させる。
「どうだ!」
忠政の剣技をみて、桐枝は驚愕する。これが能力の差だと。実力が程々とはいえ剣道を習っていた桐枝が、昨日今日で能力を得た忠政に剣で負けることが悔しく思えた。だが、それを感じてしまうと彼に申し訳ないと思い、その思いはしまっておく。
「どうだ、じゃない! こっちも助けてくれ!」
先生が盾を構えてスライムの攻撃を防いでいる。そこに、典子が割り込んできた。
「どいて!」
先生からスライムを引き剥がすと、火炎魔法でスライムを焼き殺す。戦闘は取り敢えず終了した。
「ただのスライムでも…こんなに脅威に感じるなんて…」
「ぜーんぜん強くないね、余裕だよ」
典子が恐ろしく感じる中、忠政は余裕の表情を見せる。
「お前が強い能力を持ってるからそう言えるんだ」
「問題ない問題ない、俺は拓人にも負けねぇ勇者だからな!」
上機嫌に歩く忠政、その後ろを桐枝は歩くが、桐枝は危惧していた。この世界には、レベルとかそう言う概念はないと、いざとなって自分を守るのはこの防具と能力だけなんじゃないかと。
そう思うと彼女は怖くなった。
「桐枝ちゃん?」
「ん? あーいや、なんでもないっすよ、大丈夫っすよ」
あははと桐枝は笑ってみせたが、この世界はゲームでも何者でもない、現実なんだという考えが、頭から離れなかった。
ーーー
目的となる村に到着した。よくある小さな村で、人々は牧歌的な生活を送っていた。
「本当にここに出るんすかー? なんか平和そうな村ですけど」
「そこはまず聞き込みをしてからだろ」
と言う事で村の人たちに聞いてみる。だが、帰ってくる答えは二つに分かれていた。
「巨大な獣が森の奥にいたんだよ! 俺は見たんだ! 鋭い爪に恐ろしい目つき、ありゃ間違いなく魔物だ!」
「私は見たの! 光る巨人が村の外を歩いていたの!あんな大きいのは初めてよ! あれは魔物だわ!」
帰ってくる答えはこの二つだった。巨大な獣と光る巨人、どちらも想像すれば恐ろしい相手である事に変わりはない。
「二つとも敵って事だよな?」
「でもなんでこの村にそんな魔物が二匹も集まっているんだろう」
「どちらにせよ、倒さなければならない相手ということになる」
そう悩んでいると、他のところから別の勇者パーティーがやってきた。
「忠政じゃないか、元気にしてるか?」
「拓人、お前もこっちにやってきたのか!」
二つのパーティーが合流する。すると、狩る獲物について会話が始まった。
「なんかさ、二つの魔物がこの村で暴れてるんらしいんだ、片方が獣で片方が巨人だってさ」
「ふぅん、だったら、俺たちは獣の方に向かうから、お前らは巨人の方へ行く、これでどうだ? 流石に二つ同時に達成するのは厳しいし」
「…しょうがないなぁ、片方の手柄は譲ってやるよ、だけど、先にどっちが倒せるか勝負しようぜ」
そうして、戦う相手が決まった。拓人達の方が獣の方へ向かって、桐枝達は巨人の方に向かうと。
「決行は夜だ、じゃ、お互い頑張ろうな」
そう言って拓人達は去っていった。
「よーし、俺たちも負けないよう頑張るぞ!」
「忠政…ちょっといいっすか」
忠政は気合いいっぱいで張り切っているが、ここで桐枝は話を持ち出した。
「今回の戦い、いくらなんでも今の私達には早すぎる、どれだけ強力な能力を持ってたって、異世界に来て間もない私達が敵う相手じゃない」
「なんだよ桐枝、今更怖気付いたのか?」
「そんなのじゃない! 分かんないの⁉︎ でっかい巨人なんだよ! そんなの、こんな装備で能力を使って戦うことしかまだできない私達が倒せるわけがない!」
いつもの明るさは消え、桐枝は心の中でガンガン鳴っていた警笛に従って忠政を止めようとする。だが忠政は、それに対して怒鳴り返してきた。
「うるさい! もう決まった事だから仕方ないだろ! いい子ちゃんぶってどうなるって言うんだよ! このパーティーは俺がリーダーなんだ! お前はその役に立つか分かんない能力で俺をサポートしてればいいんだ!」
忠政のそのセリフに、桐枝は息を呑んだ。いつもの忠政ならこんなことは言わないと、大体、異世界に来てからクラスメイトの様子がどんどんおかしくなっている気がしていた。力を得たことによってクラス内でカーストが生じ、弱い奴が強い奴に従うような雰囲気になっていた。
それだけじゃない、性格も段々と変わっていってる気がした。学園生活を謳歌していた学生の頃より短気に、無茶苦茶に、それは、力を多く持つ者であればあるほど顕著にでた。
「…分かったっす」
「そうだ、それでいいんだよ」
そう言って桐枝は忠政の言う事を聞く。けれど桐枝の中の不安は、取り除くことができなかった。
ーーー
夕方となり、巨人討伐の決行前となった。桐枝達は村の中心で、のんびりと時間を待つ、
そんな時だった。村の入り口から、二人の人間が歩いてきたのだ、片方は背中に楽器ケースを背負った黒髪の男で、もう片方は、華奢な格好をした、金髪の女性だった。
「おっ、あれが例の勇者パーティーか、初めて見たなぁ」
「なんすか、貴方達は」
「俺たちは旅の吟遊詩人さ、まぁ、俺は作詞作曲しかできなくて、歌うのはこっちの方だが」
「こんにちは、初めまして、勇者の皆さん」
吟遊詩人の二人が、忠政のパーティーメンバーに挨拶をする。
「吟遊詩人かぁ、じゃあ巨人の話とか知ってるのかよ」
「巨人? そんなのがいるのか?」
どうやら詩人達も知らないようだ。今度はと二人の旅人が質問をしてきた。
「お前達が勇者パーティーなんだろ? なかなか凄いじゃないか、いつから旅をしてるんだ?」
「今日からっす、それまでは王国の街で訓練を積んでたっす」
「へぇ…」
吟遊詩人は興味深そうに話を聞く。すると、金髪の女性が手を握り、桐枝の方をまじまじと見てきた。
「こんなに若いのに勇者をやってるだなんて、とても凄いです。どうか、貴方方の旅路に幸福があらんことを」
そう言うと金髪の女性は祈るように目を閉じた。
「それでは、私たちは失礼しますね」
「頑張れよ、勇者諸君」
吟遊詩人の二人は去っていく。話した感じからして、自分達を一目見たかった存在だろうかと桐枝は思った。
「それじゃあ時間だ、出発だ!」
「はい!」
「分かった」
「う…うん」
そして桐枝達も出発する、巨人の討伐の為に。




