襲撃'
異世界に来てから数日、桐枝は訓練に明けていた。
「不思議っす…能力のせいか、こんな剣でも竹刀より軽く感じる…」
鉄の剣を握りながら、桐枝は自身の能力に感嘆する。
彼女の実家は剣道場で、本人の剣の腕前は大会で多少善戦できるくらいの腕だった。
他の生徒達が乱雑に剣を振る中、桐枝だけはしっかりと剣を振っていた。
「ほう…貴君、腕に覚えがあるのか?」
「まぁ、それなりにはあるっす」
騎士達が生徒一人一人に武器や魔法の使い方を伝授して行くが、その中で特段桐枝の剣の扱いは上手になっていた。
「見習い勇者と名を与えられても、努力を惜しまない精神、素晴らしいぞ」
「お褒めに預かり光栄っす」
えへへと笑い、桐枝は少し休憩を取った。
(他のみんなが能力で優れてる分、私は素の体力と技量で戦わないと)
桐枝には懸念があった。他の人と比べて能力に劣っているのが、命取りにならないかと。だから、彼女は通常の人より強くなれるよう、訓練を惜しまずやるようになった。
他の生徒達は余裕そうな表情で訓練を受けているが、桐枝だけは、真剣に努力をする。
そんな中だった。
「街の門前に、魔物の群れが!」
「っ!」
騎士からの報告を聞いて、周囲の生徒達はざわつく。そして、騎士団長らしき人は言った。
「勇者諸君、君たちの出番だ、初めての戦、戦い方を肌で覚えるといい」
その言葉を聞くと、桐枝達は戦場に送り出される事となった。
ーーー
門前までやってきて、桐枝達は緊張で硬くなる。それもそのはず、彼女達に取って初めてな戦で、同時に、命をかけた戦いになったからだ。
(大丈夫、私ならきっとやれるっす)
桐枝は震える手を押さえながら門の方へ向く。門の向こうからは魔物の雄叫びが聞こえてきた。
「やるぞ! 俺達が街を守るんだ!」
拓人の声を聞き、桐枝は頷いた。そして門が開くと、学校の生徒達は一斉に走り出した。
門の前にいた魔物達は想像の倍以上の数で、群れをなして襲いかかってくる。だが、拓人率いる生徒達はそれに真っ向からぶつかり、敵を一匹ずつ、まずは倒した。
「いける、いけるぞ!」
「これが、私たちに与えられた力!」
「チート万歳! 何も怖くねぇ!」
敵を倒せるとわかった瞬間、生徒達の士気は急上昇し、次々と敵を倒していく。
「こら! 無茶な行動はするな! 初めての戦だ! 気を抜くんじゃないぞ!」
先生がそう言うが、強い力を与えられた生徒達は、それに聞く耳を持たず、魔物を倒す事に集中していた。
「ひっ! 来ないで!」
典子が恐怖で怯えながら魔法を連発するが、攻撃が全然当たらず、彼女に向けて魔物が襲いかかってきた。
「たぁーっ!」
だが、典子が襲われる前に、桐枝が剣を持って、魔物の首を斬りとばした。
「はぁっ…はぁっ…大丈夫っすか?」
「う、うん、桐枝ちゃん、ありがとう…」
典子を助けた桐枝は、いまだに止まらない手の震えを抑え込もうとする。
(これが…戦い…!)
他の強い生徒や先生が心昂りながら戦う中、桐枝達能力に恵まれなかった組は戦闘に恐怖を抱いていた。特に恐怖を抱いたのは桐枝で、普通だった日常を引き裂き、戦場に立たされる事になったのを辛く感じた。
「雑魚能力しか持ってないメンバーは後ろに下がってな! 後は俺たちがやる!」
「てゆーか邪魔だし、城に戻ってなよ」
「少しくらいは努力してみたらどうだ?」
強い能力を持った者達からそう言われ、能力に恵まれなかった生徒達は一歩下がる。だが、桐枝はその中で、なんとかしようと立ち向かった。
「逃げちゃダメっす! 逃げたら、ここが落とされて帰る場所がなくなる! だからここで、耐えないと!」
そう言うと桐枝は前に出て、魔物を切り裂いていった。例えただの身体強化でも通常の人間の動きを超えた動きができる。
「やぁっ!」
剣道からやや崩したスタンスで斬り込むと、剣を使って次々と両断していく。
「まだくる!」
桐枝が正面に駆け込んでいくと、魔物が三体同時に飛びかかってきた。それを彼女が確認したら、線をなぞるように剣を振り、魔物を叩き落とす。
すると、今度は鎧を着た魔物がやってきた。桐枝は攻撃を加えるが、剣が鎧に弾かれてしまう。
「ぐっ…!」
剣での攻撃を喰らうが、なんとかガードして致命傷は避けた。だが皮の鎧は今ので壊れてしまった。
「こんなのいらないっ!」
皮の鎧だったものをべりっと剥がすと普段着のセーラー服だけとなり、桐枝は構える。
「桐枝ちゃん! 危ないよ!」
「なんとかするっす!」
典子の心配を聞かずに、桐枝は鎧の魔物に飛び込むと、首元を剣で突き刺し、力強く捻ると勢いに任せて引き抜いた。真っ赤な血が桐枝の顔につくが、気にせず彼女は魔物を地面に踏みつけて立つ。
気がつくと、魔物の数はだいぶ減っていた。群れをなしていた魔物達も危機を悟ったのが逃げ始めた。
「ちぇっ、なんだ逃げんのかよ、これから面白いってのに」
「でも、たっくさん倒せたね、やったぁ!」
クラスメイト達がさまざまな声を上げる中拓人が前に立った。
「街は守った! 俺たちの勝利だ! 俺たちの力が街を救ったんだ!」
彼のその声で、力を持ったクラスメイト達は雄叫びを上げた。
そんな中、力を持たない先生や他の生徒達はぐったりとする。桐枝も、泥のような疲れを抱え、座り込んだ。
「…違うじゃないっすか、異世界ってこんな大変な場所だったなんて」
夢に描いた異世界像と違うことに気づき、言葉を吐き捨てた。
ーーー
最初の戦の勝利の話は街中に広がり、桐枝達は歓喜の声で迎えられる。
そして、城に帰ると、初の勝利ということで祝勝会が開かれた。
「俺たちがいれば無敵だぜ!」
能力の有無関わらずどんちゃんと生徒達が騒ぐ中、桐枝はそれを見ながらもぐもぐとご飯を食べる。一応料理は美味しいと感じたのか、出された食事を次々と口に運んでいった。
「よう桐枝! 楽しんでるか⁉︎」
「まぁ、それなりにはっすけど」
声をかけてきたのは忠政と言うクラスメイトだった。異世界に来て力を得たクラスメイトの一人で、元の世界では運動部だった少しお調子者な子だった。
そんな彼に絡まれて、桐枝はあーうんと頷く。
「見てたか? 俺の活躍、俺の"剣の達人"、かっこよかっただろ⁉︎」
「まぁ、そっすね…」
どうやら彼の能力はそのままの物らしい、もしこれが本当なら元の世界で剣道で努力してきた桐枝にとっては悔しい話だった。
「俺たちがいなかったら街が滅んでたんだぜ、俺たちは硬い絆で結ばれた勇者だ! 誰にも負けやしねぇ!」
「…本当にそうっすかね…?」
「なんだぁ? いい能力がないからってウジウジしてんのか? 心配すんな、魔物は全部俺たちがやっつけっからよ!」
はははと忠政は言うが、桐枝にとっては死活問題だった。ろくな装備が与えられず、先の戦闘でそれを失ってしまい、能力だって低級の魔物にギリギリ太刀打ちできるかのもの、不安が勝るのも仕方がなかった。
「そうだ、明日からパーティーを組んでバラバラになってみんなで旅が始まるらしいんだけどよ、俺のパーティーにはお前と典子が入ってるんだってさ、せいぜい頑張れよ、じゃな」
そう言っては忠政は去っていった。そんな彼の背中を見て、桐枝は思った。
(私は…生き残れるんすかね)
胸の中にあるざわめきは、彼女から消えることなくとどまっていた。




