護れなかった責任
イストリアに帰還し…永戸達はエレベーターに乗る、その時、フィアネリスが虚空からふっと現れた。
「マスター、例の件、調べてきました」
「で、どうだった?」
「ユリウス課長と焔月には、接点がございます」
「…やっぱりか」
長期任務に行っている最中、気になることがあったので、永戸はフィアネリスに頼み事をしていた。それは、ユリウスと焔月との関係を調べて欲しいと言う話だった。
任務前から気になっていた。何かとユリウス課長は神癒奈に対して危機感を抱いていると。それでフィアネリスに資料室まで行かせて探らせていたのだが、ビンゴだったようだ。
「ユリウス課長は、半年以上前、焔月一族の救出作戦に抜擢されてました。ですが…」
「ですが?」
「その救出作戦は実際には行われませんでした」
拒否をしたと聞いて、永戸は歯を噛み締める。イストリアは、神癒奈達を助けようとしなかったことに、彼は怒りを覚えた。
「兎に角課長に聞くぞ、神癒奈の扱いについてな」
エレベーターから降り、四課のオフィスへと向かう。そして辿り着くと、永戸は扉を開けた。
「課長、ただいま戻りました」
「うん、お疲れ様、どうやら任務はうまく行ったみたいだね、支援要請が来た時はどうしたものかと困ったが」
課長はいつものように余裕の表情で答える、だが永戸は、ここで話を終えず、次の話題へと移った。
「聞きたいことがあります」
「何かね?」
「神癒奈の扱いについてです。貴方は、神癒奈がこの四課に入ってから、彼女の正体を知っていて、禁忌ではないかと危惧していた。そして今回の任務で、因縁のある土地だと知っておきながら、貴方は神癒奈を任務に行かせた。これは、どう言うことですか」
直球で質問し、永戸はまっすぐユリウスを見る。一方のユリウスは、紅茶を飲み終えると、それを置いて、ため息をついた。
「そんなことを知って何になるというのかね、部外者である君が、彼女の代わりに怒ろうとかそう言う魂胆かい?」
「…貴方は、同じ四課の仲間である神癒奈を信じなかった、それが俺にとって苛立たしく感じた、それだけです」
ユリウスは珍しく笑顔を崩し、永戸の目を冷たい目線で見た。永戸はそれに物怖じせずに向き合う。すると彼は口を開いて話し始めた
「半年前、イストリアは焔月が人間達の手によって襲われていると知り、救出作戦を企てた、焔月はその世界においての妖達の頂点、救わなければ、その世界に混沌の時代が始まるとわかっていた」
ここまではフィアネリスの聞いたとおりだった。ここからだ。重要な話は。
「だが…救出作戦は行われなかった。理由は焔月が玉藻前伝説と殺生石という禁忌を抱えた種族であり、救出者の中に反旗を翻して人間を襲う者が現れるのではないかと危惧したからだ」
そう重く口にすると、ユリウスは手を組み、話を続ける。
「結果、焔月は見殺しとなり、一族全員が死に、異世界からその存在が抹消された…はずだった。そう、神癒奈君…君が現れるまでは」
「私が…?」
するとユリウスは立ち上がり、神癒奈の前に立った。
「君を永戸君が見つけ、拾ってきた事で、イストリアの上層部は再び恐怖に包まれた。焔月の生き残りがいる、しかもその少女はよりにもよって、焔月最後の継承者にして奇跡の子だと」
ユリウスは神癒奈の瞳をまっすぐと見つめる。だが神癒奈は、何も言わず、ずっと聞き続けた。
「上層部は、私と四課に監視を求めてきた。常に状態を観察し、危険が訪れれば、神か、大妖怪としての覚醒前に殺せと」
ユリウスは、机から一枚の紙を取り出した、それは、今話した通りの内容が書かれた書類だった。
「だが、私は信じたかった。君の可能性を。勿論、疑いもあったし、不安でもあった。だが君と永戸君との間に生まれた絆を信じたかった。だからこそ、今回君達をこの作戦に呼んだんだ」
そう言うと、ユリウスは膝をつき、彼女に頭を下げた。それを見た神癒奈は驚いた、大層な役職に就いているユリウスが、ここまでするとはと。
「どうか許して欲しい…私は、いや、我々は、君達の存在が、たまらなく恐ろしくて、復讐に燃えないか不安であっただけなのだ。ただ恐怖して、守ることができなかった我々を許して欲しい。その責任は、しかと受け止める」
ユリウスは、頭を下げたまま、神癒奈にそう言った。永戸はもう何も言わなかった。聞きたい事は聞いた。理由はわかった。……ユリウスの本心を聞いた。こんな事を聞いてしまっては、彼も責める事はできなかった。きっと、自分も同じ立場だったら恐怖するだろうと。
「…顔をあげてください」
膝を曲げてユリウスと目線を合わせると、神癒奈はユリウスに顔を上げるよう言った。顔をあげたユリウスは、彼女の優しい顔を見た。
「もう、いいんですよ、私は、誰も責めたりはしません」
「しかし、君はこれから先も監視される立場になるんだぞ…? 後ろから撃たれる危険性だってあるんだ」
「そんなことがもし起きたとしても、四課の人たちは絶対にそんなことしないって信じてますから」
そう言って神癒奈はユリウスの頭を撫でた、ユリウスは失念していた、この少女は、見た目こそ少女であるが、長きにわたる時を生きてきた九尾の狐であることを。彼女は、どれ程辛い状況であっても強く生きようとしている事に、彼は気付いた。
「神癒奈君……」
「貴方は、貴方のやるべきことをやっただけですよ、心配しないでください、私は、四課の人たちが大好きですし、裏切りもしませんから」
神癒奈はユリウスを立ち上がらせ、背中をさする。その言葉を聞いた時、ユリウスはどこか、救われた気がした。
ーーー
「……本当によかったのか? 自分が監視される事を認めて」
「いいんですよ、四課の皆さんが守ってくれるって信じてますから」
帰りの電車の中、神癒奈は永戸と一緒に話す。
「…辞めたってよかったんだぞ、お前は、お前の夢を達成した、もうここに留まる理由はない」
「辞める気なんて起きませんよ、なんだかんだで私も、この四課に馴染んじゃいました。それに…」
少し考えると、神癒奈は永戸の方に顔を向けてこう言った。
「確かに私は英雄にはなれましたけど、ここはあくまで夢の道の途中、もっと見たいものや、守りたいものが沢山ありますから! だから…これからもよろしくお願いします!」
窓から入り込む夕陽を背にすると、いつもの優しい笑顔で彼女は永戸にそう言った。
「……そうだな、これからも大変になるかもしれない。だけど俺はお前のことを信じてる、だから、よろしくな」
「はい!」
そして二人は我が家へと帰る。またいつもの日常に戻るように。




