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ヒトとキツネの異世界黙示録  作者: 遊戯九尾
第四章 焔月の呪いと秘宝、そして神へ至るキツネ
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無償の善

「まさか妖怪の子を拾ってくるとはねぇ、だが盗みは良くないぞ、まぁ、反省したというのならいいさ、のんびり食べな」


波婆さんが妖怪の子供に自慢のおにぎりと、盗んできた芋を蒸した物を食べさせる。


「しかし、お前さんも隅に置けない性格をしてるねぇ、神癒奈ちゃんに性格が似てきたのかい?」

「さぁ、どうだろうか、ただの気まぐれかもしれないな」


永戸はそう言いながらふっと笑った。案外、あいつに影響を受けてるのかもな、そう彼は思い、妖怪の子を見守る。


「美味いか?」

「…うん」

「そうか、よく食べな」


頭を撫でて妖怪の子供に優しく接する。彼にしては珍しい一面だ、他人に優しい姿を見せるなんて。普段ならばぶっきらぼうな彼が、どうしてこんな事をしてるんだろう、それは、彼自身も思っていた。


(何やってんだろうな、俺は)


子供が喜ぶ姿を見て、不思議と心が温かくなる彼。ひとしきり食べさせた後、彼は聞いた。


「お前…一人で外にいたけど、家族は?」


家族のことを聞くが、妖怪の子供は首を横に振る。どうやら家族はいないらしい。参ったなぁと永戸は思う。


「じゃあ、頼れるやつとか他にいないのか?」


これに関しても首を横に張った。どうやら完全にこの子一人で暮らしていたらしい。


「大方、魔殺楼に親を殺された妖の子だろう」

「魔殺楼は妖すらも殺すのか?」


波婆さんがふむ…と顎に手を当てて言うと、永戸は聞き返した。


「一度、魔殺楼に反対した焔月派の妖達が一斉に立ち上がった時があったのじゃが、魔殺楼の不老不死と化した人間どもには敵わなかったのじゃよ」

「それで、この子は…?」

「恐らくじゃが、死んでいった焔月派の子供じゃろう」


…神癒奈達のことを思っていた妖怪達もいたのか、魔殺楼に反旗を翻した者達もいたようだ。だが、一族が滅んだとされていた焔月につこうとするのは、よほど覚悟が必要であっただろう。


「…家族がいなくて寂しいかもしれないが、お前が暮らすこの都は必ず守ってやるからな」


真っ直ぐに子供と向き合い、そう声をかけると、彼は頭を撫でた。


「お前さんは妖怪が怖くないのかい?」

「何を今更、焔月の姫様と一緒に戦ってたんだ、怖いわけがあるものか」


永戸は神癒奈のことを思い出すとぐっと手を握りしめる。神癒奈は今いないが、代わりとしてこの都を守る、彼の拳から、そんな覚悟が目にとれた。

そして彼はゆっくり立ち上がると、振り返って神社の外へ行こうとした。


「…どこに行く気だい?」

「街の散策、まだ終わってなかったからな、婆さん、その子を頼む」


そう言うと、彼は街の方へと向かった。


ーーー


神社から街の方に出てみれば、先程と同じように人と妖怪が行き交っていた。永戸はその中を歩いていく。


「永戸先輩…都には、影で喰われる人間や、飢えて死ぬ妖怪達がたくさんいます。それら全てを救うつもりですか?」

「あぁ、救う、これ以上の犠牲は、俺が許さない。


その永戸の言葉に、エイルは息を呑んだ。


「変わりましたね…先輩」

「お前まで、どうした急に」

「昔の先輩なら、犠牲が出ても仕方ないって言っていました…でも今の先輩は、たった一人の犠牲も許さない、そんな性格になった気がします」


エイルからそう言われて、昨日波婆さんから言われた言葉を彼は思い出す。


【そんなことないよ、お前さん達はきっと、充分にやってきた、犠牲が出たとしても、その者たちのことを想って戦ってたんだ、きっと、犠牲になった人も報われているさね、そう言うもんさ、神癒奈ちゃんだって、そう言うところをわかっていても、人の為に動くさね】


「先輩も神癒奈さん同様、お人好しになったのかもしれませんね」

「どうだか」


話を誤魔化すと、都の中での探索を続ける。破獄を賛美する言葉以外で何か得られないか、色々な人に聞き続けた。

だが、どれも返ってくる言葉は同じだった。いや、と言うより…。


「一つ思ったことがあるんだが、これ、破獄への賞賛を言わされてないか?」


道行く人に聞けば同じ内容ばかり、だが、よく観察してみると、どこかぎこちわるそうにしている人ばかりだった。妖怪の方も賛美する声は多かったが、だが、こちらの方でも歯切れの悪そうな反応をする者は少なくなかった。


「確かに、聞き込みをした者の精神パターンを調べましたが…困惑するような反応が多かったですね」

「…本当は破獄に対して不満を抱いている人が多い?」

「かもしれません」


二人が周囲の人間を観察していくと、突然、都の中心の方から大きな声が聞こえてきた。


「破獄様への本日の分の貢ぎ物だ!」


永戸が人混みをかき分けて様子を見ると、そこには、数人の人間が暇で縛られ、目隠しをされた状態で座らされていた。

よく見れば、恐怖で震え、汗を流していた。


「この者達は幸運にも破獄様の供物に選ばれた! 今からこの者達を連れていく!」


魔殺楼の妖怪が、数人の人を荷車に乗せようとする。その光景を見ていた永戸は、気がつくと、かけだしていた。


「ぐあっ!」

「何者だ⁉︎」


妖怪を一人切り伏せ、人が乗せられる前の荷車を破壊すると、永戸は偽装装備を解き、彼らの前に立つ。


「イストリアの異世界特別調査隊四課の者だ、お前達の悪事を止めに来た」


高々と宣言し、彼は折れた政権を妖怪達に向ける。それを見た妖怪達は怯えた。


「イストリアの、四課…死神部隊だと⁉︎ 何故ここに!」

「お前は貢ぎ物を運べ! 俺たちはこの男を…なっ⁉︎」


妖怪達は貢ぎ物となる人達を運ぼうとするが、その前にエイルに糸を引かれ、貢ぎ物の人達は助けられた。


「永戸先輩!」

「エイル! 周囲の奴らの避難は任せた! 俺はこいつらをやる!」


そう言うと彼は聖剣を片手に走り出した。


「折れた剣で何ができるって言うんだ!」


正面から斧を持った妖怪が永戸に迫る。その妖怪は永戸に対して斧を振るったが、彼は飛び上がって軽々と避けた。


「光を宿せ! レイマルク!」


空中で聖剣に光を宿し、刀身を長くさせると、永戸は真上から妖怪を焼き切った。


「人間のくせに生意気なぁっ!」


大刀を持った妖怪が永戸に近づくと、力のままに振り回し、彼へ次々攻撃を加えていく。永戸はそれをひらりと回避して建物の上に登るが、妖怪は建物ごと粉砕し、永戸をおいかけてきた。


「ええいちょこまかと!」


素早い動きで永戸は妖怪の攻撃をかわす。そして、妖怪が刀を振り上げて大きな隙を見せた時、聖剣を振り、一気に斬り伏せた。


「人間一人に何を手間取っている!」


次々と妖怪が現れ、永戸の前に立つ。流石にまずいかと思った時だった。


「先輩! 人々の避難は完了しました!」

「よし、引くぞ!」


エイルが他の人を逃がしたと言うと、永戸は即座に戦闘をやめ、エイルと共に逃げた。


「くそう! 人間一人にここまでやられるとは! おのれ、イストリアの死神め!」


永戸達の逃げ足の速さに、妖怪達は何もできずに逃がしてしまう。

場を仕切っていた妖怪は歯噛みをすると、彼への怒りをあらわにした…。


ーーー


「ありがとうございます! お陰で助かりました!」

「奴らはもう一度お前達を捕らえようとしてくるだろう。そうなる前に都から逃げるんだ」

「はい!」


永戸の話を聞くと、貢ぎ物にされかけた人達は、即座に逃げていった。永戸とエイルはそれを見送ると、エイルは再びステルスクロークを着て、永戸は波婆さんの所へ向かう。


「おや、また人助けでもしてきたのかい?」

「まぁ、そんなところだ」


波婆さんの所に行くと、そこでは、波婆さんが、妖怪の子供を寝かしつけていた。


「いい子に寝ているだろう…」

「あぁ…そうだな」


永戸は二人の隣に座って落ち着く。


「妖も、全てが悪いわけじゃあない、神癒奈ちゃんのように善良な奴もいれば、都に蔓延る奴らのように、外道な奴らもいる、妖とは、人と同じく、育った環境によって変化する生き物なのさ」

「…そいつは、悪い妖怪なのか?」

「いいや、こやつはどちらでもない、まだ無垢な生き物さ、これからいろんな物を見て、良い方にも悪い方にも変わる」


そう言うと、波婆さんは永戸の顔を見てきた。


「あんたの顔は、どれだけ怖く見せつけても、良い顔をしているよ」

「どう言う意味だ?」

「優しい顔じゃ。口では違うと言っても、出会う人全てに無償の善を振る舞う、とてもいい奴さ」


そんなこと、顔を見てるだけで分かるもんなのかと永戸は自分の顔を触る。すると波婆さんはこう答えた。


「人間の良さ悪さは、日常の動きでわかる。礼儀や作法から手は取るようにな。お前さんは、本当は優しい奴じゃ、神癒奈ちゃんとよう似ておる」

「…そうなんだろうかな」


永戸はよくわからないと思うように頭をかく。波婆さんにさとされると、彼は、自分の優しさについてうまく答えを出せなかった。

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