都の夜
一方、神癒奈が自分の屋敷に出発した頃、都の神社にて、永戸は体の感覚を確かめていた。
「っ!」
聖剣を振るい、体の状態を確かめる。ボロボロに砕かれた体は無事に治っていた。
「あんた、神癒奈ちゃんの仕事仲間なんだろ? 普段神癒奈ちゃんはどんなことをしてるんだい?」
波婆さんにそんな質問をされ、永戸はピタッと止まる。
(い…言えない、人に言えない仕事してますだなんて、でもなー、言わなきゃ怪しまれるしなぁ)
困り果てた永戸はゴニョゴニョしながらこう答えた。
「…人を救う仕事だよ。けど、基本的には救われないけどな」
「救われないのかい?」
「あぁ、大体行く時は手遅れの時が多いんだよ」
永戸は縁側に座ると、剣を置いて記憶を遡る。四課の仕事は事件が起きてからが多い、異世界の調和を守る組織だと言うが、基本的には世界を守るのは危機に陥ってから、そこに住む人の犠牲など考えてなかった。
「…俺達がたとえ解決したとしても、犠牲は生まれたんだ」
「そんなことないよ、お前さん達はきっと、充分にやってきた、犠牲が出たとしても、その者たちのことを想って戦ってたんだ、きっと、犠牲になった人も報われているさね」
「…そう言うもんかな」
「そう言うもんさ、神癒奈ちゃんだって、そう言うところをわかっていても、人の為に動くさね」
波婆さんはそう言うと、おにぎりを隣に置いてきた。
「怪我を治したばかりなんじゃろ、なら、いっぱい食べて元気にならないとねぇ」
「…婆さん」
「あぁいいよ、お礼なんて、神癒奈ちゃんが世話になってるからね、これはその気持ちじゃよ」
永戸はそう聞くと、おにぎりの一つに手を取った。そこそこ大きなおにぎりだ。いざかぶりついてみると、中身のない塩おにぎりなのに絶妙な塩加減でとても美味しく感じた。
「美味しい…」
「久々の人間の客だからね…腕によりをかけて作ったんだ、よく味わって食べな」
そう言っては波婆さんは去って行った。永戸はふぅって落ち着くと、そばにいる者に呼びかける。
「エイル、いるよな?」
すると、神社の木の上から、すーっとエイルが、和服を着て降りてきた。
「はい……呼びましたか?」
「支援要請で来てくれて助かるよ」
「い、いえ、えへへ…それが私の仕事ですので…」
周りに誰かいないか見て、エイルは背中に持っていた箱から、治療用の薬や、簡易式の検査器具を出してきた。
「体の状態を…調べさせていただきますね」
エイルは検査器具を手に取ると、永戸の身体を軽く調べ始めた。
「しかし、永戸先輩が支援要請を呼ぶなんて、よほどの状況なんですね…フィアネリス先輩は呼ばなかったんですか?」
「あいつでも良かったが、あいつは今別件を任せててな、頼れるのはお前だけだったんだ」
「そう言われると、なんだか、嬉しい…です、ふひひ…」
もじもじしながらエイルは永戸の身体の検査を終えた。傷は一切無い、至って健康な身体だ。
「…あの、つかぬことをお聞きしますけど、そもそも何故支援要請で検査を頼みにきたのですか?」
「それが、少し前の戦闘で、俺の腕と足は握りつぶされてしまったんだ」
「ひっ…!」
握りつぶされたと聞いて、エイルは怯えた表情になる。
「自分の手足を潰されるだなんて…そ、想像するだけでも怖いです」
「俺だって怖いさ、実際にされて、痛いだけじゃ済まなかったからな、だが、その傷を、神癒奈が不思議な力で治してくれたんだ」
「神癒奈…さんが?」
永戸があの時のことを考え、頭を抱えると、エイルは心配そうに永戸を見た。
「なぁ、エイル、お前は神癒奈のことどう思ってる?」
「どどどどうって⁉︎ どう言うことですか⁉︎」
「普通に友人としてだよ変な妄想するなよ」
顔を赤くして困惑するエイルを見てジト目になる永戸。まぁそれはそれとしてとエイルは言い、その質問に答えた。
「…とても良い方です。まっすぐで、優しくって、やると決めたら曲げない、強い方です」
「そうか、お前はあいつのこと、悪い奴だとか思っていないのか?」
「いえそんな! あの方が悪い方なんてとても思いません!」
慌ててエイルが手を横に振る。それを見た永戸はほっとした。
「そうだよな、お前も、そう思うよな」
気が楽になったのか、永戸はエイルの頭を撫でる。それに心地よさそうにエイルは声を漏らすと、話を本題に戻した。
「今神癒奈は自分が神だと知って、神になる為に自分の実家に帰った…それまでお前には、神癒奈の代わりとして俺のバックアップをしてほしい、戦闘用の装備は考えなくて良い、サポートだけしてくれれば助かる」
「神になる⁉︎」
神になると聞いてエイルは困惑した。まぁ困惑するよなぁと永戸は思うとざっくりと経緯を説明した。
「成る程…神癒奈さんが神の子で…神になれるだけの才能があったと」
「そう言うことなんだ、だから今神になろうと別の場所へ出ているところだ」
波婆さんのおにぎりを一緒に食べながら、エイルと永戸は一緒に考える。
「しかし変…ですね? それほどまでの力を持つなら…イストリアが禁忌として捕らえていてもおかしくないのに、何故いまだに彼女は…四課で活動できてるんでしょうか?」
「…多分、下手に手が出せなかったんだと思う。半年前までは焔月の継承者として一族に存在していたから下手に接触すると一族総出でカウンターを喰らいかねないし、異世界に飛ばされてからは、どこに行ったか見当がつかなかったんだと思う、俺がたまたま拾ってきたから、イストリアは取り扱いに困ったんだ」
「じゃあ、今四課で…活動できているのは?」
「多分…監視の意味がこもってる。変な動きをしたら後ろから撃てと言う意味を込めてな」
そう言うと永戸は顔を伏せた。この件に関しては、ユリウスに直接聞かなければ気が済まない。彼の思わせぶりな発言は、彼女がどう言う存在か知っていたからが故の事だった。
もしそうだとして、これまで神癒奈のことを仲間だと信じられなかったとしたら、上司と部下の関係があろうと彼を殴りに行かなければならないと永戸は思った。
今回の任務だってそうだ、完全な人選ミスとも言える配役、この苦行を見る限り、神癒奈を試しているようにしか見えない。
「と、とにかくまずは事件を解決しましょう! 魔殺楼という組織を止めないと……!」
「ああ、そうだな、エイル、日中の活動時はステルスクロークを着て監視に徹してくれ、なるべく目立たないように。夜は普段の姿で動き回っても問題ない」
「分かりました…」
二人でやる事は決まり、この夜は、それぞれの寝る場所で寝ることとなった…。
ーーー
翌日、都を探索することになった永戸達は、街を散策しながら情報を調べる。
「どうですか? 対象の偽装を見抜く特殊眼鏡は」
「スパイ映画みたいでかっこいいと思うよ、問題があるとするならここが和風の世界で違和感があるのと…」
通信機を通じて、永戸とエイルは会話をする。永戸が見渡すと、あたり一面人間3割妖怪7割とも言える景色が広がっていた。
「景色が最早ホラー映画なところかな?」
あんまりにも妖怪の数が多すぎて、永戸はため息が出そうになる。
「確かに…この量の魔族は、あまり見かけませんね……この世界では、妖怪…って呼ぶんでしたっけ」
「情報によれば、本来ならこの世界の妖怪は、神癒奈達焔月の妖狐が統治する筈だったらしい、だが焔月が滅び、魔殺楼が代わりに出た事で、人と妖のバランスが崩れてしまったそうだ」
改めて情報を整理しつつ、永戸は都を歩く、エイルは建物の上から永戸を追っていた。
街の人から最近変わった事を聞くが…。
「そりゃあ、この都の王が破獄様になった事さぁ! あの方はすごい! 人間と妖怪が共に暮らせる場所を作ってくれたのだからね」
「破獄様は素敵です…ここで暮らす民の事を考えてくれている。貢ぎ物さえ渡してくれれば妖達を大人しくしてくれるっていうのですから」
破獄と名乗る者がこの都を統治し始めた、という話ばかりだった。エイルも、周囲に張った糸から情報を聞いてみるがその者の話で持ちきりだった。
「貢ぎ物を渡せば妖達の暴動を抑え込んでくれる…これって、嘘…ですよね?」
「少なくともな、でなきゃこんなに人の数は減っていない」
貢ぎ物さえ渡せば妖を大人しくさせる。そう聞いているが、それは確実に嘘だ。神癒奈が異世界に飛ばされてからこの都の人と妖のバランスが半年で7:3から逆転したと彼女自身が言っていたのだ、そのバランスの変化のしようは、毎晩人をこっそり食べてないと説明がつかない。
それに、貢ぎ物という言葉も物騒に思えた。誰もが貢ぎ物と口にするが、肝心の貢ぎ物がなんなのか語られていない。
「恐らく、貢ぎ物というのは人間だ」
「ど、どうしてそんな事を思いつくんですか?」
「殺生石だよ、奴らの頭領は殺生石を自分のものにしていて、限定的に不老不死の力を得ているらしい。で、その力を得た頭領はこの都を統治する存在になり、生きるための糧として人間を魔殺楼の屋敷に送り込んでいるそうだ、昨日のあの婆さんが言ってたんだよ」
「な、なるほど…」
永戸の話を聞いて納得するエイル。それでだと永戸はいい、話を続ける。
「つまり都は今、人間は貢ぎ物として魔殺楼に送られて食べられるか道中の妖怪に食われるかでめちゃくちゃ人口が減ってて、逆に妖怪は制御すると言った影でコソコソ人を食べている、ってことになる」
ざっくりと、これまでの説明を永戸はまとめた。これは彼にとっても確認も兼ねての発言であり、波婆さんが言っていたことを、自分自身が理解するための説明だった。
「取り敢えず、情報の裏は取れたな、一度神社に戻って…」
「泥棒だ! そいつを捕まえてくれ!」
永戸が神社に戻ろうとした時だった、芋を抱えた子供が前から走ってきた。永戸は子供を捕まえるが、その子供の顔を見て驚いた。
(昨日神癒奈が飢えていると言っていた妖怪の子供じゃないか!)
子供は震える顔で永戸を見ていた。遠くからは芋を売っていた者がこの子を捕まえようと人混みの中を走ってきていた。
「こっちだ!」
子供が放っておけなくなったのか、永戸は子供の手を握り神社へと走る。自分用のステルスクロークを子供に着せたせいか、追っ手はすぐにまけた。
「どうして…助けたの?」
妖怪の子供が不思議そうにこちらを見てくる。それを聞いた永戸はこう答えた。
「お前が、助けて欲しそうにしていたから」




