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ヒトとキツネの異世界黙示録  作者: 遊戯九尾
第四章 焔月の呪いと秘宝、そして神へ至るキツネ
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追憶

追憶の石回廊を通り抜け、そこにあったのは、かつて神癒奈が暮らしていた屋敷の跡だった。


「…ここで、何かをすれば良いんですよね?」


花が咲き誇るその景色の中に神癒奈は入り込み、探索を始める。屋敷の跡には大量の殺生石があった。


「これだけの殺生石、一体何処から運ばれてきたんでしょうか?」


前に暮らしていた時はこんなに石なんてなかった。ましてやこれは殺生石の塊だ。こんなものが屋敷にあったら人間がやってきたらたちまち生命を吸われてしまうだろう。だが、ここにある石は淡く光るだけで、神癒奈から命を吸い取ろうと言う気配がなかった。

神癒奈はそのまま屋敷の跡を歩き続ける。次に向かったのは、自分の部屋だった。


「懐かしいですね、よくここで、お茶を飲みながらのんびりした物です」


瓦礫を少しずつ退けて、何かないか探すと、そこには、神癒奈の日記があった。

一つずつページをめくっては、思い出に浸る。そこには、大切な母親との思い出や、家族との触れ合いの記録があった。


「私も、この頃は小さかったですね、日記を書きたいって言っては書いてたけど、結局、書くのをやめちゃって」


長い年月を過ごす妖にとって、日記など些細な物だ、神癒奈は最初こそ日記を書いていたが、次第に書くのに飽きてしまい、最終的には書くのをやめたのだ。日記を書く本を手に入れるのにも大変だし、置くスペースがないしと神癒奈は思い、日記を畳むと、なんとか残っていた日記をバッグの中に入れる。

次の場所へと向かった。そこは、広々とした庭の跡で、今は花が咲き誇っていた。


「ここでよく、武術の練習をしたんですよね」


神癒奈は落ちていた木の枝を手に取ると、刀のように構え、軽く振り回す。

小さい頃から、焔月の武術を学ぶ時は、よくこの庭でやっていた。もちろん道場も屋敷にはあったが、こちらの方が陽に照らされて、風も心地よくてやりやすかったからだ。


「お母さんは、私が新しい技を覚えると、よく褒めてくれたなぁ」


自分の武術の練習を、よく母親が見ていてくれていた。時々辛くて泣き出すこともあったけれど、母親はその度に励まして、優しく見守っていてくれた。そして、それで成果を出せば、喜んで抱きしめてくれたり、頭を撫でてもらったりしてくれた。

そんな思い出に浸りつつ、神癒奈は屋敷の中を巡っていき、そして最後に、ある場所へと向かった。


「…ここですね」


最後に辿り着いたのは、あの日、母親である八尾乃が神癒奈を異世界に送り出した物置だった。その物置は燃やされることはなかったのか、色んな物がそのまま置かれてあった。半年以上放置されていたせいか少し埃臭いが、その物置にも、大きな殺生石が一つ、真ん中に置いてあった。だがその殺生石には変な点が一つあった。不思議なことに、その殺生石には、大量の刀が突き刺さっていたのだ。


「なんで、この石だけ、こんなに刀が刺さっているんでしょう?」


石の周りをぐるぐると回って見てみるが、見当がつかない。耳を当ててみようか、そう思って耳を近づけた時、コツンと首の鈴が足に当たった、その瞬間、神癒奈の頭の中にある記憶が流れる。


【貴方だけでも生き延びなさい!】


「っ!」


聞き慣れた声を聞いて、神癒奈はハッとなった。今聞こえた声は、神癒奈の母親、八尾乃が神癒奈を異世界に送り出す時に発した声だった。


「…まさか」


神癒奈は首の鈴を取り、その鈴を殺生石に当てる、すると再び、声が聞こえてきた。


【生きなさい! なにがなんでも生き延びて、どんな困難にあおうとも、立ち向かうのよ!】


「……もしかして、お母さんなの?」


もう一度聞こえた声に、神癒奈は確信を抱く、この石は…この殺生石は…八尾乃が変化した姿だ。神癒奈は一族の者からこんな話を聞いたことがある。死んだ焔月の妖狐は殺生石へと変わり、その地で生命を吸い続けると。

八尾乃は、ここで神癒奈を送り出した後、死んで殺生石に変化したんだと神癒奈は思った。

そして、神癒奈の首にいつもつけている一族に代々伝わるこの鈴、これの中に入っているのは、他の生物に害が与えられないくらいにまで抑え込まれた殺生石のかけらだ。

この鈴はもしかすると、他の殺生石と共鳴する機能があるのかもしれない。

神癒奈は首の鈴を殺生石に押し付けて言った。


「お母さん! 私です! 帰ってきましたよ!」


石と化した母親に神癒奈は語りかける。だけど、死者に話しかける機能まではないのか、石からは何も反応が返ってこなかった。


「………ダメですか」


しょんぼりしながら石にもたれかかる。久々に聴いた母親の声がこんな形でだなんてと、神癒奈は苦しく思った。鈴を首に戻すと、本来の目的である神への覚醒をしようと再び探し出す。

屋敷の方はボロボロでどうしようもない、ならばと神癒奈は物置の中を探し回る。古ぼけた物置の棚や箱を漁ると、出てくるのは古ぼけた刀などの武器や、どうでもいい調合法なんかが描かれた薬物学の本などだった。それらしい本は一切見当たらない。


「もう、神様になる方法なんていったい何処にあるんですか!」


あちこちを探しても全然見つからない、第一自分はここで千年暮らしてきたのだ、神様になってるならとっくの昔になってるはずだ。本当にここに神になる方法はあるんだろうか。

そう思った時だった。


足音が聞こえた。それも一つだけではない、大勢の足跡だ。

神癒奈は息を殺し、物置の外を覗き込む。


「お前ら! 何故だかわからんがようやくここに入ることができたんだ! ここに入り込んだとされる焔月の狐を探し出せ!」


そこにいたのは、以前倒した柄田の姿だった。沢山の妖怪を引き連れた彼は、その妖怪達に、この屋敷の跡で神癒奈を探させる。

その柄田の姿も変わっていた。以前より巨漢の姿になり、その姿は柄名とよく似た姿となっていて、腕が4本の異形と化していた。


(なんとかして、彼らに気づかれる前に覚醒しないと…!)


そう思った時だった。物置の屋根が妖怪に引っ剥がされたのだ。


「みぃつけたぁ!」

「っ!」


妖怪に捕まれそうになった神癒奈は、素早く飛び上がって回避する。そして、屋敷跡の崩れた屋根の上に登ると、彼らを見下ろした。


「退きなさい! ここは、あなた方が何人たりとも荒らして良い場ではありません!」

「けひゃひゃ! 何を言ってやがる! 半年前に滅ぼされた呪われた一族の墓場だ、何をしても良いだろうが!」


柄田がそう言うと、周囲の妖怪がゾロゾロと集まってきた。


「ここにいるのは焔月のことを気に入らなかった妖達だ、そんな連中がひとまとめになってテメェを捕まえにきた! これも全て、破獄様に差し出す為になぁ!」

「破獄…それが、あなた達魔殺楼を束ねる族長なのですね!」


神癒奈は刀を構えて身構える。反対に柄田は笑いながら神癒奈を見上げた。


「そうよ! 破獄様は不死の力を求める我々の長! 至上にして我らが絶対の王者となる存在、てめぇみたいな没落した妖怪とは訳が違うんだよ!」


そう言うと、彼は周囲の妖怪達を前に出させ、自分は後ろに下がった。


「見つけた! 九尾の狐! 焔月神癒奈!」

「半年前に殺したはずなのに、まだ生きていやがったとは」

「なんでもいい、あいつを捕らえて破獄様に差し出せ!」


周囲の妖怪達が一斉に神癒奈に襲いかかってきた。神癒奈は素早く後ろに引いて、走り出す。


「絶対に逃がすな!」


柄田の指示を受けて妖怪達が一匹一匹神癒奈の方に走る。だがスピードは神癒奈の方が上だ。ある一定の距離を走った後、振り返ると、神癒奈は一匹ずつ迫ってきた妖怪達に対して刀を抜いた。


「焔月式抜刀術、弐式!」


高速連撃に特化した弐式のスタンスで斬撃を行い、妖怪達を切り裂いていく。


「上がガラ空きだぜ!」


次は二匹の妖怪が、神癒奈の背後から上を取ってきた。神癒奈は切り返すように振り向くと、飛び上がる。


「壱式!」


一撃必殺の壱式で刀を振り切ると、ざぱっと音を立てて二匹の妖怪は真っ二つになった。


「体がガラ空きだ!」

「っ⁉︎ きゃっ!」

「このまま丸呑みにしてくれるわ」


空中にいたところを、また別の妖怪に狙われ、下で体を巻きつかれた、そのまま丸呑みにされかけるが、神癒奈は術を唱える。


「その身を焼き貫け! 『業火!』」


体内に飲み込まれた際に、体の中から焔の槍を次々と打ち出し、内側から妖怪を焼き殺し、出てきた。


「同時攻撃なら!」

「流石に対処しきれまい!」


複数の妖怪が一気に神癒奈に群がるが、神癒奈は片手に焔を圧縮させると、その炎を地面に向けて投げた。


『劫火!』


地面についた焔は一瞬で燃え広がり、妖怪達の体を骨まで焼き尽くす。

数の暴力で次々と攻撃を加えたはずが、一歩も引くことなく全てを薙ぎ倒していく神癒奈の姿に、妖怪達は怯えた。


「一人だけでも、この戦力差があるのかよ!」

「無理だ! やっぱり焔月の妖狐にはかないっこねぇ! 俺は逃げる!」

「馬鹿野郎! 逃げたら破獄様に殺されるぞ! 戦え!」


妖怪達がざわめく中、その中から、ついに柄田が動き出した。


「こうなったら、この俺自らの手でてめぇを殺してやるよぉ…」


そう言うと柄田は棍棒と手裏剣を合わせた武器、回転鋸の剣を構え、神癒奈に向けて駆け出した。


「ぬおおおおおっ!」


ブンッと剣が振られるが、神癒奈はひらりと回避する。返す刀で斬りつけるが、この前の戦闘と同じように、やはりダメージは入らなかった。


「殺生石の…力!」

「そうよ! 俺は殺された兄者と一つになり、殺生石の力をさらに高めた! 俺を止められる者などどこにもいねぇ!」


そう言うと、柄田はもう一本剣を出すと、二刀流で斬りつけてきた。一本ならともかく二本はまずい、逃げ場がなくなると、そう考えた神癒奈は一旦下がろうとする。だが…。


「逃がすかよぉ!」

「なっ⁉︎ あぁあっ!」


剣から手裏剣が飛び出し、その手裏剣は神癒奈の体を刀ごと切り裂いた。刀の刃が折れ、神癒奈は地面に落ちてしまう。


「兄者を殺された恨み! 存分に晴らさせてもらう!」


そう言うと柄田は手裏剣についていた紐を神癒奈にくくりつけ、そのまま振り回し始めた。あちらこちらに振り回しては、木や地面に叩きつけ、神癒奈にどんどん傷をおわせていく。

そして、最後に力強く叩きつけると、その紐を巻き戻し、剣の先で彼女を串刺しにした。


「今度は、逃しはしねぇ!」


あの時と同じ事はしないと、柄田は串刺しにしたまま、神癒奈の胸元を抉る。すると、そこに出てきたのは、蒼い結晶に覆われた心臓だった。


「これだ! 破獄様が求めたのは!」

「ぁ……あぁあああっ!」


柄田は喜ぶようにその心臓を掴み取ると、力のままに引きちぎった。その瞬間、神癒奈の目から光がなくなり、彼女だった"モノ"は、剣から振り放され、地面にドサリと落ちる。

直後、彼女の体は温かな人の肌から冷たい石となり、青白い岩へと変貌した。


「けひゃ、けひゃひゃひゃひゃ! これで焔月は全員死んだ! これからは破獄様の世界が始まるんだぁ!」


その場に聞こえたのは、狐の鳴き声ではなく、醜い怪物の高笑いだった…。

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