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ヒトとキツネの異世界黙示録  作者: 遊戯九尾
第四章 焔月の呪いと秘宝、そして神へ至るキツネ
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見慣れた景色、変わり果てた世界

山を降り、都の中に入り、永戸と神癒奈はその中を探索する。だが、神癒奈の姿は先ほどから少し違っていた。


【いいか、お前がここの出身で、かつ焔月の生き残りだってことがバレたら待っているのは死だ、とにかく隠し通せ、偽装装備をフル活用しろ】


というわけで神癒奈はいつも出している耳と尻尾は消して、尚且つ頭にフードを被って初見で見破られないようにしてきた。


「一体なんで、この世界で事件が…」

「分からない、課長も、なんで俺たちをこの任務に当てたんだ」


完全な人選ミスだと永戸は思いながら神癒奈と一緒に歩く。だが、一つメリットとなる点があった。

それは、神癒奈がこの世界のことを知っているということだ。神癒奈とて九尾の狐で千年を生きている。この世界に関しては知り尽くしてるはずだ、半年以上前に別世界に渡ってきたが、もしターゲットである魔殺楼のことを知りたいのであれば、その半年で変わったことを調べればいいだけだ。

現に永戸達は、神癒奈が暮らす世界の一番の都にやってきていた。


「で、何か変わった点はあるか?」

「そうですね……一つ言えることは、昼間だというのに妖の気配がおびただしい量に増えたということですね」

「その違いを例えるなら?」

「ポテトがSサイズからLサイズ二個になった感じです」


それ増えたってレベルじゃねぇよなと永戸はツッコむ。だが神癒奈はそれを踏まえてとある人の方へ向いた。


「例えばあそこ、栄養失調で倒れかけの子供がいますよね」

「あぁ、いるな?」


神癒奈が指を指すと、その先には、貧民かなにかなのか、痩せ細った子供がいた。


「アレ、妖怪です、人間の欲を喰らうタイプの」

「あんなのでも妖怪なのか…でもなんであんなヒョロそうにしてるんだ?」

「…多分ですけど、飽和してるんですよ、妖の量が」


というと…? と永戸は聞き返す。すると神癒奈は話を続けた。


「さっき、私が妖の数がポテトのSサイズからLサイズ二個の量に変わったって言いましたよね? じゃあもし、人間がポテトのLサイズ一個分の数で、妖が人間から欲や身体を喰らおうとしたら?」

「…食べたくても、食べ物の数が少なくて食えないやつが出てくるな?」

「つまりは、そういうことなんです」


そう言うと神癒奈は都の大通りを振り返る。そこを行き交っている"生物達"を見て、永戸にしか聞こえない声でこう言った。


「今、この都は、危機に瀕してます。人と妖の量が入れ替わり、両方の種族が、死に絶えようとしていると言う危機が」

「…これを放置したらどうなる?」

「都から人間が消え、妖達は飢えて死に、生きるために奪い合う羅生門状態になります」


ゾッとする話だと永戸は思う。だが、神癒奈は深刻そうな顔でこの景色を見ていた。するとそのときだった。


「あんた……その気配…焔月の子かい…⁉︎」


巫女服を着た老婆が、神癒奈を指差してそう言ってきた。


(不味い、バレたか⁉︎)


永戸が危機を察知して剣を取り出そうとしたときだった。


「その声…波婆さんですか⁉︎」


神癒奈が老婆の方を向いて手を取ってフードから顔をちらつかせたのだ。それを見た老婆は少し驚いた様子を見せるが、周囲を見渡すと、神癒奈の手を握った。

どうやら敵ではなさそうだ。


「ここだと誰かに聞かれる、ついてきなさい」


言われるがままついていくと、誰もいない神社にたどり着いた。そこに辿り着くと、波婆さんと言われていた老婆は神癒奈を強く抱きしめた。


「その顔、神癒奈ちゃんじゃないかい…そうかい…生きておったのか………良かった、焔月が滅んだと聞いてから、てっきりみんな死んじまったのかと思っておった……だが、お前さんが生きていて良かったよ」

「ごめんなさい…心配をかけて」

「ううん、お前さんは悪くない、悪いのは、お前さん達を滅ぼそうとした人達じゃよ」


顔を見せておくれと老婆は神癒奈のフードをとる。その顔をまじまじと見て、老婆は涙ぐんだ。


「…で、誰なんだ? この婆さんは」

「紹介してませんでしたね、こちらは波子なみこさん、はるか昔より代々人と妖怪の間を取り持つ巫女の役目をしてきた家系の人で、焔月と深い関係を持つ方です。波婆さん、こっちは永戸さんです。今の私の仕事仲間です」

「仕事仲間…? 焔月の姫であるお前さんが仕事だなんて、一体何があったんだい?」


神癒奈はこれまで自分が体験した経緯を1から全て話した。そのことを一つ一つ聞くごとに、波婆さんは驚いたり、涙を流したり、様々な反応を見せた。


「世界を救う組織、その仕事でここにきた…話は分かった、お前さんも久々の故郷で嬉しかろう……じゃが、ここは変わってしまった」

「…ええ、だいぶ変わってしまいましたね、どうしてこんなことになったんですか?」

「お前さんの話す魔殺楼さ、あやつらが、人と妖の頂点に立ってしまったのじゃ」


すると、波婆さんは、暗い顔をしながら話を始めた。


「魔殺楼、ことの全ての始まりはそやつらから始まった。そ奴らはまずは焔月は悪だと人間達に嘘の話を流し、焔月を滅ぼした」

「「っ!」」


焔月を滅ぼした相手が魔殺楼だったと判明し、神癒奈と永戸は驚く。まさかそんな所に繋がりがあったのかと、焔月が滅んだ原因がそこにあると知り、神癒奈の中で激しい怒りが湧き上がり、彼女は手を強く握りしめた。


「落ち着くのじゃ、怒りが湧く気持ちもわかる、じゃが、奴らはそれで終わりにしなかった。奴らは人間達の焔月への乱に乗じて焔月の秘宝を盗み、妖達の頂点に立った」

「ちょっとまった、魔殺楼って、人間の犯罪者の組織じゃないのか?」


引っかかるところを感じ、永戸が波婆さんに質問をする。波婆さんは、それに対してこう答えた。


「あぁ、あやつらは人ではない、いや…人間であった、じゃな。正確に言えば」

「どう言うことなんだ?」

「魔殺楼の頭領は焔月の秘宝を取り込んだ事で、人間を辞めたんじゃよ。人を辞めて、化け物畜生に成り下がってしもうた」

「なんなんだよ…その、焔月の秘宝って」


秘宝について聞くと、今度はそれに神癒奈が重い表情で答えた。


「それは、殺生石……伝説の大妖怪、玉藻前が残した恐ろしい力を持つ石で、先祖の遺産です」

「先祖の遺産って…つまりは」

「はい、私達焔月の狐は、玉藻前の子孫なんです」

「なんだって⁉︎」


衝撃的な話を聞いて、永戸は絶句する。

玉藻前…それは、かつて三つの国を傾け、圧政を強い、歯向かうものがあれば殺したとされる妖怪の中でも伝説級の大妖怪だ。

神癒奈が、そんな大妖怪の子孫だと聞いて、永戸は驚きを隠せなくなる。


「そこまで驚くとは、お前さん…仕事仲間の癖に神癒奈ちゃんの事を知らずに接していたのかい?」

「いや…焔月が滅んだ家系で、尚且つ神癒奈がその姫様だとは聞いていた、でも、玉藻前の家系だなんて、知らなかった」

「…知らなくても無理はないだろうさ、神癒奈ちゃんが、こんな事話す筈もないだろうからね」

「…はい」


神癒奈の落ち込む姿を見て、永戸は何も言えなくなる。同時に、永戸も怒りが湧いてきた。その理由は、ユリウスの言っていた言葉だ。


【そうそう、神癒奈君についてだが、君はどう思う? 彼女が禁忌になり得るか否か、だよ】

【……焔月は、呪われた一族なのだよ】

【君達は、いいや、我々も何も知らない、"アレ"がどれだけ恐ろしい存在なのかを】


(課長は、"知ってて黙ってた"、神癒奈がどんなところで育ち、どんな家系だったのかを、だから課長は、俺に神癒奈の事を見るように頼んでたんだ…!)


この状況も仕組まれた物なのだろうか、永戸はユリウスへの怒りを燃やす、だが、今いない者のことを考えても仕方ない、永戸は任務に集中するべく、話を変えた。


「それで、秘宝を手に入れた魔殺楼はどうしたんだ?」

「さっきも言った通り、奴らは焔月を消して妖達の頂点に立ち、この都を手にした。その結果、妖を統治する者達は奴らに変わり、都には我が物顔で妖達がのさばり、焔月の呪いと重なり、人の数はどんどん減っていったのじゃ」

「焔月の呪い…?」


次々と訳のわからない話が続き、永戸の頭は半分パニック状態に陥っていた。そこで、神癒奈は補足を加える。


「殺生石については知ってますね?」

「あぁ、周囲の人の生命を奪うというアレだろ? アレで人間が妖達の頂点に立ったって言うけどどんな石なんだ?」

「あの石は、人の生命を奪うと言いましたけど、正確には違うんです、あの石は、生命の力を周囲から蓄える石なんです。そして、それを取り込んだ人間は…限定的ですけれど、不老不死の力が得られます、ただし、周囲の生命を定期的に吸収しなければ、すぐに力尽きてしまいますけどね」

「冗談だろう…?」


神癒奈の説明を受けて、永戸はもう何度目かもわからない驚きを見せる。波婆さんは、そんな永戸の驚きを収めるように、話を続けた。


「本来なら殺生石は、厳重に管理されて人は触れてはならぬ物だったのじゃ、じゃが奴らは焔月の禁忌に触れてしもうた。都からは毎日、貢物として若い人間が魔殺楼の屋敷に送られ、食われておる。妖も同じように人を大量に食ろうており、しまいには妖の子が飢えてしまうほどの場所になってしもうた。この都は、もう終わりじゃと思っておった…」


そう言うと、波婆さんは、もう一度神癒奈の手を取った。


「じゃが、神癒奈ちゃん…お前さんが来てくれたからにはもう安心じゃ、焔月の本物の継承者が、人と妖の境目を決めてくれる。これで都は安泰…」

「っ! 伏せろ! 婆さん!」


永戸がそう言い、波婆さんと一緒に神癒奈と地に伏せた時だった。彼女の前を、巨大な手裏剣が目の前を通り過ぎた。


「ちっ…殺し損ねたか、人間ってぇのはすぐ死ぬ癖にしぶとい生物だよなぁ、なぁ、兄者」

「馬鹿者、弟よ、死に損ないのババァは兎も角として、あの男を見ろ、只者ではない。もう一人の女は…なんだ? どこかで見覚えがある気がするが」


現れたのは人…いや、人ならざる何かだった。片方は巨大な鬼の姿をした者で、もう片方は小さな餓鬼の姿をした者だった。


「貴方達は…何者ですか!」


大切な人を傷つけられかけた怒りか、神癒奈は立ち上がってまっすぐと見据える。永戸も波婆さんを奥へ逃がすと、神癒奈の隣に立った。


「「我らは魔殺楼の地獄兄弟!」」

「兄の柄名がらな

「弟の柄田がらた!」

「何処の馬の骨かは知らぬが、我らに仇なす者達よ、主の命によって今ここで消させてもらう!」


永戸と神癒奈の前、そこに立っていたのは、間違いなく、鬼とも呼べる存在だった。

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