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ヒトとキツネの異世界黙示録  作者: 遊戯九尾
第三章 大柄な蜘蛛と調和を乱す者達
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変わらぬ日々'

都市での魔導戦車との戦闘が起きたあれから、ニックとグレゴリーはちゃんと捕まった。今度こそきちんと記憶処理が施され、二人の亜人に対する人権問題が暴露され、牢獄にぶち込まれた。

四課に対するメディアでの騒動も、グレゴリー達による印象操作だと公表され、四課の存在は再び闇に葬られた。


そして今日も、何気ない1日が始まる。


「おはようございます!」

「うむ、おはよう」


元気よくオフィスにやってきた神癒奈達、使っている武器を立てかけると、いつものように椅子に座ってデスクワークを開始する。


「おや、今日は早いじゃないか、明日は雪でも降るのかな?」

「偶には早めにきてもいいだろ、余計な口挟んでると、さっき買ってきてやったハンバーガーとポテト渡さないぞ」


遅れてライが出勤してくる。相変わらず澄ました表情で永戸と会話をする彼、はぁぁと言いつつも永戸はハンバーガーとポテトの入った袋を彼に渡した。


「皆さーん、おはようございます! 荷物を置いたら飲み物を用意してきます!」

「私も手伝いましょう、課長が頭から紅茶を被らないように」


続いてコリーが出勤してきた。必要な鞄などを机に置くと、すぐに四課の全員分のお茶やコーヒーを沸かしに向かった。それを見るとフィアネリスが、コリーがドジを踏まないように助けに向かう。


「おはよう、ございます…」

「おはようございます! エイルさん!」


最後にやってきたのはエイルだった。大きな体をうまく揺らして器用にドアをすり抜けると、自分の椅子に座ってふぅっと落ち着く。耳にはイヤホンがつけられていて、どうやらテレビの音声を垂れ流していたらしい、その番組ではこう言われていた。


《ミズガルズの議会、亜人特別区を暮らしやすい場所に整備の予定を公表》


自分の場所の暮らしが良くなると聞いて、嬉しいのか、エイルは自分のEフォンの画面を見ながら微笑んだ。


「課長、今日の任務は何かあるでしょうか?」

「今日もないねぇ、相変わらず、世界は平和だよ」


永戸がハンバーガーの包み袋を開けながらユリウスに仕事がないか聞くが、どうやら今日も仕事はないらしい。それを聞くと、その場の全員がふぅっとため息をつく。


「平和なのはいい事ですけど…なんだかちょっと刺激が足りませんね…」

「平和過ぎると仕事がなくて困るな、税金泥棒だってそのうち言われるんじゃないか?」

「まぁゆったり待とうじゃないか、どうせ仕事が来たら一気にブラックになるんだから、平和を楽しもう」


エイル、永戸、ライがそれぞれコメントをする。3人の言うことも至極真っ当だ、仕事がないと、四課はただのボランティア団体になってしまう。

そしてEフォンに送られてきた今日のタスクも……ボランティアのタスクとなっていた。


ーーー


いつものように本日もボランティアへと赴いた永戸達。今回は課長以外の四課の隊員全員がボランティアに来ていた。

今回は都市部で起きた昨日の戦闘の後始末だった。


「なんで街を救った俺たちが他人が壊した街直さなくちゃいけないんだ」

「文句言わないでくださいよう、耳が痛いです」


幹線道路はバイクやヘリの残骸などでボロボロ、ビル街の中心には魔導戦車がどっしりと倒れ、他は建物に弾痕やひび割れたアスファルト、倒れたビルや警察署など、洒落にならない被害が出ていた。

永戸達は確かに街を壊すつもりで戦う気はなかった。だが、神癒奈とエイルは違った。永戸達を救出する際に幹線道路でドンパチして、警察署も吹っ飛ばした。こうして街が壊れているのは半分ほどは彼女達のせいでもあるのだ。

そんな中、彼らはスコップやロープ片手に瓦礫を処理していく。


「身体強化があるとはいえ…重い…!」


普通の人なら運べないほどの大きさの瓦礫を、永戸はロープで引っ張っていく。これも、彼に備わった特殊能力のおかげだ。

すると、神癒奈がやってきて、前に立ってロープを引っ張った。二人分の力になったおかげか、少しずつしか動かなかった瓦礫がズルズルと楽に動く。


「うおっ、一気に動くようになったな」

「ふふん、か弱い人間とは違いますので」


神癒奈が自信ありげにそう言うと、二人で瓦礫を引っ張っていく。その後、邪魔な瓦礫を退けると、今度は道路や建物の補修が仕事となった。


「ほーーー」


神癒奈はビルの上の方を見上げる。なぜ見上げていたのかと言うと、そこでは、エイルが蜘蛛の糸で壁に張り付いて、割れていた壁を補強していたからだ。隣ではフィアネリスが浮いて同じように補強をしていたが、エイルの手捌きは、彼女以上に上手に、尚且つ短時間で綺麗に直していた。


「凄い器用ですね、こう言うの、得意なんですか?」

「え、えぇ…こういったことは昔からよくやってたんです、綺麗にできてるでしょうか?」

「はい! とても上手です!」

「えへへ…ありがとうございます」


そうして二人は今度は道路の補修に入る。直すのは主にプラスチック爆弾で装甲車を吹っ飛ばしてしまったところだ。


「セメントを流し込みますか」


そう言うとエイルはまずは道路の砂利を取り除き、セメントを抱えると、それを丁寧に塗り、道路の傷を直していく。それで、大体慣れたらロードローラーに糸を張り、引っ張ってセメントを整えた。


「綺麗ですね、私たちが壊したとは思えないくらい」

「あのことは忘れましょう…」


二人して遠目で自分たちが街を壊したことを思い出す。しかし考えていても仕方がないので、二人はボランティアを続行した。


ーーー


ボランティアが終わり、ある程度綺麗になった街並み、とはいえ壊れた箇所はまだまだ多い、壊れた所は、後日ちゃんと建て直すか修復する事に決まった。

地面に倒れる魔導戦車は、機密処理の為イストリアが回収して軍に明け渡すらしい。新型と聞いていた為、その結末は納得した。


「うーん! 一仕事終わりましたね!」


体のこりをほぐすように全身を伸ばす神癒奈、仕事を終えた彼女たちは、四課お抱えの装甲車に乗ってのんびりと帰っていた。

帰り道から綺麗な夕陽と、守り抜いた亜人特別区が見える。


「こうして見ると、この都市は、どこも綺麗ですね」


遠くに見える街並みは、どんな景色でも、そこで暮らす人たちの活気が溢れていて、それを守り抜けた事に神癒奈は誇りに思えた。


「神癒奈さん、ありがとう…ございます、私の街を守ってくれて」


同じように景色を見ていたエイルが、神癒奈に語りかける。彼女は遠くにある、亜人特別区を見ていた。


「…ええ、貴方の街を守れて、よかったです。でも、街を守れたのは、貴方のおかげでもあるのですよ?」

「そうですね…私がいなかったらきっと、あいつに四課は潰され、街も壊されていたでしょうね」


そう言うと、エイルはこれまでの事を振り返った。最初は亜人達を守る為にデモの邪魔から始まり、そこから四課の危機、巨大兵器と、大変なことばかりだった。けれど、それを守り抜けた事に同じように誇りを持てたのか、神癒奈の方に振り向くと、にっこりと笑った。


「時間も余ったし、何か食べて帰るか?」

「あっ! 私美味しいお店知ってる!」

「高い店はダメだぞ、俺たちの財布が空っぽになるからな」

「なら、ファミレスにでも行こうじゃないか、そこならちょうどいいだろう?」


楽しい会話をしながら四課のメンバー達は食事へと向かう。仲間が全員揃った彼らには、強い絆が芽生えていた。


ーーー


「…これが今回の報告書…ねぇ」


誰もいないオフィスで、ユリウスはこの前の戦闘の記録を見る。その記録に載っていたのは、神癒奈の記録だった。


(あの時永戸君を守る為に使った力…あれはライ君のような通常のバリアといった能力ではない)


神癒奈の載っていた記録にはこう書かれていた。


【能力はガード系に見えるが、実際は特殊な力場を発生させていたと思われる、正確な能力の情報は不明】


そう書かれた記録を机に置き、ユリウスは考える。実際にあの時戦闘に参加して思ったのは神癒奈にはまだ秘められた力があると言う事だった。


「彼女自身は何気なく使っているが、彼女には、まだまだ秘密がありそうだね」


そう言うと彼は紅茶を一飲みする。だが、その表情は曇りが混じっていた。


「焔月の最後の妖狐…生命の使い…神の子…彼女を形容する肩書はいくらでもある、彼女がどのような存在に変化していくか、確かめなければならない。そして最終的には…」


チラリと壁に立てかけてあった自分の剣を見て、ユリウスはこうつぶやいた。


「彼女を殺さなければならないかもしれない」

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