脱獄
特殊警察署の地下の牢獄の中で、永戸達は捕まっていた。
「だーしーてーくーだーさーいー!」
「うるさいぞコリー、そんなに叫んでも喉が渇くだけだ」
「嫌だ! デブでエゴイストなおっさんに人生終わらせられるなんて生理的に嫌だー!」
「図太いなお前…」
コリーが鉄格子をガンガンガンガン揺らすが当然ながら全く破れる気配がなかった。
彼らの手には白銀製の特殊手錠がつけられ、皆同じ部屋にぶち込まれていた。
「フィーネ、解錠はできるか?」
「ダメですね、専用の電子ロックがかかっておりまして、キーピック程度では開きません」
「手錠のせいで能力も使えないし、困った物だな」
フィアネリスが服の中に仕込んであったキーピックで開けようとするも、てんで開く気配がない。
「全ては後輩達に委ねられてるか…神癒奈君とエイル君はどうしているだろうかね…」
「迎えに来るとは言ってましたね、Eフォンの信号が送られているはずですからここまで来るとは思いますが、追跡や警備隊を振り払えるかどうか」
どうしようかとユリウスは悩み、永戸も彼女達を心配する。するとその時だった、牢獄の奥からグレゴリーとニックがやってきた。
「ふぅん、四課の諸君、ご機嫌はいかがかな?」
「紅茶が飲みたい気分だね、ここの食事では水しか出されないから困った物だよ」
勝ち誇った顔をするグレゴリーに対して、ユリウスはすぐに紳士の顔をする。
「こいつだよ親父! 俺を捕まえてきたのは」
「誰だっけお前、悪いが俺は忘れん坊でな、昨日食った飯のことすら覚えられないくらい頭が悪いんだ」
「ニックだよ! その顔、完全にしらばっくれてるだろ!」
ニックが永戸に指をさすが、永戸は知らないそぶりでへっと笑う。親子揃ってdisりに来たかと四課のメンバーは思うが、神癒奈とエイルがまだ残っている以上、希望はあった。
「ふん、あの狐と蜘蛛が逃げているからまだ諦めてないと思っているだろうが、所詮低俗な魔族だ、すぐに捕まる」
「お前が神癒奈とエイルの何を知ってるって言うんだ、追い込まれた動物は何をするかわからないぞ」
「そうだ、エイル君はともかくとして、君達は、いいや、我々も何も知らない、"アレ"がどれだけ恐ろしい存在なのかを」
「…課長?」
ポツリとつぶやいたユリウスの言葉に、永戸は振り返る。エイルの実力は永戸達四課の全員は知っている、だが神癒奈に関しては永戸達はまだ一部しか知らない、彼女がどこから生まれ、どんな力を持つのかを。
ユリウスは一体彼女の何を恐れているのか、永戸には分からなかった。
「たかが狐一匹に一体何ができると言うんだ。九尾だか何だか知らないが、我々の計画を止められる事がない」
「計画だと?」
グレゴリーの計画と聞いてライが突っかかる。
「あぁ、これから私達は害獣どもが暮らす亜人特別区を焼き払う。軍用で開発された新型の大型魔導戦車を使ってな!」
それを聞くと、四課の者達は息を呑んだ。
「待て、亜人特別区は曲がりなりにもミズガルズの領地の一つだ、議会の決定もなしに勝手に焼き払ったら、お前の立場が危うくなるぞ」
「そんな事、今捕まってるお前達のせいにすればいい、脱走し暴走したイストリアのエージェントが、亜人特別区を攻撃したとな」
くそっ、得意の情報統制かと永戸達は焦る。この男は、自分達に罪を完全になすりつけるつもりらしい。
「そんな事、私達四課が許さないんだから! 今に見てて! 神癒奈ちゃんとエイル先輩が貴方達の計画を壊しにかかるんだから!」
「牢獄に入ったお前達が何を言っても無駄だ! 亜人特別区を焼き払ったら次はこの都市から亜人共を追い出す! それまで指を咥えて見てな!」
「誰が指を咥えて見てな…ですって?」
ニックの発言に聞き返すように、突然部屋の扉の方から声が聞こえてくると、扉が何かで吹き飛ばされた。バートン親子はその爆発で驚き、ニックは気絶し、グレゴリーは腰が抜ける。
するとそこにやってきたのは…。
「お待たせしました! 正義の味方の登場です!」
プラスチック爆弾を片手にEフォンを握った神癒奈がそこにいた。
「狐……くそ…お前ぇっ!」
「貴方達の計画、全て聞かせてもらいました!」
コツコツと音を立てて階段から降りてくる神癒奈。グレゴリーはジリジリと下がることしかできなかった。
「大人しくお縄についてください!」
「…くっ、害獣がぁ!」
グレゴリーが拳銃を手にすると神癒奈に撃った。だがその銃弾は神癒奈の焔によってとけてなくなる。
「化け物め…!」
「私もいますよ」
「エイル!」
神癒奈から遅れてエイルも牢獄に入ってきた。サブマシンガンとチェーンガンを構えた彼女は、バートン親子にそれを向ける。
「貴方がたの計画もこれでおしまいです、先程の発言、全て端末のボイスレコーダーに記録させていただきました」
「何だと…!」
エイルもEフォンを掲げる。そこには、先ほどバートン親子が発言した、亜人特別区の破壊計画の話が入っていた。その記録を聞いてグレゴリーはぐぬぬと苦し紛れに唸ると、ポケットから何かの機器を取り出した。
「まだだぁ! こうなったら直接、今ここでお前達に審判を下してやる!」
そう言うと、グレゴリーは機器のスイッチを押した。直後警察署の天井が崩れ落ち、巨大な手が出てきてグレゴリーを持っていく。
「あれは…さっき言ってた魔導戦車か!」
「神癒奈! 鍵がその辺りにかかってるはずだ! その鍵をこっちによこせ!」
「はい!」
神癒奈がそばにあった鍵の束を手に持つと、永戸達のいた牢獄に投げた。それをキャッチした永戸は、一人一人の手錠のロックを解除していく。
「神癒奈さん、先に私はあの魔導戦車を追いかけます! 後で落ち合いましょう…!」
「了解です!」
そう言うとエイルはローラーダッシュで魔導戦車を追いかけ始めた。永戸達の方も手錠を取り終え、牢屋を開けて外に出ると開いた手錠をニックの手足につけ、そのまま牢屋に入れ替わるようにぶち込んだ。
「神癒奈、俺たちは武器を取ってくる、お前は先に行って車を確保していてくれ!」
「分かりました!」
先に行ったエイルを追いかけるように神癒奈は出ていく。永戸達は服装を整えると、部屋から出て近くの部屋に入り、立てかけてあった自分たちの武器を手に取った。
「よかった、全員の武器がちゃんとある!」
「俺たちも急ぐぞ、あのクソ親を止めないと街に被害が出る!」
「かしこまりました!」
それぞれが武器を持ち、しまわれていたEフォンを回収すると、警察署の外に出る。外は、新型魔導戦車が通った事でパニックに陥っていたのか、警察官達が右往左往していた。
「今のうちに!」
神癒奈の声を聞き、近くにあった彼女が確保した装甲車に永戸達は乗り込む。
「私、エイルさんのところに先に行ってます!」
「頼むぞフィーネ!」
永戸達が装甲車のキーを入れる中、フィアネリスは先に飛んでエイルを追いかけた。そして、エンジンがかかると、装甲車は走り出した。
ーーー
先ほど通った幹線道路を、今度は逆走する形でエイルは魔導戦車を追いかける。敵魔導戦車は二本の腕と四つの脚をもった大きなロボットで、コックピットにグレゴリーを入れると亜人特別区の方に一歩ずつ歩みを進めていた。
「させない! あそこは…私の街だから!」
そう言ってエイルはサブマシンガンとチェーンガンを魔導戦車に撃つも、びくともしなかった。
ならばと今度は肩部無反動砲を撃つが、これも装甲が若干傷ついただけで、全然ダメージが入らなかった。
『蜘蛛の小娘が、そんな小さな武器で一体何ができると言うんだ!』
攻撃を受けてエイルの方に魔導戦車が振り向く。すると、向こうも肩からレーザービームを放ち、幹線道路を焼き払ってきた。
「っ!」
エイルは横にステップして避けるが、レーザービームによって残ったもう片方の盾が溶けてなくなる。それをパージすると、エイルはサブマシンガンをケースにしまい、代わりに重戦車砲を取り出した。
「これでっ!」
移動しての射撃となるが、あれだけ大きければどこかに当たるはず、そう思い、エイルは戦車砲を撃つ。放たれた砲弾は魔導戦車の装甲を貫くことには成功したが、損害はそこまで与えられなかった。
「何が何でも、行かせない!」
戦車砲を連発し、魔導戦車のボディに穴を開けていく。だがここで弾が切れてしまった。
「このっ!」
戦車砲を捨て、もう片方のケースから、同じものを取り出して、再び連射する。装甲に次々と穴が開くが、やはり効果は薄い。もう片方の戦車砲も捨て、万事休すかと思いきや、エイルは思わぬ行動に出る。
「止まって……!」
できる限り使える部位から、糸を出すと、魔導戦車の四肢や体に取り付けて引っ張った。
エイルの身体能力と、装甲戦闘服のパワーに、魔導戦車の動きは止まり、引っ張られる。
『蜘蛛如きが、こざかしい真似を!』
だがしかし、あまりにも巨大で重いものを引っ張っている代償か、装甲戦闘服に次々とエラーが発生した。各部アクチュエーターから煙が吹き出し、装甲戦闘服が火花を立てて壊れていく。
敵は今度こそエイルを焼こうと、レーザー砲を構えた。
「持ち堪えて!」
エイルがそう言い、全力で引っ張るとついに限界が来て、装甲戦闘服が壊れ、自動的にパージが行われた。同時に体が宙に浮かび、魔導戦車の方も、体がわずかに浮かび、レーザーがあらぬ方向へと飛んでいく。小さな蜘蛛の力に対抗した巨大な戦車は、その巨体に似合わず、尻餅をついた。
その時だった。空から青い光と共に飛んでくる何かがエイルの目に映る。
「ハイパードライブシステム解放! フルバースト!」
空から飛んできたフィアネリスが、対艦槍から波動砲を連射し、魔導戦車にダメージを与えた。
戦車砲には耐えたが今度は何せ波動砲だ。装甲が弾け、脚部の一本が千切れ、魔導戦車にようやくまともな攻撃が通った。
『おのれ…四課の害獣どもめ!』
「エイルさん!」
「神癒奈さん…!」
装甲車が到着し、天井から神癒奈が飛び出てきてエイルの元へと走ってくる。疲れ果てたエイルが手を上げると、神癒奈はその手を片手でハイタッチした。
「後は託しましたよ…!」
「はい! 貴方の街を、守ります!」
そう言うとエイルは残ったサブマシンガンを手に装甲車の元へと向かう、反対に、永戸達が出てきて、永戸、ユリウス、神癒奈の3人が矢面に立った。
「さて、久々に運動をしようかね」
「課長、歳ですから、無理はなさらず」
「ははは、まだまだ私は現役だよ」
「来ますよ!」
フィアネリスが空から見守り、ライやコリーがエイルを介抱する中、それぞれが武器を構えると、3人はグレゴリーの乗る魔導戦車と戦闘を開始した。




