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ヒトとキツネの異世界黙示録  作者: 遊戯九尾
第三章 大柄な蜘蛛と調和を乱す者達
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デモ隊の逮捕が終わった翌日、信じられないことが起きた。


「「「はぁ⁉︎ ニックが釈放された⁉︎」」」


なんと、昨日捕らえた筈のデモ隊の首謀者、ニック・バートンが釈放されたのだ。それを聞いた人間組3人は同じ声を上げる。

亜人組の者達もポカンとしていた、一体どうしてそうなったと。


「それが…昨日の夜、客が来てね…ニックの親から直接、莫大な保釈金を受け取ったのだよ、それで彼は仮とはいえ釈放された」

「ちょ、ちょっと待ってください、親って…」

「ミズガルズシティの議会議員…だね」


驚きで言葉にならないコリーにライが補足を加える。するとコリーは枯れた植物のようにしなしなになった。


「私…昨日沢山の銃弾を怖い思いしながら浴びたのに」

「まぁまぁ…」

「死ななかったからよしですよ…」

「残念ながら、完全に徒労になってしまった」


部屋の隅で泣くコリーを神癒奈とエイルが慰める中、ユリウスは珍しく厳格な表情を見せる。


「この街の議員というと…」

「グレゴリー・バートン。人間賛美でその他の種族の存在を良しとしないこの街の議員の中でもかなりの捻くれ者だ」

「確か、メディアにも進出をなさってますよね、そのお方」


フィアネリスはそう言うと、部屋にあった自身のパソコンの検索データを見せた。その話を聞くと、部屋にいたユリウス以外と全ての人が、フィアネリスのパソコンに釘付けになる。


【グレゴリー氏、亜人特別区の排除を推進】


「亜人特別区…?」

「要するに普通の人間じゃない人外の者達が暮らしている区画の事だ、子も子なら親も親だな…」


はてなを浮かべる神癒奈に永戸は説明する。だが一つ気になる事があった。


「待ってください課長、俺達は昨日確かにニックを捕まえました。普通ならデモ隊の首謀者としてメディアに乗るはずです。親のグレゴリーだってその経歴に泥を塗られる筈、でも今日はそんな情報どこにも出ていない」

「…揉み消されたのだよ」

「…そんな馬鹿な」


永戸の驚愕を見て、ユリウスを窓の外に椅子を向け、苦しそうに語った。


「本来、四課は必要に応じて情報統制が可能な部隊だ、普通に行けば、ニックはデモの首謀者としてメディアに報道され、その逮捕の経緯だって"イストリアの部隊がやった"とぼかされる筈だった」

「だった? …まさか」


ユリウスの話を聞いて、永戸はある一つの可能性に気付いた。永戸の勘の良さに合わせて、ユリウスは話を続ける。


「四課の情報統制を上回る力でそれら全ての事件を揉み消されたのだよ。昨日の役所の騒動もテロ事件の訓練という扱いになり、逮捕されたニックも記憶処理をされる前に釈放されてしまった」

「記憶処理がされる前? それってつまり…!」

「四課の情報が流出してしまった。本来であればあらゆる手段で事件を影で解決し、無かった事にする四課と言う存在がニックという人物の記憶が残ったことによって流出してしまった」


不味いことになったとユリウスは唸る。課長のその顔を見て、事の重大さは永戸だけでなく神癒奈達にも伝わった。


「恐らくグレゴリーかニックは、これからイストリアとそれの四課という存在を弾圧し始めるであろう。非人道的行為を行う外道の集まった部隊と公表して…」

「それじゃあ、四課はおしまいじゃないですか! ここで話してる暇なんてない、そんな事をしているうちに今すぐにでも私達の存在が脅かされて…」


神癒奈が慌ててそう言った時だった、オフィスのドアが強引に開けられ、そこから大勢の兵士が入ってきて四課の全員に銃を向けてきた。


「動くな! お前達を人道に反する犯罪として逮捕する!」


その言葉を聞いて、ユリウスは大人しく手を上げた、続いて永戸とフィアネリスも手を上げ、遅れて神癒奈達も手を上げた。恐れていた事態は最悪の形で起きてしまった。敵は、彼らが待つ事がなく、既に手を打っていたのだ。

辺りがしんとしてる中、コツコツと靴の音が聞こえ、誰かが部屋の中に入ってくる。


「臭い臭い、人外の匂いが臭って仕方ない」

「…グレゴリー・バートン氏、これはどういう要件ですか?」


中に入ってきたのは小太りな男で、神癒奈達を見るとふんと鼻で笑い、ユリウスを見る。反対にユリウスは背中を見せていながらも顔を後ろに向け、真っ直ぐとグレゴリーを見つめていた。


「要件? あぁ、我が子がお世話になったという事でね、今日はその礼に来たのだよ」

「礼にしては随分と過激ですね、大量の保釈金を支払っておきながら、我々に銃口を向けるとは」

「保釈金? 何のことかね? 犯罪者にやる金など一文たりともないぞ? ましてや、人ならざる生物にくれてやるものなど、何一つ存在しない」


そう言うと、グレゴリーは部屋の中で葉巻に火をつけては口に加え、煙をエイルや神癒奈の方に吹いた。どうやら昨日ユリウスに渡した保釈金は、あくまで貸しただけで、逮捕という形で返してもらうつもりだったらしい。その尊大で傲慢な態度に耐えられなくなり、神癒奈は牙を剥く。


「犯罪者? そもそも貴方の子供がデモを起こして街の人に迷惑をかけなかったら起きなかったことなんですよ! それを揉み消してこんな風に銃を突きつけて、一体貴方は何なんですか!!!」

「黙れ! 亜人風情が私に口を聞くな!」


神癒奈が怒鳴る姿を見て、グレゴリーは怒鳴り返し、彼女を殴った。あまり痛くは無かったが、神癒奈は殴られた衝撃で地面に膝をつける。


「イストリアの犬は犬らしく、世界の平和を守ってればいいんだ! デモの活動? そんなこと、この都市で起きる大量の事件と比べるととても些細な事ではないか!」

「一体人間以外の種族が何をしたって言うんですか! 何もしていないのに、権力と人の数に物を言わせて、ただ姿形が違うからと言う理由で、普通に暮らしてる方々を消そうとして、貴方とその子供は、卑怯です!!」

「口を開けばうるさいな! この害獣め!」


神癒奈の文句に対し、グレゴリーは今度は彼女の顔を蹴った。


「神癒奈さん!」

「神癒奈! お前…!」

「動いてもいいのか? ちょっとでも動けばこの害獣は私の手ですぐに射殺できるのだぞ?」

「くっ…!」


フィアネリスと永戸が助けに入ろうとするが、グレゴリーの発言により、兵士達の一部が神癒奈の頭部に銃口を押し付けた。


「ふん、害獣と一緒にいる人間や天使も同じ害獣だな、ここの空気は汚らわしくてかなわん、お前ら、さっさとこいつらを独房に連れて行け」


そう言うと、兵士達はグレゴリーの言う通り永戸達を一人一人連れて行く、椅子に座っていたユリウスまでもが連れて行かれ、どんどんと四課の部屋からその部屋にいた者達が連れて行かれた。

だが…他の人が動いていく中、エイルは動かなかった。


「おいお前、さっさと歩け!」

「……嫌です」


ポツリと、エイルがつぶやいた瞬間、いつの間にか出ていた彼女の糸が、神癒奈に向けられていた銃を縛り取り、彼女の手に握らせた。


「なっ⁉︎」

「エイルさん⁉︎」


上げた手を下ろし、銃を握ると、エイルはその場で乱射し、即座に別の糸を出して神癒奈を引っ張り抱える。そして、窓際まで下がると、部屋から連れ出されていく永戸に対して叫んだ。


「永戸先輩!」

「エイル!」

「…後で必ず迎えに来ます!」


そう言うと、彼女は高速で後ろに飛んで窓を破り、イストリアのビルから飛び降りて糸を使って飛んで逃げた。


「ぐっ…害獣風情が、次から次へと…! 追え! あの二匹の害獣を捕まえろ!」


兵士達はグレゴリーの指示を聞いて、神癒奈達を追いかける。だが、彼らがビルを出る頃には、二人の姿はコンクリートジャングルの中へと消えていった…。


ーーー


ビルが立ち並ぶ都市の中を、エイルが糸を使って高速で飛ぶ。背中には神癒奈を背負っていて、二人はなんとか追跡から逃れる事ができた。

適当なビルの屋上に着地し、エイルは息切れを起こす。


「はぁっ…はぁっ…よかった、逃げ切れた」

「エイルさん……ありがとうございます」


背中から下ろされて、神癒奈もほうっと一息つけた。上から街を見下ろすが、追跡してくる車の気配もない。エイルのおかげで助けられたのだ。


「いいえ…助けられたのはむしろ私の方です。あの時貴方が話して時間を稼いでいなければ、私達は逃げ出す事ができませんでした……それに」


それにと言うと、エイルは呼吸を整え、立ち上がって神癒奈の手を取る。


「貴方があそこで怒ってくれた事、私は、とても嬉しかったです。とても…かっこよかったです」


その時、エイルは神癒奈に対し、優しい笑顔を向けた。亜人や魔族と迫害される自分達に対し、その迫害に真っ向から立ち向かった神癒奈が、彼女にとってかっこよく見えた。


「ですけど、四課の人達は私達以外捕まってしまいました。私達の居場所は…もうどこにもありません」

「…そうでもありませんよ」


だが、エイルの称賛を他所に、神癒奈は俯き、弱音を吐く。エイルもそれは理解していた。今の彼女達にとって、安心していられる場所は存在しない。四課は犯罪者の集まる部隊として危険視されてしまった。だけど、それでも、とエイルは彼女に話しかける。


「…あの、もし宜しければなんですけど、私の家に来ますか? 私の家ならば、彼らは追ってこない筈なので」

「家…ですか?」


それを聞くと、神癒奈は目を丸くした。


「はい、私の家は郊外にあるので、彼らの手も届きません。一度そこで、体勢を立て直しましょう」


そう言うと、エイルは神癒奈を再び背に乗せ、彼女の有無を聞く前に、ビルとビルの間を飛んで家の方に向かった。

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