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ヒトとキツネの異世界黙示録  作者: 遊戯九尾
第三章 大柄な蜘蛛と調和を乱す者達
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尋問

翌日、デモ隊の事件については大々的にニュースに取り上げられた。神癒奈達がやったことは伏せられたが、デモ隊が鎮圧された場面が映され、各メディアで報道された。


「やり過ぎだね」

「すみません…」

「申し訳ありません…」


ユリウスに叱られ、神癒奈とエイルはがっくりする。それを見た永戸とフィアネリスは、やれやれと肩を落とした。


「何処の世界にそれほど抵抗できないデモ隊にマシンガンやチェーンガンをぶっ放し、投げつけられた火炎瓶を逆に投げ返して爆発させる鎮圧部隊がいる? もう少し優しく鎮圧してきなさい…」


そう説教され、二人は面目なさそうにしゅんっと縮こまる。


「とは言え、任務はご苦労だったね。お陰様でデモ隊から情報を引き出せる人を捕まえることができた」

「で、何か聞き出せましたか?」

「デモ隊の幹部らしいのだが口が硬いのかなかなかしゃべらなくてね、どうしたものかと悩んでいるところなんだよ」


話を聞いて、神癒奈はふむ…と悩む。今回捕まえられたのはあくまで幹部だけかと。あの場の中心にいた主導者は捕まっておらず、まだ健在だ。


「あの、この案件、まだ終わりではありませんよね、主導者も捕まってないし」

「あぁ、終わりではないね、だけど主導者に関しては情報を引き出せた」


するとユリウスは主導者となる人物のデータを紙にして渡してきた。


「名前はニック・バートン、親はこの都市、ミズガルズシティの議会議員で、親子共々亜人や魔族の存在を否定するなかなかのエゴイストだ」

「要するに金持ちの世間知らずのボンボンということですよね?」

「うむ、的をいた発言だ」

「言い方!」


エイルの発言を聞いて納得するユリウスに、それを見ていた神癒奈はそんな事を言っていいのだろうかとドン引く。

段々とエイルの嗜虐的な性格がわかってきて、神癒奈は目を点にして見ることしかできなくなった。


「何はともあれ、幹部から情報を吐かせたい。そこでだ、エイル君、君の力に頼る事にしよう」

「いいんですか…?」

「尋問の能力に関しては君の右に出る者はいないからね、任せてもらってもいいかい?」


尋問の能力と聞いて神癒奈は嫌な予感がした。そーっと彼女の顔を伺うが、その予感は的中した。


「ふひひ…お任せください」


神癒奈に見られても何処か楽しそうに、恍惚とした笑顔で返事をする彼女がそこに立っていた…。


ーーー


というわけでやってきたのは捕虜の尋問室。世界を守る組織にこんなのがあっていいんだろうかと神癒奈は思うが、中は簡素な部屋となっていた。


「て…てめぇら…俺たちの目的を邪魔しやがって!」


手錠をつけられて椅子に座っていた幹部の男がこちらを睨みつけてきた。だが神癒奈は当然の報いだとは思ってはいた。何せ自分達を排他する組織を動かしているのだから。


「目的、あなた達の目的ってなんでしたっけ…?」


部屋の中に遅れてエイルが手袋をつけて入ってきた。コツコツと蜘蛛の足音が部屋の中に響き渡り、彼女は捕虜の男の前に立つ。


「とぼけてんじゃねぇ! 俺達の目的は、お前ら亜人や魔族をこのミズガルズから一人残らず撲滅することだ!」


男はそう叫ぶと、椅子をガタガタ言わせながらエイルを睨みつけた。だがエイルは余裕そうに答える。


「はいはい、そうでしたね、でもこのミズガルズシティには何十万人もの人が住んでるんです…種族もバラバラで人だけでなくさまざまな種族が入り乱れることでこの街は成り立っているんです。そんな街から人間以外の異種族を消し去ったら、たくさんの方々が暮らしていたこの街がガラッガラになっちゃいますね、そこはどうするんですか?」


いつもなら気弱でおどおどした彼女だが、今見ている彼女はやけに饒舌に会話をしていた。神癒奈はそのままエイルを見守る。


「どうもこうもあるか! 他の都市から人間を連れてくるんだよ! このミズガルズを本当の意味で人の国にするんだよ!」

「人の国?」

「神癒奈さんは知りませんでしたね…地球という世界の北欧神話で、ミズガルズとは人の国と呼ばれてたんですよ」


そう言えばこの都市ってミズガルズシティって名前なんだと神癒奈は思った。妙に壮大な名前をしているなぁと思うが、彼女のそんな感想をよそに話は進む。


「んー…でも難しくありませんかね? ミズガルズには多種族に合わせた多種多様な職やインフラ、施設があるのですよ? 人間だけになったらこの都市の機能が一部死んでしまいますけどそこはどう考えているんですか?」

「それは……人間に合わせた作りに置き換えるんだよ!」


男が少しきょどりながらそう答えると、エイルの目はすぅっと細くなった。


「なるほど、貴方がたのけだかーい目的はよーく分かりました、これは私の感想ですけど…」


すぅっと目線を男と同じ高さに合わせて顔を近づけると、エイルはニタァっと笑いながらこう答えた。


「高すぎる理想、無茶苦茶な暴論、荒唐無稽な計画、後先の事を一切考えてないバカの世迷言ですね」

「んなっ⁉︎」


エイルにそう言われ、男は口をパクパクさせて唖然となる。まぁショックではあるだろう。自分達の目的をボロクソに言われたのだから。


「世迷言…だと⁉︎」

「はい、貴方達がいくら声を上げたところで、賛同する人なんてこの都市の人からいくら出るでしょうか? 当然、少ないに決まってますよね、だって皆さんはこの都市のこの生活を普通に受け入れているのですから。ましてや、あんな少人数でこの巨大なミズガルズから多種族を追い出すことなんてできませんよ」


それは確かに一理あると神癒奈は思った。実際にこの街は広い、インフラが各所に通っているとは言えこの街をぐるっと一周するにはなかなか苦労をする。そんな街から少人数のデモ隊で大量の多種族の人たちを追い出すなんてのは不可能だ。


「ここまで言ってもまだ分かりませんか? 貴方達のやっている事は、一匹のセミがみんみん鳴く程度のこうるさい小さな小さな儚い活動にすぎやしないんです、悲しいですね、辛いですね」

「てめぇ…! 俺たちの目的をバカにするな!」


捕虜の男が叫んでエイルに噛みつこうとするが、彼女は笑顔のまま引いた。


「ふひひ、さて、貴方から壮大で素晴らしい話を聞くのはここまでです。今度はこちらから質問しますよ……デモ隊のアジトは何処ですか」


そう言うとエイルは前足をダンッと男の座る椅子に乗せ、上から顔を近づけて睨みつけた。


「いっ…言うわけないだろそんな事!」


突然脅されても男は口を割らず、エイルから視線を逸らそうとする。だがエイルはそれを見越してなのか、顔を遠ざけると、ふぅっとため息をついた。


「まぁそうですよね、簡単に吐き出したら貴方の仲間が辛い思いをするでしょうし、吐き出したくありませんよね……」

「あぁ、俺は絶対に口を割らねぇ、脅したって無駄だ、さっさと解放しろ!」


へへへと男は笑いながら勝ち誇ったようにエイルを見るが、そんな彼女は余裕そうに服のポケットから何かを取り出した。


「これ、なんだと思いますか?」


彼女がポケットから取り出したのは何かの液体が入った試験管だった。


「へっ、自白剤がなんかか? イストリアもこんな事に手を染めなくちゃならないくらい必死だって事なんだな!」

「残念、自白剤じゃないんですよね…これは」

「じゃあ…なんなんだよ…」


男は何か嫌な予感を察したのか、僅かに震える。そして、その男の震えを見た途端、エイルは嗜虐的な笑みを浮かべた。


「私の体液から採取された毒です。量と濃度は死なない程度に抑えてますが、これ一本だけで頭から足まで苦しませることができる猛毒です」

「ど…毒⁉︎ は…ははは、ありえねぇ! 世界の平和を守るイストリアが、こんな拷問じみたことできるはずがねぇ! そんな事やっちまえばメディアが大騒ぎになるぞ!」

「確かにそうですね…普通ならありえない。こんな事をすれば過激だと色んな団体から文句が殺到するでしょうね…ですが、貴方達は昨日の戦闘である事を口走っていましたよね?」

「あ、ある事ってなんだ…?」


男の反応が楽しいのかエイルは悪い笑みを崩す事なく、むしろより楽しむように会話を続ける。


「"異世界特別調査隊には、裏の部隊がある"、貴方達は確かにこう言いました、じゃあもし、本当にそんな部隊があるとしたら?」


そう言うとエイルは服から手帳を取り出し、男に見せつける。


「異世界特別調査隊四課…表向きにはボランティア活動などで人助けをする優しーい部隊なんですが、この部隊にはある俗称がついてましてね、それがなんだか分かります?」


身が凍るようなエイルの笑みに、男はだんだん震えを隠せなくなっていく。


「"死神部隊"、イストリアの、その中でも選りすぐりのエージェントを集めた異世界特別調査隊の中でも、異世界の危険な案件に対処し、世界を救うためならばどんな手段も厭わない、超法規的な活動が認められた特殊部隊、それが、私達特査四課の本当の姿です」


その言葉を聞いて、男の恐怖は限界まで達し、ガクガクと震え始めた。


「う、嘘だ! そんなの、ハッタリだ! いくらイストリアでもこんなデタラメなことできるはずが…!」

「ない、そう思いたいと願うあたり、本当に都合のいい頭をしてますね。先程の普通の尋問で喋ってれば貴方は救われたものの、口を割らなかったせいで、貴方は今危機に瀕している。辛いですね、苦しいですね…」


試験管を注射器に差し込むと、男の腕の方に持っていく。すると、男はそれを拒否するかのように暴れ出した。


「やめろ、やめろやめろやめろぉおおお!」

「もう遅いです♪」


ぷつり…と注射器が刺され、毒が男に注射される。一瞬、尋問室はしんとした空気になったが、直後、男の悲鳴が聞こえた。


「がぁあああああ⁉︎ あぁあああっ!」

「痛いですか? 痛いですよね、だって死なない程度に苦しませる猛毒ですからね、とっっっても辛いと思います」


椅子が倒れ、横になりながら苦しむ男を見て、エイルは恍惚な表情を浮かべる。もう神癒奈は展開についていけず、ポカンとした表情で見守ることしかできなかった。


「あぁ、早めに話してたらこんな事にはならなかったのに、でも、安心してください、ここに解毒剤がちゃーんとありますから、もし全部話してくれるんだったら、解毒剤を打ってあげてもいいですよ」

「わかったぁああっ! 話す! 話すから! 頼むから解毒剤をくれぇええええっ!」

「はーい♪」


笑顔で返事をするとエイルは解毒剤を男に打ち込んだ。直後、苦しんでいた男はぜぇぜぇと息を荒げ…意識が飛んだ。


「あれ……気絶しちゃいました? 大丈夫ですよね? 死んでませんよね? まぁ仮に死んでたら蘇生して叩き起こすんですけどね」


男の様子を確かめるように前足でツンツンとエイルはつつく、その光景を見て、神癒奈はこう思った。


(絶対怒らせないようにしましょう…)


いろんな人がいる四課の闇の一つを、垣間見た瞬間だった。

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