例え人でなくても
翌日、異種族排他活動について、神癒奈とエイルはユリウスに報告した。
「ふむ…排他活動ね…四課の我々が動くまでもないが、君達はどう思うかね?」
「私は、止めるべきだと思います。今後も街の人々の平和を脅かすならば、そうならないように、私達があの活動を根本から止めるべきです」
「私も…神癒奈さんの意見には賛成です。あんな人達がいると、私と同じような人達が苦しい思いをすると思います。それを見るのは、私も悲しくなるので、止めるべきです」
そう二人は申告すると、ユリウスはふむ…と考える。少し考えた後、彼はパソコンで依頼の確認をした。
「二人がそう言うならば、依頼を回そう、丁度、イストリアにあの活動の鎮圧依頼が来ている。二人にはそれを任せようじゃないか」
にっこりと笑うと、ユリウスはパソコンからコピー機を動かして依頼の紙を出力し、二人に依頼を回した。
「ありがとうございます!」
「ありがとうございます…」
二人は一緒にユリウスに礼をすると、早速仕事の準備へと入った。と、その時、彼に声をかけられる。
「二人とも、今回はあくまで鎮圧が目的だよ、普段使うような殺傷力のある武器は禁止だ。わかったね?」
「はい!」
「はい」
ユリウスから忠告を聞くと、二人は装備を整えようと武器庫へ向かった。
ーーー
「作戦準備完了です、いつでも指示を」
《うむ、普段とは違う任務になるとは思うけれど、頑張ってくれたまえ、作戦開始だ》
高層ビルが立ち並ぶ街のビルの屋上で、エイルと神癒奈は並んで立つ。今回二人に与えられた装備は、専用の重装備の外骨格装甲と、鎮圧用の装備だった。
「この装備、初めてつけますけど、何だか重いですね」
神癒奈の方は全身に着る特殊スーツで、彼女用に特注されたものだ。出発前にコリーから聞いた話によれば…。
【このスーツは、神癒奈ちゃん用に調整されたもので、貴方の炎の能力に合わせて各部にブースターをつけたものだよ、もちろん、装甲も取り付けられてるけど、神癒奈ちゃんの軽快な動きを損なわないように、考えられて取り付けられてるから安心して】
と、コリーは言っていた。実際にスーツを見てみると、胴体部や椀部、脚部に装甲とブースターが取り付けられていて、彼女に合わせて作られていたのが分かる。ヘルメットも装備にあり、狐面型のバイザーがついた専用の物だった。
武器の方は、今回はあくまで鎮圧が目的なので、普段使っている刀は使わず、代わりとして、2本の少し長めのスタンロッドが与えられた。
「確かに私用に作られたって感じはします、採寸もピッタリですし、でも何だか慣れませんね…」
「すぐに慣れますよ。その装備は装甲戦闘装備と呼ばれていて、特殊作戦用の物なんです。普段の装備は機動戦闘装備なんですが、私はあっちよりも、こちらの方が落ち着きます…」
エイルの方も、装備の感触を確かめる。彼女の装備は、神癒奈とは逆に全身に装甲を取り付けたパワードスーツだった。人間の体の部分から蜘蛛の体の部分まで、全てを装甲で覆っており、8本の脚部には展開式のローラーダッシュが、そのうちの前2本には大きな盾が取り付けられていた。ヘルメットの方も、彼女の8つの複眼に合わせて、カメラセンサーが8つついたバイザー型ヘルメットが装備されていた。
武器の方は、2本の触肢にゴム弾が装填されたチェーンガンがそれぞれ1門ずつ取り付けられていて、蜘蛛のお腹の方に、大量の武器がケースに入れられて装備されていた。
「デモ隊が動き出したそうなので、我々も鎮圧に動きましょう、私の糸を使って移動しますので、私のお腹に乗ってください」
「いいんですか? こんな重い装備をしているのに」
「大丈夫です、この装備はある程度の重量に耐えれますし、吐き出す糸も強靭なのにしますので」
ではお言葉に甘えてと神癒奈はエイルのお腹に乗り、取り付けられていた人員輸送用のフックに自分のフックを繋ぎ、それを手で握る。
「行きますよ…!」
「はい!」
その言葉と共に、エイルはビルから飛び降り、足から糸を出した。ビルの壁や看板にその糸が絡みつくと、まるでアクション映画のようにエイルは飛んで移動していく。
「凄い…! 凄い便利な移動ですね!」
「えへへ…そうですかね…? そう言われると何だか照れてしまいます」
ワイヤーアクションで次々と糸を繋いではデモ隊のいる方へ二人は移動していく。そうして移動していくと、目標となるデモ隊が見えた。
「異種族はこの街から出ていけー!」
昨日と同じようにデモ隊は歩きながら抗議活動をしていた。当然ながら街の人にも迷惑をかけており、道行く亜人達に噛み付いては彼らから煙たがられていた。
「目標が見えました、地上におりて戦闘に突入します。バイザーを下ろしてください」
「はい!」
エイルに言われた通り、神癒奈はバイザーを下ろす、エイルもバイザーを下ろすと、二人のセンサーカメラがそれぞれ光った。
そして、最後の糸で大きく飛び上がったかと思うと、上から急降下してデモ隊の道を塞ぐように着地した。
「なんだ⁉︎ 空から何か降ってきたぞ!」
デモ隊の方は驚いてしばらく止まっていたが、彼女達の姿を見た途端、抗議の声を上げた。
「イストリアの鎮圧部隊、それも魔族のか! 我々の邪魔をするな! 魔族はこの街から出ていけ!」
「随分と思想の強い方々ですね…警告します、これ以上のデモ活動は即刻やめてください、抵抗する場合、武力鎮圧を行い、貴方方を逮捕します」
神癒奈を下ろし、エイルはデモ隊に対して威嚇行動を取る。背中のケースからサブマシンガン2丁を取り出すと、デモ隊に向けた。
「ヤバいぞ…アレは通常の鎮圧部隊なんかじゃない、異世界特別調査隊のエージェントだ!」
「引くな! 我々は、お前達のような悪の根源が存在するのを断固として許さない!」
神癒奈とエイルを見て、デモ隊からは騒ぐ人々や危険視する声を上げる人が出た。通常の兵士とは違う完全武装のエージェントを見たのが恐怖に感じているのか、デモ隊は混乱に陥る。
「悪の根源だなんて言ってくれるじゃないですか、私達がいつ、どこで悪い事をしたんですか?」
「しらばっくれるな! 我々は知っているぞ! 異世界特別調査隊には、裏の部隊があると!」
(たかだかその程度の情報を知ってる程度で、優位に立ってると思ってるんですかね…)
四課の存在は表向きにはボランティアを行う特別調査隊の中のご意見板みたいな扱いを受けている。徹底的に情報統制が行われていて、もし知る人が現れた場合は記憶処理が行われるほどのものだ。
エイルは相手が出してきた裏の部隊という情報を聞いてふーっとため息をつく
「お前達みたいな異種族が街に蔓延るから争いは起きる! 争いの火種は根絶すべきだと我々は抗議する!」
「それは違います! 争いは、例え人間同士でも起きる物です! 住む場所や肌の色、どんな些細な事でも誰とでも起きる事です!」
神癒奈は知っていた。争い事は、種族関係なく起きる事だと。元いた異世界でそれはよく耳にしていた。領地や資源の奪い合いなどで争いことが絶えなかったからだ。
争いが起きる火種は、例え人であっても、そうでなくても関係ない。
「この周辺はイストリアの兵士によって封鎖されてます、速やかにデモを中止してください、これが最終警告です」
「黙れ! 我々はお前達の弾圧に屈しない、全力で抵抗し、この街から異種族が出ていくまで戦い続ける!」
すると、道路の奥の方から爆発と共に、魔導式の二脚戦車が出てきた。だが旧式なのか、コックピットは剥き出しで、どちらかと言えばパワーローダーに近い見た目のものだった。
その戦車がこちらにアームを向けると、強引に取り付けられた小型の戦車砲を撃ってきた。
「っ!」
エイルが神癒奈の前に立つと、前足を前方に突き出して盾を構えた。砲弾が直撃し、若干のけぞるが、攻撃に耐える。
「警告は、しましたからね…えへへ、武力鎮圧を開始します」
「了解です!」
その宣言と共に、エイルはゴム弾の装填されたチェーンガンとサブマシンガンをデモ隊に向けて発砲を開始し、神癒奈はまっすぐスタンロッドを持って駆け出した。
デモ隊の方もそれぞれ武器を持って神癒奈達に攻撃を開始する。
「魔族の狐如き、数で押せば倒せるはずだ!」
「甘い!」
神癒奈は脚部のブースターを点火し、ホバー移動をすると、敵に近づいた時に一気にブーストし、フリップジャンプをした。
神癒奈を狙って武器を持って殴りかかって来た人達の後ろを取ると、スタンロッドで殴った。
「このっ!」
デモの一員が火炎瓶を投げつけてくるが、神癒奈はその火炎瓶を受け止めると、逆に今度は爆炎を込めて人に当たらない程度の位置に投げ返した。火炎瓶から爆発が起きてデモの人達はパニックになり、逃げ出す者が現れる。
「ふひひ……哀れですねぇ……所詮は半端者や自称正義の味方とうそぶく者が集まった烏合の巣、統率を欠けばこの程度です」
サブマシンガンとチェーンガンを撃ちまくり、次々と抵抗するデモ隊を鎮圧するエイルが、ほくそ笑みながらそう言う。
「ほら、痛いでしょう? それ、今まであなた達がしてきた弾圧と同じ事なんですよ、今あなた達は狩る側ではなく狩られる側にいるんですよ、大人しくしてくれれば何もしませんけど、抵抗するなら、私にやられていい声で鳴いてください」
(あれ、エイルさんって意外とアレな性格だったりします?)
特殊スーツ越しにゾクゾクするエイルを見て、神癒奈は底知れぬ恐ろしさを感じる。普段の気弱な性格が微塵もなく、今のエイルは完全にいたぶることに快感を味わうサディストの気を感じた。
「下がれ! この場は一旦引くぞ! 覚えていろ! イストリアのエージェント!」
魔導戦車を盾に、デモ隊は一目散に逃げていった。それを見た神癒奈はふぅっと落ち着き、バイザーを上げる。
「デモ隊は去りましたね」
「はい、ですけど…また現れると思います。その時もまた、同じように戦いになるでしょうね…」
えへへと笑うとエイルもバイザーを上げて深呼吸する。
ひとまず、この場はしのいだが、根本的に解決に至ったとは二人は思えず、倒れたデモ隊を見て、まだやってくるのかなと感じた。




