狐と蜘蛛の休日
ある日、仕事が休みとなり、神癒奈はやる事が特になく、折角なのでショッピングに出かける事にした。そして、現地のデパートでのんびり友人が来るまで待ち合わせをする。
「ちょっと早く来すぎちゃいましたかね?」
Eフォンの時計を見て、神癒奈は早かったかなと思うも、そんな事はなく、少し経つと、待っていた人が現れた。
「こんにちは、遅れてすみませんっ…!」
「いえいえ、私が早く来すぎただけなので、こんにちはです!」
そう、今日はエイルとショッピングに出かける約束をしていたのだ。ボランティアの一件から、二人は先輩と後輩だけでなく、友人という関係になり、こうして暇な時は一緒に食事をしたり、遊びに行くようになった。
お互いラフな姿でやって来て、二人は出会うと、そのままデパートの中へ入っていく。
「えへへ…ここのデパートの…フードコートのスイーツが美味しいんですよ」
「へぇ、気になりますね」
エイルに案内されて、神癒奈は一緒にフードコートに行く。神癒奈にとっては異世界に来てから初めての友達なのでこれからが楽しみだった。
フードコートでは、人気なのか、スイーツ店の前に行列ができていた。
「わぁ…人がいっぱいですね」
「少し待つ事になりますけど、大丈夫…ですか?」
「大丈夫です!」
行列に入り、神癒奈達は待つ。側から見たら九尾の狐とアラクネという組み合わせで浮いて見えたが、神癒奈は気にしなかった。エイルの方は少し抵抗感があるも、神癒奈と一緒だと少し安心した。
「神癒奈さんは一体、どんな異世界から来たのですか?」
「どんな…と言われてもなんだかイマイチピンと来ませんね、一つ言えるのは、こことは違って人と妖が対立する世界でしたね、私たち焔月の一族は人とある程度の関係を築いてましたけど、基本的には人と妖が互いにいがみあう世界でした」
昔の事を神癒奈は思い出す。人の世に時々入り込む事はあったが、基本的に平行線な関係ばかりで、互いに踏み込むことがなかった。勿論、焔月が人間に友好的な家系であったのも一つだったが、それ以外の他の妖は、人と対立することが基本だった。
「この街は凄いですよね、いろんな種族が行き交ってて、差別や偏見がなく、みんなで支え合って暮らしている。とっても素敵な街だと思います。まぁ少し荒事は起きますが」
「そうでもない…ですね、これを見てください」
エイルが自身のEフォンを神癒奈に見せる、そこにはこう記事があった。
『異種族排他活動、デモにまで発展』
記事には人間がそれ以外の種族に対し差別的な言動や攻撃を行なっているのが見えた。
「異種族排他活動? どうしてこんなのが…」
「どんな世界でも私たちのような存在を認められない方々はいます。そう言ったもの達は、いろんな方法を使って私達を排除しようとするんです、勿論、イストリアはそれを許しはしませんが…」
自身の姿も重ねてか、エイルは肩を落とす。すると神癒奈は彼女の手を取った。
「大丈夫です。私達には四課の人達がいます。私達の活動をわかってくれる方々だっています。この前のボランティアの時だってそうでしたし、きっとみんな、いつかは私達のことを受け入れてくれますよ」
「そうですかね…えへへ」
神癒奈と一緒にいると、エイルは自分のことを認めてくれる人が本当にいるんじゃないかと考えられた。
そうこうしてるうちに行列が進み二人はスイーツを買う。
「わぁ……異世界にはこんな食べ物があるんですね」
「もしかして初めてですか?」
「はい! こう言ったものを食べるのは初めてです!」
買ったのは大きなパフェで、二人は席について食べる。味は冷たくてとても甘く、神癒奈にとって初めて食べる味だった。
「美味しい…」
「ここのパフェは絶品なんです、気に入ってもらえて何より…です」
美味しそうにパクパク食べる神癒奈を見て、エイルは微笑む。エイルもパフェを食べるが、アイスの程よい甘さと酸味のあるフルーツの交わる味に舌鼓を打つ。
「そう言えば、エイルさんは何の能力を持ってるんですか? 四課の人達、みんな自分の能力とか持ってますから気になります」
「私ですか? 私は…アラクネの基礎能力である糸を出す能力と、タランチュラベース特有の毒を出す能力です…」
「へぇ、じゃあ糸で巣とか作ったりはするんですか?」
「いえ…作る事はないですね、だけど、強固なワイヤーのような糸や粘着力の強い糸まで、色々出せます」
例えばとエイルは手から糸を出す、その糸を手で弄ると、あやとりをしてみせた。
「凄いですね、色々と便利そうです」
「えへへ…まぁ、こういう糸を出せるように努力しましたからね…壁とかに張り付けたり、移動に使ったりもできます。勿論、武器としても扱えます」
糸をしまうと、エイルはパフェを食べるのに戻る。神癒奈は、エイルが糸を使ってどんな戦い方をするのか想像した。
「戦車砲…とか持ち出してましたけど、重いものとか持てるんですか?」
「はい、四課の中では1番重いものを持てる人材だと言われてます。身体も大きいですし、運べる量も多いですから、専用の装備では重戦車に相当する火力を持てたり、他にも医療用のパックや他のみんなの装備とかを運ぶことができます」
「ほう…そう言えば、この前のボランティアで私を背中に乗せてましたけど、人も乗せられるんですか?」
「普段のこの姿なら二人くらいは余裕で載せられます。装備をしてても一人は背負って運べます。任務ではコリーさんを背中に乗せて狙撃しながら移動、なんて事もやりました」
色々と便利な体をしてるなぁと神癒奈は思った。持てるもののキャパシティが多いという事は、輸送の任務などで大活躍するんだろうと神癒奈は想像する。
「フィアネリスさんも空を飛んで重い装備をして戦えますが、陸で通常より遥かに重装備をして戦えるのは私だけですね、他の方の装備と比べて」
「本当に力持ちなんですね」
巨体ににあった力を持っているんだと神癒奈は考えると、改めてエイルの凄さを実感する。自信なさげに本人は語るが、四課の一員としての強さをちゃんと持っているんだと感じた。
「パフェを食べた後は何か見に行きますか? 服とか…」
「はい! 是非!」
そうして二人はパフェを食べながら、暫くの間楽しく話し合った。
ーーー
パフェを食べ終えた二人はデパートの中を回る。服屋やアクセサリー店なんかを回っては二人に似合うものなどがないかを探した。
気が付けば買い過ぎてしまってお互い荷物だらけになった。
「一杯買えましたね、こう言った服は着たことないので、着るのが楽しみです」
「私も、気になった服が買えました。お付き合いいただきありがとうございます」
デパートから出た二人はホクホク顔で帰路につく。のんびりと街中を歩くが、その途中、人が団体で集まっているのを目撃した。
「あれ、何でしょうか?」
「しっ…待ってください」
神癒奈は興味本位で行こうとするが、エイルに止められ、一旦路地の方に隠れる。何事かと神癒奈は少しだけ顔を出して見てみたら、良からぬものを見てしまった。
「人間以外の異種族はこの街から出ていけ! 魔族や亜人は人の敵だ!」
『敵だー!』
それは、デパートでエイルから見せてもらった異種族排他活動をしている者たちだった。それぞれの人間が特有の服を着て、看板を掲げて、街中を練り歩いている。時々道を通りかかった亜人や魔族を見かけては、大声で叫び、街から出ていかせようとした。
「あんな事が…許せません!」
「待ってください、前のように止めたくなる気持ちは分かりますが、この前と違って今度は団体です。いくら四課の権限を持っているとは言え、勤務外であの活動の停止を促すのは無理があります」
神癒奈が直情的に動こうとするのをエイルが止める。今度は前回のような遠慮ではなく、冷静な判断だった。
「すぐにイストリアの兵士がデモの規制に来るはずです、ここは彼らに任せましょう」
「大丈夫なんですか? 任せても」
「この位の規制は日常茶飯事ですから、問題はないはずです」
エイルがそういうと、活動に気づいたのか、本当にイストリアの兵士が来た。
「お前達! 何をしている!」
「我々は異種族の存在を許さず、その排除の活動をしているだけだ、異種族の味方をしているイストリアは帰れ!」
互いに大声を上げて張り合っていると、気が付けば争いに発展した。イストリアの兵士がデモの鎮圧に動こうとするが、活動家達も武器を持って応戦する。
場は乱闘の状態になっていた。
「行きましょう、今の私達には手が出せない事です、今日は帰って明日課長に話をしてみましょう」
「課長に話せば、あれを止める術とか用意してくれるんですか?」
「ええ、世界の危機に瀕する程のものではありませんが、アレを止める依頼自体は出るかもしれません、兎も角、明日話してみるのがいいと思います」
そう言うと、エイルは神癒奈を連れて別のルートから帰った。神癒奈はここであの活動を止められない事を苦しく感じたが、明日四課でこの件について話せば何か変化が起きるかもしれないと知ると、心の中で納得した。




