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ヒトとキツネの異世界黙示録  作者: 遊戯九尾
第三章 大柄な蜘蛛と調和を乱す者達
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2つの憧れ

「驚いたな…」

「えぇ、驚きました…」


先程、神癒奈とエイルの二人が罵倒されるやり取りを見ていた永戸達は、心配になって炊き出しを一時休止し、魔物のいた方を見に来たが、既に魔物は倒されていて、そして、先程罵倒した男は神癒奈の事を絶賛していた。


「本当なんだ! さっきこの魔物に襲われたんだが、この狐のねーちゃんが俺の事を助けてくれたんだ!


男の話を聞いた者達は一斉に神癒奈の方へ向く、みんなに見られた神癒奈はビクッと驚くと、エイルの背中の上で、恥ずかしそうに耳をぺたんと倒しながら答えた。


「ええと、確かに助けたのは私なんですけど……この魔物を倒したのは、こちらの方、エイルさんなんです」


エイルがやったと聞いて、話を聞いた者達はこれまた一斉にエイルの方に向いた。あまり人の視線に慣れてないのか、神癒奈を背中に乗せたエイルは、少し下がりながら、答える。


「はい……その……私が、倒しました。同僚のこの子が危なかったので…反射的に…つい…」


か細い声でそういうと、あたり一面がしん…と静かになった。不味いことを言ったかな、とエイルが思ったその時だった。


「すげー! やるな蜘蛛の姉さん!」

「こんな魔物を倒すだなんて、頼りになるんだねぇ!」

「かっこいい!」

「ええっ⁉︎ いやそれほどでも…」


皆からの称賛を受けて、エイルは困惑しながら控えめに答える。けれど、背中から神癒奈がポンポンと肩を叩くと、彼女はエイルを励ました。


「ここは、みんなから褒めてもらってもいいと思います」


そう言っては神癒奈はにっこり笑う。それを見たエイルは顔を赤くしてもじもじすると、先ほど助けた男が近寄って来た。


「その……悪かった……お前達が作ってくれた飯を台無しにして…悪い事も言っちまった」

「い、いいえそんな! 慣れてますし、大丈夫です!」

「いえいえ、でも、分かってくれましたよね、私たちは、悪い存在じゃないって」


神癒奈の言葉を聞くと、男はしずかに頷き、エイルの手を取る。


「ありがとうな…助けてくれて」

「は…はい…」


全てが円満に終わり、住民達は喜んで炊き出しをもらうようになった。それを見ていた永戸とフィアネリスは、二人に気づかれないようにこっそり話す。


「今まで受け入れられることがなかったエイルさんが、住民から受け入れられるだなんて」

「さては課長…この事を見越して神癒奈とエイルを組ませたな?」


まっすぐ前向きに戦う神癒奈と、後ろめたく自信のないエイル、種族は違えど同じ亜人である二人を組ませた事で起きたこの称賛に、永戸は仕組まれていたと考える。

その効果もあってか、改めて配った炊き出しの時の空気は、先ほどと比べて一変してよくなった。


ーーー


炊き出しを終えて自由時間が生まれ、神癒奈とエイルは二人で余ったスープで食事をとる。

一応回復用のアンプルは打ち込んだが、まだ回復しきれてない神癒奈は、エイルの背中に乗ったまま食事を摂った。


「ごめんなさい、先輩の背中にずっと乗りっぱなしで、それに、無茶して助けられましたし…」

「いいですよ…! むしろ、助けられたのは、私というか…」


悪いイメージを払拭してくれた事に、エイルは神癒奈に対して感謝していた。でも気になることがあった。


「でも、どうしてそんなに誰かの為に動けるんですか? 種族の壁だって…乗り越えようとしますし…」


下に俯きながらエイルはそういう。すると神癒奈は、逆に空を見上げながら答えた。


「夢があるんです、英雄になって、人と妖が、二つの種族が肩を並べて歩める。それを繋ぐ架け橋のような存在になりたいって」

「…二つの種族が…」

「いい夢だって永戸さんから言われました、最初は英雄に夢を見るなって言ったくせにですよ」


そう話すと、神癒奈はあははと明るく笑う。それを聞いたエイルは、目を丸くした。


「凄い夢ですね…私なんか、そんなこと考えた事もなかった…です」


スープを少し啜ると、エイルは神癒奈とは対照的に俯いた。


「私、子供の頃から大きな体で、蜘蛛の姿をしてるから、みんなから怖がられて、虐められてたんですよね……だから、人と魔物が一緒に歩める世界なんてないってずっと思ってました」

「いろんな人がいる四課にいるのに、ですか?」


神癒奈が疑問を投げつけると、エイルは小さく頷いた。


「四課に入ったのだって、ちょっとしたことだったんです…私が、少しでも誰かの役に立ちたいなと思って…四課を配属先に選びました…でも、結果はさっきみたいに、助ける人から拒絶されてばかりでした」


そう言うと、エイルは神癒奈とは違って自分を皮肉するかのように笑った。


「神癒奈さんは凄いです。私より遥かに生きてて、私より立派で」

「……そんな事ないですよ」


神癒奈が、背中から優しくエイルに抱きつくと、耳元で諭すように話しかけた。


「誰かの役に立ちたい、それってつまり、無償の善じゃないですか、私と同じです。その考え方も、立派だと思います」

「そう…ですかね」


神癒奈に抱きついて褒められて、エイルは少し嬉しそうにする。神癒奈も、そんなエイルの姿を見て微笑んだ。


「私も…神癒奈さんみたいに、人から称えられるアラクネになれますかね?」

「なれますよ、エイルさんなら!」


神癒奈のその言葉を聞くと、エイルはどこか安心したかのように、呟いた。


「えへへ…じゃあ、私は、英雄を夢見る貴方みたいな、前向きで立派なアラクネになりたいです」

「いいと思います!」


この時、初めてエイルは上を向き、それを見た神癒奈は、また笑顔になった。自信なさげだった彼女が、前向きになろうとしたのがとても良くて、安心した。


ーーー


ボランティアの任務を終えて、永戸達はオフィスに帰って来た。


「はい、お疲れ様…所で、神癒奈君とエイル君は何かあったのかね?」


ユリウスは四人を見るが、神癒奈とエイルが汚れてるのを見て、問い詰めた。


「ちょっと、現地でいざこざがありまして、ですが、解決したので問題はありません」

「そうか、それならよかった」


にっこり笑うと、ユリウスは紅茶を飲み、一息ついた。神癒奈達は帰宅の準備を始めるが、永戸はユリウスにある事を尋ねた。


「課長…一つ聞きたいことがあるのですが…」

「神癒奈君とエイル君の相性の事かな?」

「……やっぱり、最初から分かって二人をボランティアにいかせましたね?」


聞きたい事を言い当てたユリウスに、永戸は聞き続ける。


「エイル君は後ろ向きな性格と見た目の都合上、人と関わるボランティアには不向きだ、だが神癒奈君はその逆で前向きでこう言うボランティアに向いている。彼女の存在がエイル君にいい影響を与えないかと考えてみたのだが、結果は聞くまでもなかったようだね」


永戸の反応を見てふふふとユリウスは笑う。タチの悪い人だと永戸は心の中で思い、話を聞く。


「暫くは彼女達をペアに組ませるといいだろう。同じ亜人同士だ、きっと仲良くなれる。エイル君にとっても、神癒奈君にとっても、いい刺激になるだろう」

「…そうですね」


確かにそれもそうかと永戸は考え、後にしようとする、すると今度は、ユリウスの方から話しかけられた。


「そうそう、神癒奈君についてだが、君はどう思う?」

「どう、とは?」

「彼女が禁忌になり得るか否か、だよ」


直接聞いてくるかと永戸は思った。振り返って改めて立つと、永戸は神癒奈の事を正直に話す。


「あいつは、ただのあまちゃんですよ、英雄になると甘い戯言を抜かす、禁忌なんて程遠い存在だと思います」

「本当にそう思っているのかい?」


ユリウスは何か含みがあるように言う。その何かが気になり、永戸は問い詰めた。


「…彼女の何を恐れているのですか? 焔月と言う一族には一体何があるのですか」

「……焔月は、呪われた一族なのだよ、現状、これしか君に話すことはできない。彼女達を待たせる訳にはいかない、はやく帰りたまえ」


そう言うとユリウスは冷たい目線を永戸に向けた。これ以上聞くと不味そうだなと思った永戸は帰る支度をする。


「永戸さん? 課長と話してましたけどなんの話をしてたんですか?」

「ちょっとな、今回の話をしてただけさ」


何はともあれ、彼女の裏には何か大きな秘密がある、そう思った永戸は、ユリウス課長の話を思い出しながら、神癒奈達と一緒に帰った。

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