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ヒトとキツネの異世界黙示録  作者: 遊戯九尾
第三章 大柄な蜘蛛と調和を乱す者達
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巨大蜘蛛女現る!

仕事の日の朝、いつものように支度をして、永戸と神癒奈、フィアネリスは四課のオフィスに出勤した。


「おはようございます」

「はい、おはよう、今日も仕事を頑張ろう、君たち」


出勤すれば、ユリウスがいつものように笑顔で待っていた。


「今日は何か予定はありますか?」

「ないねぇ、やったとしても今日はボランティアだろうね」


ユリウスが紅茶を飲みながらEフォンのタスクを見せるが、画面は真っ白で何もなかった。


「最近は案件が来なくて気が楽ですけど、こういうのってしょっちゅうなんです?」

「たまにある程度かな、ただこういう時の後に決まって面倒な依頼が来るものなんだよな」


神癒奈達も席に座って仕事の準備をする。すると、ユリウスが話しかけてきた。


「そう言えば、今日は長期任務から彼女が帰ってくる日だったはずだ」

「彼女? 確かこの前の歓迎会の時言ってた人ですか?」

「うむ、優秀な子でね、良ければ仲良くしてあげてくれ」


そうユリウスが言うと、扉から誰かがガチャリと入って来た。

……のだが、妙に入るのが遅い、時間をかけて無理矢理荷物を入れるように誰かが入って来た。


「長期任務、終わらせて…来ました。ユリウス課長」

「うむ、お疲れ様、そうそう、君が任務に行ってる時に新人が入って来たんだ、紹介しよう」


ユリウスが立ち上がって部屋に入って来た者の隣に立つ。新人と聞いて神癒奈が自分の事かと思い、同じく立ち上がってユリウス達の方を見る。

すると、そこには、自分よりかなり大柄な人…のようなものが立っていた。黒髪で赤い瞳をした女性は、神癒奈を見下ろす。


「紹介しよう、四課の最後のメンバー、エイル君だ」

「どうも、ええと…特査四課で同じく働いてます…エイル・ネルティーアと申します、よろしくお願い…します」

「はい! 新しく四課に入りました、焔月神癒奈です! こちらもよろしくお願いします! ……っ?」


エイルという彼女は、少しおどおどしながら一礼をする。神癒奈も一礼をするが、その時、エイルの下半身を見て驚いた。

人の足ではなかったのだ。全方位に広がる8本の足に、2本の前足のような触肢、そして、後方には巨大な丸い物体よく見れば顔には普通の目だけでなく額にさらに六つの目が…それはまるで…。


「…蜘蛛?」

「あぁ、神癒奈君にとっては物珍しい見た目か、彼女はアラクネの隊員なんだ」

「アラクネ?」

「下半身が蜘蛛の体でできた女性…の種族です」


アラクネと聞いて神癒奈はうーんとうなる。そんな種族聞いたことはないと思ったが、ある別の種族のことを思い出すとピーンと来た。


「もしかして女郎蜘蛛と似たようなものですか?

「はい、そんな所…です」


神癒奈のいた異世界では妖怪の中に女郎蜘蛛がいた。それも蜘蛛の姿を持った女性とあったので、神癒奈の想像と合致したのだ。

それともう一つ、気になることがあった。


「とても大きい体してますけど、それも種族が関係してるんですか?」

「はい、身体が大きいのは、私がタランチュラと呼ばれる蜘蛛をベースとしたアラクネだから…です」


神癒奈から見て、エイルの身体は、じぶんより遥かに大きく見えた。身長だけでも大体2m以上はあるだろう、後ろの蜘蛛の部分も含めると相当な大きさだ。


「神癒奈さんのその体は…九尾の狐、ですか?」

「はい!」


九尾の狐と聞いて、エイルは何かを感じたのか、もじもじしながらこう言った。


「凄いなぁ…九尾の狐って、一千年修行をしないとなれないもの、ですよね、一千年の修行…大変だったですよね? 私はそういうのないから、凄いって思います」

「そんなことないですよ、確かに大変ではありましたけど、エイルさんだって四課で仕事ができる程の実力者なんですよね? 誇ってもいいと思います!」


神癒奈から励まされると、何処か恥ずかしげに、エイルは会釈をした。


「新人から励まされるなんて、私もまだまだ足りないなぁ…ええと…改めて、よろしく、です」

「はい!」


二人で握手をすると、ユリウスがポンっと手を合わせて、ニコニコ笑いながら言った。


「二人とも初めてだし、親睦も深めるべく、今日はこの四人でボランティアに行って来なさい」

「えっ……分かり…ました」

「分かりました!」


それぞれおどおど、はきはきとした声で言うと、永戸、神癒奈、フィアネリス、エイルの四人は、ボランティアの支度を始めた。だが永戸は少し不安そうな目でエイルを見た。


「大丈夫かな…ボランティアになると決まってエイルは…」

「そうですね…神癒奈さんよりも受け入れ難いものがあると思います」


不安要素を考えつつ、神癒奈とエイルがそれぞれ支度してる姿を、永戸達は見守った。


ーーー


いつもの炊き出しのボランティアが始まったが、今回は少し住民の方から奇異な目で見られた。理由としては…。


「巨大なアラクネだ…」

「でっかい蜘蛛さんだ」


エイルの姿だった。神癒奈の方は住民に受け入れられてはいるが、巨大なアラクネであるエイルの姿は住民から見て驚かれるものなのか、神癒奈と比べて一歩引いた距離から見られていた。


「あっあの…こちらで炊き出しをしてます、私じゃなくてちゃんとした人が調理してるから、問題はありません」

「やだ、蜘蛛女が炊き出しの手伝いをしてるだなんて、毒とか入ってないかしら…」

「いえ、毒とか入ってません…ちゃんとした人が…」


住民達にエイルが話しかけていくも、その容姿を受け入れられず、離れていってしまう。


「けっ、蜘蛛女が持って来た料理なんて食えるかよ」

「うっ…!」


さっき炊き出しをとって来た男がエイルに向けてスープを投げつけて来た。服装が汚れ、エイルは涙目になりながら一歩引いてしまう。それを見た神癒奈は、皆に配る炊き出しのスープを置き、投げた男に近寄った。


「ちょっと! 何してるんですか! 食べ物は粗末にするなんて許せません! それに、それをエイルさんに投げつけるし、エイルさんに謝ってください!」

「は? 謝るだと! 相手は蜘蛛女だぞ! 毒とか入ってるに違いねぇ!」

「毒とか入れてません! エイルさんはそんな悪い人ではありませんよ!」

「そんなわけあるか! …お前もよく見たら、尾が裂けた狐じゃねぇか! 魔族の飯なんて食えるか!」


ペッと唾を吐き、男は去っていく。神癒奈は自分まで馬鹿にされて頭に来たのか、彼を追おうとするが、エイルに止められた。


「い、いいんです、神癒奈さん」

「でも! あの人は私達を化け物として扱って!」

「私が炊き出しに行くと決まってこう言われるから…慣れてるから、いいんです」

「いいえ、ダメです! どれほど容姿は違っても、同じ食べ物を食べる生き物ですから!」


エイルが止めるも、神癒奈は止まらず歩き出す。


「あの、お気持ちは嬉しいですけど、そんなに庇ってくれなくてもいいんです」

「庇う庇わないの問題ではありません、許せないんですよ、種族の壁を勝手に作って拒絶する存在が」


エイルの静止に、神癒奈は言う事を聞かない。彼女にとって、種族の壁は家族を失った要因でもあった、だから、自分たちを拒絶する存在が許せなかった。

そんな時だった。


「ぎゃああああ!」

「っ! 見て来ます!」

「あっ…神癒奈さん!」


先程の男の悲鳴が聞こえた。異変を悟った神癒奈は真っ直ぐ声の方へ駆けつけ、エイルはそれを後から追う。

すると、その先では、男が猪の魔物に襲われていた。


「た、助けてくれぇ!」

「今助けます!」


助けの声を聞いて、神癒奈はまっすぐに魔物に飛びつくと、刀を抜き、首を切り付けた。


「浅いっ⁉︎」


首を刈り取ったと思ったが、刃がいつもより通らず、魔物はまだ動いたままだった。空中で反転し、もう一度斬りかかるも、刀はまたも通らずだった。


「肉質が硬くて、刀じゃ切れない! これじゃあ…⁉︎」

「神癒奈さんっ! 危ないっ!」

「っ⁉︎ きゃあっ!」


攻撃対象が神癒奈の方に代わり、空中にいた神癒奈は魔物の突進で壁に叩きつけられてしまう。


「う…動けな…い…!」


魔物は壁に神癒奈を押し付けると、そのまま圧殺しようと体重をかける。いくら妖狐であるとは言え、巨大な魔物に押し付けられてしまっては、身動きも取れず、尚且つ体がどんどん押し潰されようとしていた。


「尾裂きの…狐……!」

「逃げて…!」


神癒奈から逃げろと言われ、男は慌てて炊き出しのあった方に逃げる。おそらくは、このピンチを伝える為に行ったのだろう。


「なんで……そこまでして…誰かの為にあろうとするんですか…」


先程はあんなに罵倒を浴びせて来た男を、神癒奈は自分がピンチの状況であろうとも守ろうとした。それを見ていたエイルは彼女のその在り方に対して驚愕した。


「この…!」


文字通り追い込まれた状況でありながらも、神癒奈は諦めず、手を銃の形に見立てると、焔の光線を放つ術、絶火で魔物を倒そうとした。

だが、収束がされず散発的に撃った為、魔物に攻撃は全然通らなかった。

これまでかと思ったその時、轟音が聞こえた。


「…あれ?」


急に押し込まれなくなったと神癒奈は思うと、猪の魔物はそのままばたりと倒れた。何があったのか、轟音が聞こえた方を向くと、そこには、エイルが巨大な砲を持って立っていた。


「バラウール重戦車砲…この砲弾なら、どんな魔物でも風穴は開きます。無事ですか? 神癒奈…さん」


戦車砲の砲身を冷却し、畳むと、エイルは神癒奈を助け、彼女を背中に乗せた。


「ええ…なんとか」


エイルが自分を助けてくれた事を知ると、神癒奈は間一髪助かったことにホッとした。

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