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ヒトとキツネの異世界黙示録  作者: 遊戯九尾
第三章 大柄な蜘蛛と調和を乱す者達
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変わらぬ日々

孤児院の件から一週間後、神癒奈もすっかり四課の一員となった。

回される仕事を的確にこなし、どんな任務でも悪態をつくこともなく戦えるようになった。


「うむうむ、だいぶ慣れてきたじゃないか、仕事は辛くないかい?」

「いいえ、全然大丈夫です!」


オフィスでユリウスに質問されるが、神癒奈は何事もなく答える。そのハキハキとした態度に、ユリウスは安心した。


「うむ、その様子だと心配しなくてもよさそうだ、孤児院で子供を殺してしまったこととかショックに感じたかと思ってはいたが、問題なさそうだね」

「最初は怖かったですけどね…でも、なんとか割り切れました」


怖かったことを正直に話すが、割り切れたと聞いてユリウスも神癒奈のことをよく評価した。


「彼女も四課の一員として馴染んできたね、永戸」

「適応が早いあたり助かるよ」


彼女の仕事している姿を見ながら、永戸とライは語り合う。


「皆さーん、お茶やコーヒー淹れましたよー! 休憩にしましょ…うわぁぁああああ⁉︎」


コリーがお茶やコーヒーを持って来たが、足を滑らせてしまい転んでしまった。お盆と一緒に飲み物が宙を舞うが、その瞬間、神癒奈は落ち着いてお盆を取り、ホイホイと全ての飲み物をこぼさずに取ってみせた。


「うわーん! 神癒奈ちゃんありがとーー!」

「いえいえ、部屋が汚れなくて良かったです!」


失敗して落ち込むコリーを慰めると、神癒奈は皆に飲み物を配った。

そして、皆に配り終えたら、自分の分のお茶を手に、書類を書く。


「む…この書類…フィアネリスさん、これ、技術部門から貴方の装備に関しての申請書ですね」

「あぁありがとうございます。こちらで処理しておきますね」


神癒奈から書類を受け取ると、フィアネリスはそれを読んでいく。

こうして、オフィスでは、特に何事もなく時間が過ぎて行く。


「最近私達に仕事が飛んできてませんよね?」

「まぁそれもそうでしょう、そう簡単に危険な案件が飛んできたら、こちらも持ちませんし、ましてや世界の危機とか言う状況になるような任務まで来たら四課総動員になりますからね、貴方がやった案件はまだ軽いものなのですよ」


確かにそれもそうかと神癒奈は思い、これまでの事件を思い出す。永戸と出会ってから人道的な案件なんて一つもなかった。


「じゃあ、世界が滅ぶ案件ってなんですか?」

「そうですね、何処かの青狸の国民的アニメで例えるなら、惑星を破壊する爆弾とか、或いは、無限に増殖する栗饅頭とかでしょうか」

「青狸?」


あぁ気にしないでくださいとフィアネリスは言うも、確かにそんなことが起きたら大変だなぁと神癒奈は思った。


「じゃあ今は世界では何事も起きてなくて私たちが動くことがないほど平和って事なんですね」

「そう言うことです。まぁ他の支部の四課は動いてるかもしれませんが、我々の支部の四課は今のところ動く必要はないってところです」


そう聞くと安心し、少し退屈になる時間ではあるが、何事もなくすぎる当たり前な日々に、神癒奈は落ち着いていられた。


ーーー


任務の時間もだいぶ慣れてきた。相変わらずブラックな案件ばかりが飛んでくるが、最初にあった抵抗感は無くなっていた。


「そっちに行ったぞ!」

「はい!」


今日の任務は危険人物の確保だった。異世界を脅かす能力者を倒すことが任務となっていた。

本来なら一課の仕事だが、特に危険な任務がなかった為四課に仕事が回された。


「くそっ! 死神部隊が、これでも喰らえ!」


敵が雷の能力を放ってくるも、永戸と神癒奈ははひらりと回避して敵へ走る。そして、至近距離まで近づくと神癒奈は敵を蹴飛ばした。


「ぐぅっ!」

「これで決める」


ガードするも痛みで苦しむ敵に、永戸が大型拳銃を撃った。装填されていたのはゴム弾で、まともにそれを食らった敵はばたりとすぐに倒れた。


「やりましたね」

「あぁ、任務達成だ」


倒した敵に手錠をつけて転移させると、二人でハイタッチをする。どうやら今回はうまく二人の動きが噛み合っていたらしく、気付けば二人はいいコンビとなっていた。


「課長、任務達成しました」

《うむ、よくやった、少し早いが君達は上がりなさい、後はこちらで処理をしておくから》

「ありがとうございます、課長」


永戸がユリウスと通信を終えると、コートを着直し、神癒奈と一緒に帰路につく。


「お前がここに入って来てもう結構経つな、どうだ? お前の理想には近づいているか?」

「全然、英雄になることって言われても、そんなに簡単になれる感じはしませんね」

「ははっ、まぁいいさ、仕事には慣れて来たのだから、いずれ自分の理想の姿を見つけるはずだ」


そんな話をしながら、二人はのんびり歩いて帰る。

四課に入ってから数週間、神癒奈も四課の一員として立派に成長していた。

歩いているうちに、家にたどり着く。フィアネリスはまだ帰ってないらしく、今いるのは二人だけのようだ。


「お先お風呂入ってますね」

「分かった、こっちは報告書を書いとくよ」


神癒奈がお風呂に行き、永戸はパソコンを開いたら簡易的な報告書を書き始める。

報告は今回の作戦と神癒奈についての報告書だ。

何故神癒奈の報告書を書いてるかについては、ユリウスから彼女について逐次報告をしてくれと頼まれているからだ。


(大方、彼女の出自からして、危険かどうかを判断するための報告書だろうな)


神癒奈自身からは、由緒ある妖狐の一族と聞いていた。ユリウスから報告を頼まれるあたり、相当な家系なのだろうと永戸は思った。

だが、ここ数週間、出会ってから一緒に行動しているが、彼女自身に危険な要素は全くない、強いて言えば彼女の持つ能力が通常の能力者より強力と言った程度だ。


(課長は"禁忌"かもしれない、とあいつの事を疑問視してるが、どうなんだ?)


そう思い、永戸は報告書を書き続ける。

この数々の異世界には、"英雄"と"禁忌"の二つの存在がある。

"英雄"とは、身に持った力を正しく使い、人を導く善の存在で、"禁忌"とは、身に持った力を振るい、世界を滅亡へと導く悪の存在だと言われている。

彼女は、英雄になりたいと言っていた。だがもし彼女の力が禁忌に当たるものならば、彼女の願いは打ち砕かれてしまうだろう。


(……悪い奴には見えないんだよな)


永戸から見た彼女は、ボランティアに行けば住民と仲良く話し、子供達と楽しく遊び、小動物をみては可愛がるような性格をしてる。今のところ危険思想を持つようには見えなかった。


(どちらにせよ、まだ観察が必要だな)


報告書を書き終え、永戸はため息をついてEフォンを見る。SNSもどのサイトも今日の天気だの美味しいもの特集だので全然争いが起きたと言う話はない。

街はちょくちょく荒れているが、高度な文明を持ったこの街においては些細な事だ。異世界渡航が簡単にできる者が住むこの街では、「買い物に出かけたら銃撃事件に遭いました」なんて日常茶飯事、どの住人も最低限の武装を持っているほどだ。


「目新しい記事はないか、平和だなぁ」


特に変わり映えのない毎日、永戸にとってもそれは安心できる要素だった。

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