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ヒトとキツネの異世界黙示録  作者: 遊戯九尾
第一章 絶望を知るヒトと希望を夢見るキツネ
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襲撃

 男との話から少しして、神癒奈は遅れて村へと入り、村長へ挨拶をする。


「いやぁ、盗賊に襲われることを知りながら、よくぞ来てくれました。護衛に感謝しております」


 村長からの感謝に神癒奈はちょっとほこらしくなるが、まだ仕事は続いているので再び気を締めて、話をする。


「いえいえ、こちらも、大変な中依頼をしてくれて、ありがとうございます!」


 丁寧にこちらもペコリと一礼をすると、早速村長は仕事の話に移った。


「ではあらためて、最近、この周辺に盗賊が出ましてね、村から食料を奪ったり、女子供を攫おうとしてきたのです」

「そこまでは、依頼で聞きましたね?」


 村長の話に神癒奈は相槌を打つ。

 ここまでは馬車の中で聞いた話だ。


「最初は村の自警団だけでなんとかなっていたのですが、段々と向こうの略奪が過激になってきて、自警団だけではどうしようもなくなってきて……それで、あなた方に頼ろうと依頼をしたのです」


 話しながら苦悶の表情を浮かべる村長を、彼女は見ていられなくなった。

 たとえ人の血が流れるとしても、誰かが傷ついたままなのは見過ごせない、そう感じて、神癒奈は村長に答える。


「分かりました、もう大丈夫ですよ、私に任せてください! 盗賊から村人を守りますので!」


 村長を励まそうと神癒奈は自信満々に胸を張って答える。気持ちとしてはあまりよろしくないが、ここで自分が胸を張らねばいけないと彼女は感じた


「ありがとうございます……それと、今回の依頼ですが、貴方と一緒にもう一組、とても強い方が来ると聞いています、きっともうそろそろ……」

「村長がいるのはここですか?」


 背後から優しい声が聞こえ、神癒奈が振り返ると、三人の人が立っていた。


「私が村長だが……ひょっとして君たちが」

「ええ、依頼を受けてやってまいりました、勇者カインと申します」


 丁寧で優しい口調をする男、カインは、村長の隣に立つ神癒奈をチラリと見やると、軽く会釈をしてそのまま村長と会話を始めた。


(思った程、勇者っぽさのある人には見えませんね……?)


 神癒奈が想像したのは豪傑な武人だったが、思ったより本物は静かな感じだった。

 だが見てわかる、"歴戦を乗り越えて来た"という感覚が。着ている鎧や覇気から伝わってくるその感覚は、後ろの僧侶の女と戦士の男をふくめて感じられた。


「で、君が一緒にここの護衛をする子だね?」

「はい! 神癒奈といいます!」

「ミユナ、うん、宜しく頼むよ」


 勇者カインが手を差し出す。

 憧れの勇者との握手、拒むわけが無いと神癒奈は喜んで握手をした。


(はぁあああ、本物の勇者様と握手ができるなんて! 感激です!)


 あまりの感動に思わずにやけかけてしまう神癒奈だが、ここで、先ほど男が言った言葉が脳裏を横切ってしまった。


「どうしたのかい? 何か気になることでもあるのかい?」

「えっ? いっいえ! 全然、なんともないですよ!」


 慌ててごまかすが、だがどうしても男の言葉が気になってしまう。


(こんなにいい人に見えるのに、どうしてあの人はあんなことを言ったのでしょう?)


 男の言葉について考えてたその時。遠くの物見の鐘が鳴り響いた。


「盗賊が来たぞ!」

「ッ!」


 村人の突然荒げた声が聞こえ、神癒奈は身構える。ついに来たかと。


「村長さんは家の中へ!」


 そう声をかけると、荷物を村長に渡して、背負う刀を腰に回し、彼女は走り出した。

 風のように駆けていくが、駆け出した瞬間後ろから凄い勢いでカインが追い越していった。


(速い⁉︎ 反応は私の方が早かったのに、私をすぐに追い越していくなんて)


 風より速く走っていく勇者の姿を見て、「これが勇者の力なのか」と神癒奈は驚いた。

 一歩一歩の歩幅が人間のそれをこえていて、彼らのうち残る二人をおいて、地を文字通り滑走していく。


「ヒャッハァ! 食料と人を出してもらおうかぁ!」

「見つけた!」


 村の中に入ってきた盗賊を見つけ、走る方向を変えるカイン。そして、剣を抜いたかと思うと、家の壁を蹴って飛び上がり、上から盗賊の一人を一刀両断した。


「ぁ……なんだぁ……今のは?」

「いきなり人が、空から……」


 いきなり目の前で起きた衝撃に思考が追いついてないのか、盗賊達は呆然として立っている。

 その隙を見逃さず、彼はさらに盗賊の一人に踏み込むと、喉元へ剣を突き刺し、そのまま振り回してさらに他の二人を斬りつけた。


「……凄い…」


 追いついた神癒奈が見たのは、勇者の圧倒的な力だった。その戦う姿を形容するなら、"鬼神"というべき姿だろう。その力に、盗賊だけでなく神癒奈も少し恐怖し、すくんでしまう。


「いや! 私も、負けてられません!」


 だが、ここで負けるわけにはいかないと、彼女も腰の刀に手を添えると、盗賊の集団の中へ突っ込んでいく。敵の数は10人ほどだろうか、多くはないが、気は抜けない。


「御免!」

「なっ⁉︎ てめぇもこいつの仲間……かっ⁉︎」


 こちらも懐まで踏み込むと、手にした刀を抜き放った。見事に盗賊の胴を斜めに切りつけると、そのまま肩に飛び乗って次の人の頭蓋を上から刀で叩き潰す。


「やるじゃないか、君も」


 カインも神癒奈の戦う姿に驚いたのか、一瞬動きを止めて彼女を見た、だが、そこが過ちだった。


「危ない!」


 よそ見をしてるうちに、盗賊がカインの背中をサーベルで斬りつけた。危険を察知して神癒奈が声をかけても遅く、勇者の体から血が噴き出るかと思ったが……。


「……まだまだ!」


 切られたところからすぐに再生し、そのまま盗賊を斬り殺した。


(斬られても平気だなんて……無敵なのでしょうか?)


 傷口の再生していくところを見た神癒奈は、勇者の異常性について気付いた。

 "人間の範疇を超えている"。風よりも速く走り、一薙ぎで人が簡単に死に、傷ついてもその場ですぐ回復する。その力は人間としての器を超えている。

 それは、"神癒奈"だからこそわかった。その力は、恐ろしい物だと。男の言っていたことはある意味間違いでは無かった。


(でも、そんなこと言えない!)


 だが、異常だと思っても、その場では言えない、ましてや、性格が優しそうに見えるカインという人物なのだ、きっと言えば悲しくなるだろうと。


「すまないね、手を煩わせてしまって」

「えっ……ええ! 大丈夫です!」


 背中合わせに二人で立って新たに出てきた盗賊達と対面する。思うところはある。だが、問いただすのは戦いの後にしよう。神癒奈はそう思うと、刀を構え直した。


「…いくぞ!」

「はい!」


 速攻ながら息を合わせると、二人はそのまま盗賊の中へ駆け出す。村の平和を守る為に。

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