一仕事を終えて
あれから倉庫の中を調べたら、やはりと言うべきか、異世界召喚が悪用されたという資料が見つかった。
召喚魔法で異世界に召喚し、特殊能力を付与した後、薬で昏睡状態にし、パックに詰めて人材を求めるところへ輸出する。困った事に洗脳までされていたのか、パックに詰められていた人達の自我はないようにされていた。
「結局、この人達はどうなるんですか?」
「洗脳から解放された後、元の世界に戻すんだとさ、犯罪組織の構成員も投降したし、俺たちの役目は終わりって事だ」
本部へ連絡をとり、調査員が派遣され、犯罪組織の活動は無事止められた。永戸と神癒奈は外で近くの古臭そうな自販機で売ってた缶コーヒーとジュースを飲みながら、右へ左へと動き回る調査員達を眺める。
「そう言えばフィアネリスさんは?」
「あぁ、あいつなら…」
そう言っては永戸は周りを見渡すが、彼女の姿がない。まさかやられたわけではないだろうなと思った時だった。
「お疲れ様ですマスター♡」
満面の笑みで埃と血塗れになったフィアネリスが、ぼふっと後ろから永戸に抱きついてきた。
「そんなに元気なら大丈夫そうだな、お疲れ、ありがとうな、外で戦ってくれて」
「いえいえ、これも従者の勤め、貴方様の為ならば何でも捧げますので」
にっこり笑顔でフィアネリスが答える。周辺の様子を見るが、魔導戦車はボコボコに破壊されていて、敵兵の方も塵芥となってるものがちらほら見つかっていた。相当派手にやり合ったらしい。
「よくあんなもの相手に一人で戦えましたね?」
「えぇまぁ、アレくらいのポンコツ、私にとっては朝飯前なので」
そう言ってはゆったりとした体勢で宙に浮かぶ。体は煤と血だらけだが、傷一つついてなく、戦いは余裕の圧勝だったようだ。
「それで、神癒奈さんの方はいかがでしたか?」
「しっかりとついてきてたぞ、初仕事としては上出来だ」
「へぇ…それは、今後も期待できますね」
「あっははは汗 精一杯頑張ります」
チラッと見て笑いかけるフィアネリスに対し、神癒奈は苦笑いで答える。永戸の方は安心してるのか、神癒奈をフィアネリスに預けて調査員に事態の報告へと向かった。
「どうですか? 仕事をしてみて、やっていけそうですか?」
「うーん、まだわかりません、この前戦った時みたいな危ないのではありませんでしたからね」
フィアネリスの問いに神癒奈はあははと困ったような笑みで答える。実際のところ、最初の勇者との戦いなどと比べたら今回はまだマシな方だった。精神的にキツい仕事でもなく、比較的まともな仕事だっただろう。
「ああ、確かにそうですね、今回はまだ有情なところがございました。ですが、これから先、このような任務が沢山まい込んで来るので、頑張ってくださいね」
期待してますよとフィアネリスは神癒奈の手を握る。神癒奈は負けないぞと思いながら尻尾を揺らすが、はてさて、これからどんな任務をやっていくのか、彼女の心の中で少し不安があった。
ーーー
「はい、お疲れ様」
四課のオフィスに帰ってくる頃には、既に夜になっていた。3人の帰りを待っていたのか、ユリウスが椅子に座って紅茶をまったりと飲み、今回の事件のレポートを読んでいた。
「お疲れ様です、課長」
「どうだったかな? 神癒奈君の働きは」
「しっかりとついていけていました。戦力としても充分かと。剣技も能力も、俺以上はあると思います」
「うむうむ、それならよろしい。後は後日行われる本入隊の試験を受けるだけだね」
うんうんとユリウスは頷き、神癒奈に関する書類を出す。
「本入隊の試験って何をやるんですか?」
「筆記、模擬戦闘とある、筆記はまぁ心理テストも兼ねた最低限のマナー程度のテストだからいいが模擬戦闘では実際のエージェントと戦わなければならない」
「エージェント?」
「あぁ、言ってなかったな、そう言えばここの組織の構造を」
すると永戸は近くにあったホワイトボードに図を書き簡単に説明を始めた。
「まず、イストリアの実働部隊にて、そこで活動する兵士は幾つかの階級に分けられている、まずは一般の兵士、特殊な能力を持たず、ごく普通の装備で戦う歩兵だ、で、次に来るのがエージェントだ、エージェントは個々が特殊能力を持ち、その異能の力を用いて戦うことが出来る、普通の兵士でもエージェントに太刀打ちできる奴はいるが、基本的にはエージェントの方が戦闘能力が高い」
カキカキとホワイトボードに書かれていく図を見て、神癒奈はうんうんと頷く。
「でだ、エージェントの中でもより優れた特別なエージェントは、異世界特別調査隊に配属されることとなる」
「確か、この四課もその類の部隊ですよね」
「そうだ、この調査隊は四つの課に分けられている。凶悪犯罪の阻止や対魔物戦に特化した戦闘のエリートの一課、未開の地や普通では立入ができないところを調査する二課、他世界との外交や要人の護衛などを行う三課、そして、異世界で表沙汰にできない事件や他の課では処理不可能な任務の遂行、危険分子の排除を行うのが四課だ」
図に四つの課が描かれ、大体の説明が終わる。その時、神癒奈は疑問に浮かんだことがあった。
「あの、見た感じ一課と四課は同じように見えるんですけど、どう違うんでしょうか?」
「いい質問だな、一課と四課の違いは事件の徹底的な隠蔽と、超法規的措置を取れるか取れないかだ」
「と、言いますと?」
「例えるなら、事件が起きたとして、一課の場合はあくまでそれの解決にあたる、その際に、他の組織への干渉や規制はなるべく行われることはなく、普通に対処される。しかし四課の場合は、事件の解決のためならどんな組織でも干渉することができるし、同時に、事件の解決後、徹底的な情報統制が行われる。要は、"事件なんて無かった"事にされるんだよ」
つまりは四課は基本的に汚れ仕事を行い、バレないように隠す部隊だと永戸は説明する。それを聞いた神癒奈は息を呑んで頷いた。
「そして最大の特徴として、四課は他の課の活動に干渉することができる。表向きには共同戦線を組むことになるが、裏を返せば、事件の隠蔽も兼ねた現場のお目付役として仕事をする事になる」
「というと、四課はもしかしてブラックな職場ですか?」
「あぁ、超ブラックな職場だ、誰もなしえない仕事をやり、時には味方まで見張る、皆から嫌われる怖い先生みたいなものだ」
そう聞いた神癒奈はあわあわとした表情で永戸を見る。永戸も正直このブラックな職場に物を申したいのか、うーんとうなるがだがいつものペースに戻ると、ホワイトボードに書かれた図を消した。
「まぁ何とでもなる、最初に出会った時にあんな経験をしても発狂せずにまともでいられたんだ、これから先、戦っていけるはずだ、取り敢えず今日は帰って休もう」
「うむ、それがいい、神癒奈君もお疲れ様だ。今日はもうゆっくり休むといい」
「はい、お疲れ様でした」
そうして永戸達3人はオフィスから出て家に帰る。永戸はチラッと神癒奈の様子を伺うが、疲れてたり、へこたれてる様子はない。
(この調子なら大丈夫そうだな)
そう思うと、永戸は彼女の本入隊の試験が楽しみになった。彼女の実力がどこまで発揮されるのか、見ものであると。




