パック詰めの希望
外でフィアネリスが戦っている間、敵がそっちに注意が向いている隙に、永戸と神癒奈は倉庫の中へと入る。中は薄暗く、広々としている。
入り口付近にはめぼしいものは置いてないが、奥の方にはカーテンがかかっていて、怪しげに見えた。
「奥へ進むぞ」
武器を構え、警戒しながら少しずつ奥へと進む。すると、彼らの目の前に奇妙なものが現れた。
「なんです? これ?」
そこにあったのは、魔法陣だった、地面に大きく描かれたソレは、何かの儀式でだいぶ使われたのか、かなり掠れてはいたが、だが、ここで何かが行われていると、存在感を放っていた。
「これは……異世界召喚用の魔法陣の一種だな?」
「異世界召喚?」
「あぁ、異世界から救世の勇者や英雄達を呼び込んで、召喚する為の儀式用の魔法陣だよ。でも、それが何故ここに?」
異世界召喚……神癒奈も風の噂で聞いたことはある。世界を救うために、国が異世界から勇者を召喚して、戦わせる、そんな話を前に旅の途中に聞いた。だが、それと今回の犯罪組織と一体何が関係あるのだろうと二人は疑問に思う。
ようやくカーテンのそばまで辿り着き、永戸はそれの向こう側を覗き込んだ。
「……っ! おい、こっちにきてみろ、ヤバい物を見つけたぞ」
何かまずいものを見たらしく、彼は焦った表情で神癒奈を呼ぶ。どういうことかと神癒奈は彼と一緒にカーテンを少しめくって中を確認するが、そこには驚くべき光景が広がっていた。
「これは……何……?」
そこにあったのは、人間が、眠ったまま大型の真空パックに詰められてハンガーにかけられている光景だった。入っている人間は、老若男女や亜人などの人種を問わず様々な人で、中には、神癒奈と同じ妖狐なんかもいた。それらの人間達の首にはチョーカーがつけられていて、それを包むパックの端には値札とバーコードがあり、ただ人を運ぼうとしているようにはみえなかった。
「……まさか、人身売買か?」
「えっ⁉︎」
「あの召喚陣、異世界から人を誘拐して、売るための道具なのだろう。突然召喚されて、召喚酔いで右も左も分からない召喚者を眠らせ、こうしてパックに詰めて客に売る。召喚された人間は色々とお得な能力がついて便利だからな、客に売りさばけば、体のいい道具になる」
パックにつけられた値札を手に取りながら、永戸はそう話す。成る程、そりゃあ俺たちの課に仕事が回されるわけだと永戸は思った。異世界召喚の技術を使って人身売買をしてます、なんていう情報、表沙汰で扱えば異世界召喚という技術の危険性が露呈してしまう。どうりで死神部隊に任務が渡されるわけだと永戸は考える。
「じゃあ、ここにいる人たちは⁉︎ みんな他の世界から連れ去られてきた人たちって事なんですか⁉︎」
ずらりとハンガーにかけられた人達を見て、神癒奈は驚く。
「あぁ、そうなる。これは一筋縄ではいかな……伏せろっ!」
突然物音が聞こえ、永戸は咄嗟の判断で神癒奈と一緒に床に伏せた。すると、発砲音が聞こえ、彼らのいた場所を弾丸が通り過ぎる。
「まずいバレた!」
永戸はすぐさま神癒奈と共に近くのテーブルの裏に隠れる。
チラリと敵のいる方を見れば、複数人の敵兵が銃を構えてはこちらにやってきていた。
「待て! 下手に撃つな! 商品が傷付いたらどうする!」
やってきた敵兵がそんな声をあげる。どうやら商品であるパック内の人が傷つくことに警戒しているようだ。
「神癒奈、相手は下手に銃を撃ってこない、近接戦になればこっちが有利だ、助ける人を傷つけずに戦うぞ」
「はい!」
二人して遮蔽から身を乗り出すと、パックを盾にして敵兵に近づいていく敵兵はこちらに銃を向けてきたが、先に永戸達が動き出した。
「遅い!」
長剣を取り出し、敵兵の銃火器を切って破壊すると、そのまま首を掴んで床に叩きつけた。その後、背後から永戸に向けて銃撃が飛んでくる。
「っ!」」
音速で飛ぶ弾丸が彼を撃ち抜こうとするが、すると彼はその瞬間、体を左右にわずかにずらし、その弾丸を目視で避けてみせた。本来の人間ならできないことだが、恐らく彼の英雄殺したりえる力がなせる物なのだろう。
「ちぃっ! こいつら、能力者か!」
「邪魔だっ!!」
次にやってきた敵に剣をふるい、銃と剣の鍔迫り合いになる。その中で、永戸はパワーで押し込むと、剣を振り回し、その慣性で蹴飛ばした
「野郎…!」
「させませんっ!」
横から敵が永戸の方に銃を向けるが、攻撃される前に神癒奈が切り裂いた。初の仕事だが、落ち着いて戦っている。これなら安心できそうだと永戸はほっとした。
「九尾の狐までいるぞ! こんなの勝ち目があるかよ!」
室内でやや狭苦しいのは二人も同じだが、それでも戦いは続く、次から次へと敵が出てくるが、二人はそれぞれ持てる力で戦う。
「今度はこっちの番です!」
神癒奈が動き出すと、焔を刀身に纏わせ、敵に切り掛かった。先ほどの永戸と同じように、敵の銃が二つに溶断され、そしてそのまま、敵は斬り焼かれる。
「何なんだこいつらは…! バカみたいに強いぞ!!」
「あのエンブレム…見たことがあるぞ、イストリアの死神部隊だ!」
「畜生! なんだってそんな奴らが俺たちに!」
此方の所属してる組織に気がついたのか、敵兵は怯えすくむ。そんな中、永戸は堂々と立つと、こう言い放った。
「あぁ、俺たちは異世界特別調査隊四課、世界の法に則り、お前らを処刑しにきた」
直剣をかざしては敵兵に向けて永戸はそう宣言する。それを聞いた兵士達は皆震えた。
「く…このままだと全滅だ! おいアレを出せ!」
「しかしアレはまだ制御が…!」
「構わん! こいつらを始末できれば本望だ!」
アレとは何だと二人は思う、するとその直後、ずしんと重みのある振動が建物内に走り、倉庫の奥の扉が壊された。
「アレは……何ですか⁉︎」
目の前に現れたのは二、三メートルはある巨大な人だった。全身が筋肉だらけで、力任せに扉を捻じ壊して出てくると、咆哮を上げる。
「…どうやら普通の人間じゃないらしいな。改造人間ってところか」
靴の先をトントンとして、フットワークを整えると、永戸は剣を構える。
「はははは! そうだ! 筋力強化や皮膚硬化などの能力を付与した改造人間だ! お前達に勝てるものか!」
「ウオオオオオオオオオ!」
「ま、まて、俺は敵じゃな…あ…がぁあああああっ!」
巨人は雄叫びを上げると、近くにいた敵兵を持ち上げては握り潰したり、放り投げたりして暴れ回る、そして、ひとしきり暴れ回った後、永戸達の方向に向いた。
「能力って何ですか?」
「さっきチラッと話したやつか、簡単に言えば普通の生身の体に加えて、あいつみたいに肉体を強化したり、お前みたいに焔を使うことができるようになったりするものだ」
こちらを敵と認識したのか、ぽきぽきと拳を鳴らしては今にも襲い掛かろうとする巨人を前に、永戸は余裕のある顔で答える。
「行けるか?」
「こんなの、この前の敵と比べたら楽勝です!」
「どうだか、やるぞ」
二人して武器を構えると、巨人に向かって走り出した。対する巨人も、二人に向けてその巨大な体で押し潰そうと走り出す。
「はぁああっ!」
「せぇあっ!」
神癒奈は上に飛んで、永戸は下を潜り抜けて、それぞれ肩と足の健を斬りつけた。神癒奈の攻撃は浅かったが、永戸の攻撃は深く入り、巨人は片足を切られた痛みでそのまま転ぶ。
「その刀じゃそのままじゃ奴の身体は切れない、俺があいつとパワーで正面からぶつかる、神癒奈、お前は焔で奴の体を焼け!」
「大丈夫なんですかそれ⁉︎ 貴方とあいつの体格差は何倍もあるんですよ⁉︎」
「心配するな、俺の能力は身体強化だ。肉体の反応速度を上げたり、筋力や敏捷性を強化するもの、それに多少の攻撃なら防げる!」
「信じていいんですね!」
永戸はまっすぐ走り、神癒奈は横へ回って巨人への攻撃の隙を窺う。そして、永戸と巨人は、それぞれ剣と拳をふるい、真正面からぶつかった。
ゴゥン! という強い音と共に、強力な一撃の振動が倉庫に響く。
本当に永戸はあの拳を真正面から受け止めてみせた。流石に剣は軋んだが、それでも、彼は小さな体で敵の一撃を防ぐ。
「神癒奈!」
「はい! その身を焼き貫け!『業火!』」
永戸が作ってくれた隙に、神癒奈が合わせ、焔の槍が巨人に次々と突き刺さる。内部から体を焼かれる感覚に巨人は悲鳴をあげ、痛みで悶え暴れる。
「うおっ!」
暴れ回った際にたまたま振られた拳が彼に命中し、永戸は横に吹っ飛ばされる。だが当たりどころをうまく制御したのか、ダメージはそれほどなく、彼は飛ばされたところをうまく受け身を取って体勢を立て直した。
「ウオオオオオッ!」
「不味っ!」
焔で焼かれた事に怒ったのか、巨人は攻撃対象を変え、神癒奈の方へと向かう。そのまま拳を振り上げてはおろすが、神癒奈は横に飛んでかわした。
「普通の刀で切れないなら、焔で溶断するまでです!」
先程と同じように神癒奈は刀身に焔を宿すが、今度は出力を変えて焔の威力をあげ、刀身をレーザーブレードのようにした。そして、巨人の攻撃をタイミングよく避けると、その刀で腕を切り裂く。
「オォオオオオッ!」
流石に焔で焼き切られるのには耐えられなかったのか、片腕が外れた。攻撃の手も止まり、巨人は大きな隙を晒す。
「とった!」
「今です!
永戸は巨人の体を駆け上がり、神癒奈は巨人の真下につくと、彼はその肩からジャンプして宙に浮かび、神癒奈は足にグッと力を込める。
「終わりだぁあああっ!」
「たぁああああっ!
一回転しながら永戸はその剣で巨人の体を上から叩き斬り、神癒奈は爆炎で勢いよくジャンプして刀を切り上げ、二人の一撃で巨人を真っ二つにした。血飛沫と焔が舞い、巨人は綺麗に両断されて倒れる。
永戸は剣についた血を、神癒奈は刀身に宿っていた焔を払い、双方武器を鞘に収めた。
「これで敵はいなくなったか?」
「そうらしいですね」
「よし、取り敢えずは山場は乗り切ったな」
周辺を見渡しては敵がいないことを確認すると、彼はふぅっと一息つく。その後、彼は神癒奈の方に手を上げた。
「っ? なんです?」
「ハイタッチだよ、お前にとっては四課に入って初めての仕事だろ、よく頑張ったな」
四課の初めての任務、その山場を越えたことに対して彼は褒めたいのか、ハイタッチをしようと手を振る。神癒奈はその事に対して少し驚いたが、少しの間を置くと、理解したのか、同じように手を上げた。
「えへへ…はいっ!」
穏やかに笑う彼に対して、神癒奈は照れくさそうに笑うと、二人は気兼ねよくハイタッチをした。
「この辺りの調査をして、本部に連絡するぞ」
「はい!」
そうして二人は、周囲にあるパックに詰められた人や、近くにあった資料の調査を行った。




