傷だらけの剣
巨大な怪物と二人は対峙する。二人との戦いの中で巨大化したそれは、部屋を覆いつくさんとばかりの巨体となり、強靭な体へと進化をしている。
「カエせぇええええ!」
最早理性も消えかけているのか、獰猛な獣のように吠えるソレは、二人へ向けて襲いかかってきた。
「よけろ!」
二人は息を合わせて怪物の攻撃を避ける。先程の攻撃でも危険であったのに今度はその倍以上の力による攻撃だ、一度でも受けると体はまず耐えられないだろう。
『絶火!』
神癒奈が、指先から収束した焔を放つ。焔は怪物の身を焼きながら穿ち、穴を開ける。焼いた傷はどうやら治らないらしく、体は穴を開けたまま、血が溢れ出る。
「やっぱり、火が弱点なんですね!」
この前戦った獣も、全身を焼かれたり、体を吹き飛ばされたりしたら死んでいた。弱点が同じ火だと分かったのなら話は簡単、と神癒奈は、刀に火を灯す。刀身が熱く焼けながら燃え、その刀で斬りかかると、骨で覆われた怪物の体をいともたやすく溶断できた。
「ぁあアアアア!」
痛みで暴れ回る怪物。神癒奈はすぐに引き、今度は永戸が背中から攻撃をした。
「これでもどうだ!!」
骨の隙間に剣を突き刺しながら首の上までよじ登ると、彼は剣を突き刺し、トリガーを引いた。爆音とともに鉄針が撃たれ、それは首元に深く突き刺さる。
「イダい! イダイぃいいっ!」
鉄針を差し込まれて怪物の体に大ダメージを与えるが、叫びながら暴れる怪物に永戸は捕まれ、そのまま神癒奈の元へ投げ飛ばされる。
「きゃあっ!」
二人はぶつかり合い、そのまま地面を滑って壁まで押し込まれる。だが、このまま倒れてるわけにもいかず、すぐに立ち上がった。すると、怪物は、余裕ができたのか、周りを見渡し始める。そこには、永戸達が殺してきた者達が倒れていた。
怪物は涙を流しながら咆哮をする。二人を前にして、獣のように泣き喚きながら暴れ回る。
「お前は化け物ダ! こコニいる仲間を皆を殺した! 英雄殺しの噂は、本当だっタ!」
罪をあがなえと永戸に拳を打ちながら、怪物は嘆く。どうやら人間の情というものが歪ではあるがまだ残っているらしい。それを、放たれる攻撃も、浴びせられる感情も、永戸はひらりとよけていく。
「どっちが化け物だよ、お前はそんな人を殺す兵器を生み出して金にして、なんとも思わないのか!」
「黙れェッ!」
怒りのままに永戸を爪で引き裂こうとするが、永戸はそれを剣で防いだ。メキメキと軋む音が聞こえ、剣に大きな爪痕がつき、切先が歪む。
「不味い、剣が壊れるぞ⁉︎」
慌てて身を引こうとするが、装填されていた鉄針が暴発し、怯んでしまう。その隙に、怪物は彼を掴み、強く握り締めたかと思うと、そのまま投げ飛ばした。
「うわぁあっ⁉︎」
投げられた彼は、柱に激突し、それを突き破って壁に叩きつけられる。勢いよく壁にぶつけられた衝撃で口から血を吐き、倒れかけてしまう。抱えていたトランクも今の衝撃で吹き飛ばされ、遠くに落ちてしまう。
だが、永戸はなんとか意識を保ち、倒れそうになりながらも立ち上がった。
「永戸さん!」
彼のピンチを察知した神癒奈は、腰のポーチから糸のついた鉄の球を怪物に投げ、それを体に巻きつける。強靭な素材で作られた糸なのか、怪物は身動きが取りにくくなり、そのうちに神癒奈はその周りをぐるりと周り、全身に巻きつけた。
「爆炎よ走れ!『口火!』」
彼女が指を鳴らして点火すると、爆導索のように糸の上を爆炎が走り、怪物を焼き払う。怪物は身を怯ませるが、威力が足りなかったらしく、煙が晴れると、体に少しだけ傷がついた怪物が現れた。
「くぅ……」
神癒奈に注意が向き、怪物が一歩一歩と彼女に近づく。神癒奈はジリジリと下がるが、次の手にうつった。
「その身を焼き貫け!『業火!』」
詠唱をすると、炎の槍が怪物を何度も貫き、内側から焼く。体内を焼かれ、怪物はその槍を抜こうとするが、妖力でできた炎の槍だ、触れることはできない。
「やりヤがったなぁ! キツネめぇええっ!」
すると、怪物の体が、また変化を始めた。メキメキと背中から腕が2本生え、それぞれ大きな斧のような形へとなる。逆に、足はどろどろと溶け、スライムのように不定形になった。
「おいおい……進化というが、とてもそんなようには見えないぞ!」
その怪物の姿を例えるなら、進化と退化を繰り返しているような姿だった。先程つけた傷は消えてしまったが、同時に新たに生まれる体に耐えきれず、あちこちに瘤ができたかと思うと、そこから出血を繰り返す。
「おぉォオオオオオおおおおん!!」
理性も最早なくなったのか、吠えるだけとなった怪物は、4本の腕を構えて二人の前に立つ。体は先ほどよりさらに巨大となり、地面と一体化した足は、周りの死体や瓦礫を飲み込みながらどんどん侵食していく。
「くそっ! もう生物兵器とかそういう次元じゃねぇぞ⁉︎」
足元の侵食から二人は下がりながら、巨大な怪物を見る。このまま放置すればこのへん一帯侵食して巨大生物にでもなってしまいそうだ。
「あおぉおおおオオオオン!」
咆哮と共に怪物は巨大な斧を振り下ろす、二人は何とか回避するが、斧の落ちたその場所は、真っ二つに裂けていた。こんなもの、一発でも喰らったらお陀仏だと永戸は心の中で毒つく。
「まだくる!!」
神癒奈の声を聞いて永戸はハッと気づき、更に迫り来る斧を剣でいなした。ギリギリと火花の散る音と剣の軋む音が聞こえ、永戸は何とか回避をするが、するとここで、剣を構成しているパーツが少し千切れた。
「くそっ!」
次を食らえば剣も自分もどうなるかわからない、そう思った永戸は斧を必死に避ける。神癒奈の方も、拳が飛んできて、刀で斬り裂くが、斬っても斬っても泥のようにうごめいてはすぐに再生し、意味がなかった。
「はぁああっ!」
怪物が、永戸を真っ二つにしようと、再び斧を振り上げる。ボロボロになった剣を片手に、永戸はそれを避け、振り下ろされた斧の上に乗ると、そのままその腕を剣で叩き斬った。剣の軋む音は止まないが、うまく腕は斬れ、怪物は斧の持つ腕を一本失う。
「よしっ! 次はもう一方!」
「永戸さん! 危ない!」
永戸に対して振り上げられたもう一つの斧を見て、神癒奈は声を上げるが、既に遅く、斧が彼に思い切りぶつかる。肉が裂け、彼の胸元から血が溢れ出ると、勢いよく地面にぶつけられる。同時に、傷だらけだった剣はバラバラに砕け散り、内側にあった物があらわになった。
地面に突き立てられたソレを横に、永戸は倒れる。血もとても流れていて、彼の命は保証できるとは思えない状態だった。
「そんな……永戸さん……永戸さん!」
倒れた永戸へ神癒奈は近づき、必死に彼に声をかける。意識はまだ残ってるのか、指先がピクリと動き、立ち上がろうとするが、力なく倒れてしまう。
「嫌……死なないで! 永戸さん! っ!」
必死に永戸を起こそうとするが、永戸は目をさまさない。神癒奈はそれでも起こそうとするが、怪物の存在を忘れていた。片腕の斧を振り上げた怪物が、神癒奈の前に立ち塞がる。それは既に振り下ろされる前で、避ける時間も、永戸を庇う余力もなかった。
「うぅっ!?」
神癒奈は死を覚悟する。この斧で、自分も永戸のように殺されてしまうのだと思ってしまった。
だが、いつまでたっても攻撃が来ることはなかった。どういうことか目を向けてみると、そこには、血だらけの永戸が立っていた。血が溢れ出す胸を押さえながら、手に持つその武器で、斧を受け流したのだ。
その手にあるのは、刃の折れた銀色の剣だった。装飾も、刃先も、何もかもボロボロとなった剣で、取り付けていた外装となる剣の方が、まだ遥かに力強く見えた程、朽ち果てた剣だった。
だが、その剣は、その外見とは裏腹に、光が宿っていた。失った刃のかわりに輝く光が刃となり、怪物の斧を弾いていた。その光に、神癒奈は覚えがある。
「聖……剣……?」
そう、光を放つそれは、聖剣の輝きだった。最初の村で、勇者が使っていたあの輝き。
折れてはいるものの、光の輝きを持つ聖剣を永戸が使っていた。




