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ヒトとキツネの異世界黙示録  作者: 遊戯九尾
第一章 絶望を知るヒトと希望を夢見るキツネ
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異形への進化

 薬品保管室にて二人は一人の研究者と対面する。研究者は怯えた様子でこちらを見つめているが、その手には生物兵器の薬らしきものが入ったトランクケースが握られていた。


「そのコートは……まさか……!」


 研究者がどうやら永戸の正体に気づいたらしい。どうやら彼は永戸が何者か知っているようだ。


「血に濡れた赤いコートの男……かつての大戦で、道を違えた英雄たちに死を与えたという処刑人。英雄殺し(ハイラントイェーガー)! あの噂は本当だったのか!」


 英雄殺しの名前は研究者の中でも話題だったらしい。彼の名前を知っているあたり、この研究者も、その"大戦"に関わってきた人間のようだ。


「ご名答」


 トランクケースを持った研究者の男にゆっくり近づく永戸。男は拳銃を取り出し、永戸へ発砲するが、剣で弾かれてしまう。


「そのトランクを渡してもらおう」


 こちらも拳銃を取り出し、男へと向ける、男は怯えながらも必死にトランクを抱えて守ろうとしていた。


「なぜ、なぜお前たちはここにきた⁉︎」

「それはお前達の研究が、世間に出たらまずい物だからだよ」


 まるで自分たちのやっていることが悪いことでないと思っているかのように、男は永戸に問いかけてくる。


「この研究が完成すれば、世界の戦争が変わるかもしれないのだ! これは渡す事はできん!」

「ふざけないでください! 貴方達のせいで、たくさんの生物が苦しんだのですよ!」


 科学者肌というものか、自分のことを棚に上げながら、トランクを渡そうとしない研究者に、神癒奈は怒りを覚える。


「お前たち如きに我々の研究がわかるものか! この薬がどれだけ重要かどうかなど!」

「そうか、じゃあ死んでもらおう」


 研究者としてのプライドか、或いは金目当てか、トランクを意地でも守ろうとする男に永戸は呆れ、彼を撃った。胸元を撃ち抜かれ、男は血を吐きながら壁に倒れ込む。同時にトランクケースは彼の手から滑り落ち、目の前に転がってきた。


「これで終わりだな、さぁ、これを回収して帰るぞ」


 この場所の研究がどんな物だったのかを示すサンプルになるとトランクを永戸は片手に持つ、そのまま二人は保管室を出ようと思うが、急に、入り口の非常用のシャッターが閉められた。


「これは……?」


 振り返ってみてみると、研究者が、壁のボタンを押していて二人を逃さないようにしていた。


「は……ははは、逃してなるものか、その研究は、私だけのものだ!! 他の誰にも渡さん!!」


 いつのまに隠し持っていたのか、なんらかの薬が入った注射器を彼が手に握ると、自分の体に刺して注入した。嫌な予感を察知した永戸はなんとかして部屋から出ようとするが、どうにもならず、研究者は不敵な笑みを浮かべながら、よろよろと立ち上がった。


「おいおい……冗談だろ」


 事の重大さを察知した二人は研究者から離れるように部屋の端まで逃げる。すると、研究者の体からメキメキと音が聞こえ始め、体が変化を始めた。上半身が醜く膨れ上がり、腕や足は太く、力強い姿へと変わる。頭も、生えてきた骨におおわれ、無機質な骸骨のような顔へと変わる。そして気がつけば、研究者の体は先ほどと全く違う姿となっており、一人の怪物へと変貌してしまった。


「…なんて、醜い姿なんですか」

「醜くなどない、これは進化だ! 人の力を最大限に高めるためのな!」


 神癒奈が漏らした言葉に、怪物は反応する。言葉を話す辺り、知性は残っているらしく、研究者だった怪物は、咆哮を上げながら、二人へゆっくりと近づいてきた。


「英雄殺しだろうが、狐だろうが、私の作品の前では無力だ!」


 二人のすぐそばまで近づくと、大きな爪で二人を切り刻もうとするが、二人は慌てて横へ逃げる。攻撃はなんとか避けたが、部屋を隔離するためのシャッターはいとも容易くズタズタに引き裂かれてしまった。


「ふざけんな!」


 哀れに引き裂かれた扉を見て、永戸は毒吐く。あんなもの一撃でも喰らえば即死しかねない。だが、安心する暇もなく、怪物は永戸の方へ向くと、そのまま大きな腕で殴りつけてきた。


「ぐぅっ!」


 勢いよく殴られ、永戸は部屋の壁に叩きつけられる。さらにそこから怪物は追撃を加えようと永戸に接近し、右手を振り上げた。


「させません!!」


 だが、振り上げられた怪物の右手は、神癒奈の焔に撃ち抜かれてバラバラに弾け飛ぶ。今ので一瞬隙ができ、永戸はタックルをしかけて怪物を怯ませると、そのまま剣で胴体を斬りつけた。


「そんな攻撃、無意味だ!」


 だが、二人が攻撃しても、吹き飛ばされた右手はすぐに生え、胴体の傷も消えた。それどころか、傷を受けたところからさらに頑丈になり、まともに攻撃が通らないようになっていた。


「あの寄生虫の効果もあるのか!」


 攻撃を受けてもすぐに再生し、さらに強くなる、この前戦った寄生虫と同じ効果を持っていると気づいた永戸は、武器が持てないからとトランクを背中に背負い、拳銃で頭を撃ち抜こうとするが、それすら弾かれてしまう。


「硬いなぁっ! クソッタレ!」


 英雄殺しとしての力を解放し、とてつもない速度で彼は動き出すと、怪物の腕や足を剣で切り裂いていく。少しずつ、怪物へのダメージは蓄積していくが、だが同時に傷はどんどん癒やされていき、どれだけダメージを与えても無駄だった。


「効かないと言っているだろう!」


 効かないと言われ、ならばと今度は剣の先に取り付けられた鉄針を怪物の体に突き刺し、射出する。怪物の体を撃ち抜いたそれは、相手を壁まで吹き飛ばすが、当たり方が浅かったのか、簡単に引き抜かれ、すぐに回復してしまう。


「ちくしょう! なんとかならないのかよ!」


 鉄針を再装填し、次の手を考える永戸だが、ここで相手に隙を見せてしまい、怪物に捕まれ、部屋の外へ投げ飛ばされてしまう。


「うぁっ!」


 なんとか受け身を取って部屋の外の廊下から中を覗き込む。中では、今度は神癒奈が襲われていた。神癒奈は、爪の攻撃を避けながら、刀で切り刻んでいく。


「ちょこまかと! 動き回るな!」

「きゃっ⁉︎」


 攻撃が当たらないことに焦りをみせたが、怪物は怒りに身を任せ、神癒奈を手で切り刻んだ。腕から肩にかけて引き裂かれ、彼女から血が溢れ出てくる。神癒奈は痛む肩を押さえながら下がるが、逃げた先は部屋の隅で、逃げ場がなくなってしまう。怪物はゆっくりと神癒奈に近づき、血で滴る爪を振り上げた。


「いい加減、大人しくしやがれ!」


 ところが、神癒奈のピンチに、今度は永戸が助けに入った。背後から剣を突き刺すと、鋼鉄製の鉄針を撃ち出し、怪物の体を串刺しにする。あまりのダメージに、怪物は苦しみ、鉄針を抜こうとするが、深々と突き刺さったそれは、抜けなかった。


「たぁっ!」


 鉄針が怪物に突き刺さり、大きな隙を見せたところで、神癒奈は立ち上がり、首から胴体にかけて斜めに一刀両断した。流石にこれは致命傷だったのか、怪物は上半身を地面に落とし、そのまま這いずりながらもだえた。


「ぐはぁっ⁉︎ ……まだだ、その薬は、渡さんぞぉおおっ!」


 だが、直後、怪物の体に変化が起きた。失った下半身を補うように、上半身が新たに体を形成していくが、その変化が激しく、狭い部屋全体を覆うような大きさになった。


「これは……不味いかも!」

「逃げるぞ!」


 相手の危険性に気づいた二人は部屋から離れ、施設から逃げ出す。それにたいして巨大となった怪物は二人を追いかけ、新たに生えた触手で攻撃を仕掛けてきた。それを、二人は走りながら避けるが、体を触手が掠め、徐々に追い込まれていく。

 施設の広い部屋へと出ると、永戸は壁のボタンを押して、緊急用のシャッターを閉めるが、シャッターの向こうからドンドンと何かが叩きつけられ、そして次の瞬間、シャッターは無惨にも貫かれ、中から異形となった怪物の体がメリメリと溢れ出してきた。


「薬を……コチらによこセェっ!」


 もはや人間とは呼ばないような体となった怪物が、二人の前に立つ。先程の二倍以上の大きさの体になり、全身に骨が鎧のように覆われ、触手や爪も凶悪な見た目へと変わる。


「くそっ……やるしかないようだな!」

「はいっ!」


 どこまででも追いかけてくることから、逃げても無駄だと悟った二人は武器を構えるが、この怪物を果たして倒せるか、二人にはわからなかった。

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