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ヒトとキツネの異世界黙示録  作者: 遊戯九尾
第一章 絶望を知るヒトと希望を夢見るキツネ
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神癒奈の過去

 残された最後の任務、生物兵器の開発の阻止へむけて、二人は次の目的地へ向かう。

 そんな旅の途中の夜、ちょうどいい宿も見つからず、満天の星がきらめく空の下、二人は野宿することとなった。


「明日には目的地に着く、準備しておけよ」


 リボルバー拳銃の弾を、予備のマガジンに装填しながら彼は言う。それに対して神癒奈は明日のことを考えると胸の内がざわめくが、なるべく、後ろ向きに考えないように努めた。せめて、自分が足手まといにならないように。


「緊張してるのか?」

「えっ? えぇ」


 こわばる心を読み取られ、神癒奈は申し訳なさそうに丸くなる。尻尾も抱えながら、シュンとしている神癒奈を見ると、流石に永戸も何か声をかけねばと思った。


「まぁ、乗りかけた船とは言え、まともな仕事をしないからな、緊張はしても仕方ない」


 気まずい雰囲気になりながらも、焚き火を挟み、静かな時間が過ぎていく。だめだ、あまりにも会話が少ない、一緒に仕事をするのだ、少しは仲を良くしていかねばと永戸は神癒奈に声をかけた。


「そう言えば、なんでお前はこんなところで傭兵をしていたんだ?」


 素朴な疑問だった。永戸は気になっていた。妖狐である彼女が、何故ここで傭兵なぞをやっていたのか、何故この子はたった一人で暮らしていたのか、不思議に見えた。どう見てもこの少女はこの世界の住民には見えなかった。

 突然の質問に、神癒奈は目を丸くするが、隠し事をするほどのものでもないと思ったのか、すぐに口を開いた。


「私、ある妖狐の一族の末裔だったんですよね。焔月一族という、由緒正しい家系の狐だったんです」


 焔月一族、どうやら神癒奈はいいところの狐のお嬢様らしい、だがそんな彼女が何故こんなところにいるか、永戸はより不思議に思った。


「焔月一族の当主は、代々九尾の狐になって他の妖怪達を導いたすごい狐達で、私も、ついこの間、九尾の狐になったばかりで、その当主を引き継ぐはずだったんです」


 永戸に尻尾を見せながら、神癒奈はえへへと笑う。どこか寂しげに笑う彼女を見て、永戸は何も言わず、話を聞き続ける。


「ですけど、半年程前、人間達によって家族は襲われ、みんな殺されたんです……」


 神癒奈は話し出す、自分の過去を、この世界に来る前の話を……。


 ーーーーー


 あの日、いつまでも続くと思っていたのどかだった日常は唐突に壊されてしまった。ある時、"焔月は人を滅ぼす"と噂が流れ、その噂を信じ切った人間が、神癒奈の住む焔月の屋敷を襲撃してきた。当然一族は応戦したが、襲撃してきた人の数は圧倒的に多く、徐々に仲間は殺されていった。

 火を放たれ、燃え盛る屋敷の中、神癒奈は、他の妖狐達の悲鳴を聞きながら、必死に逃げ回る。


「やだ……こないで!」


 血走った目をした人間達が、神癒奈を追いかけ回す。神癒奈は攻撃もせずに必死に逃げ回るが、人間達は簡単には逃してくれない。

 何故執拗に追いかけるのか、それは、焔月の次期当主である神癒奈を殺せば、この一族も再起不能になるだろうと、人間達は思ったからだ。


「いたぞ! あの狐だ!」

「っ!」


 屋敷の外へ逃げようとしたが、とうとう囲まれてしまい、神癒奈は逃げ道をなくしてしまう。戦わなければ逃げられない、そう悟った彼女は刀を手にするが、自分が襲われてるにも関わらず、人間を殺す気になれず、刀を抜くことはできなかった。


「お前さえ消えれば、俺たちは妖に怯えずに暮らせるんだ!」

「そんな……私たちは、なにもしていないのに!」


 刀が抜けない神癒奈に対して、人間達はやる気だった。各々が弓や刀を構え、神癒奈を殺そうとしている。

 あわやと思ったその時だった、後ろの方にいた数人が、全身を焼かれ、何者かに斬られて倒れた。


「お母さん!」


 そこに立っていたのは、神癒奈の母親だった。薙刀を持ち、神癒奈を襲おうとする者を斬り伏せると、神癒奈の手を握ってそのまま走り出す。


「良かった、あなただけでも無事で」


 神癒奈の手を引いて走りながら、母親は安堵の息を漏らす。自分の娘が生きていたことに対して安心していたのか、彼女を前にしてこの状況で優しい笑みを見せていた。


「お母さんも、無事で良かったです!」


 母親が生きていることにホッとしたのか、神癒奈も気持ちが安らぐ。そして、二人は、屋敷の外へ出て、物置の中へ逃げ込んだ。

 ここには火は回ってないのか、薄暗く、いるのは神癒奈と母親の二人だけだ。息を整えながら二人は、屋敷から出られないか、戸の隙間から覗く。


「ダメ、門の前は完全におさえられてる。もう私たちは逃げられないわね」

「そんな……じゃあ、私たちはこのまま殺されるのですか?」


 逃げ道はないことを知り、神癒奈は再び絶望で暗い表情になる。だが、母親はまだ諦めていないのか、神癒奈をチラチラと見ながら逃げる方法を模索した。


「こうなったら……いい、神癒奈、貴方だけでも逃げなさい」


 すると、母親は神癒奈の肩を掴み、まっすぐと目を見てきた。逃げ道がないこの状況で彼女を逃そうと、真剣な眼差しで見つめられて、神癒奈は焦りを見せる。


「でも…どうやって⁉︎」

「これを使うわ、これで、貴方一人を逃すのよ」


 すると、母親が取り出したのは、一族でも研究がされていた、異世界転移の術式の描かれた札だった。だが、一族では、異世界転移はまだ理論の段階で、道具を介してでマトモに別の世界に行けるかどうかすら怪しいと言う段階の品だった。

 だが母親はこれにかけることにした。殺されるよりは、異世界だろうと彼女が逃げられるならいいと。


「でもそれ、未完成の試作品じゃ⁉︎」

「ええ、まだどこに出るかも、ちゃんと成功するかもわからない物よ、けど、試す価値はあるわ」


 神癒奈の背中に札を貼り付けると、母親は詠唱を始める。すると、背中の札が淡く光り、神癒奈の身体が淡く光り始める。


「ダメ!! お母さんも一緒に逃げましょう⁉︎」

「無理よ、それは試作品のその一枚しかないの。それに……私も、もう逃げられないわ」


 ここにきて、一人だけで逃げるのは辛くなった神癒奈は、母親も逃げようと手を出す。だが手は既に光の中に消えつつあり、母親を掴むことはできなかった。

 物置の扉がドンドンと叩かれる。どうやら中で転移の儀式がされてることがバレたらしく、人間がなんとかして中に入ろうと扉をこじ開けようとしていた。


「貴方だけでも生き延びなさい! 貴方は私達焔月の希望、焔月の次期当主! 貴方だけでも生きていれば、焔月はまだ未来へ向かってまた進むことができる!」

「嫌……お母さんを、置いていきたくない!」


 必死に母親に呼びかけるが、母親は首を横に振って、謝るように儀式を続けた。神癒奈の体は既に足も手も消え、胴体もどんどんと光の中へ消えて行こうとしている。


「神癒奈……貴方を産めて、私は良かった。こんなことになって、貴方を一人にしてしまうのは辛いけど、けど、貴方さえ生きていれば、きっと焔月は再び立ち直ることができる」

「嫌……私を一人にしないでください……」

「……ゴメンね」


 儀式が終わったのか、母親は詠唱を終えて、神癒奈は身体中が光に包まれ始める。同時に、扉が突き破られ、人間達がゾロゾロと中へ入ってきて、母親は、刀を持った人間達に斬り伏せられる。


「生きなさい! なにがなんでも生き延びて、どんな困難にあおうとも、立ち向かうのよ!」


 地面に倒れながら、母親は必死に声を上げて、神癒奈を送ろうとした。血を流しながらも自分をにがそうとする母親の姿に、神癒奈は涙を隠すことはできなかった。


「そんな……おかあさん……嫌……嫌ぁあああああ!!!」


 神癒奈に気づいた男が、彼女へ向けて刀を振り上げるが、ここで、目の前が光で真っ白になり、神癒奈は時空の彼方へ飛ばされていった。最後に見た母親の顔は寂しそうに、悲しそうにしていた。光の濁流の中で神癒奈は泣き叫び続ける、自分一人のために大勢犠牲となった妖狐達を、母親のことを考えて。




 そして気がつくと、神癒奈は、全く違う世界の森の中にいた。


 ーーーーー


「と言うことは、お前はこの世界の住民ではなく、また別の異世界から来た狐だと言うのか」


 話を聞いて大筋を理解した永戸は、彼女の存在がこの世界の住民でない事に驚いた。異世界転生、転移は、彼もよく見てきたことだが、妖狐が自分たちの力で異世界転移をして逃げおおせるなんて話は聞いたことがなかった。


「はい。私はこの世界の住民じゃありません。私は、別の異世界からやってきた、旅人なんです」


 悲しげに遠くを見ながら神癒奈は言う。こうしている今も、別の世界では焔月の仲間達は生きているのだろうか、生きていたらいいなと、そう神癒奈は願う。そして、この男と一緒に行き、いつかまた家族と会える日が来ればいいなと思った。


「お母さんや、他の狐達が助けてくれたから、私はここにいるんです。だから、生き延びなくちゃって思うんですよね。お母さんも最後にそう言ってましたし」


 暗い話題から誤魔化すように笑う神癒奈、すると、彼女の首の方から、しゃりんと、独特な音色が聞こえてきた。音のする方を見てみると、神癒奈の首には、金色に輝く少し大きな鈴がかけられていた。


「その鈴は?」

「これですか?この鈴は、大事なものなんです。この中には一族に代々伝わる物が入ってて、私はこれを、九尾になった時に、お母さんからもらったんです」


 母親からもらった大切な鈴、それを神癒奈は首から取り、大事そうに抱えながら手の中で転がす。しゃりんとまた透き通った音が鳴り、二人はその音に耳をすます。


「私、夢があるんです。人も妖も、誰も苦しまない、ふたつの種族が肩を並べてともに歩けるようになる世界を作りたいって言う願いがあるんです。英雄になりたいって言うのも、それがあるからなんですよね」


 過去を語ったことのついでにか、彼女は自分の夢を語った。彼女が何故英雄を夢見たのか、その理由を知り永戸は驚く。人と妖を繋ぐ存在になりたい。大層な夢ではあるが、立派な夢だと、永戸は心の中で思った。


「そうか、そんな夢を抱いていたんだな。人と妖を繋げるか、いい夢だと思う」


 神癒奈の夢を聞いて、永戸は、否定することをせず、この前の時と違い、優しい顔を見せた。それを見た神癒奈は、ちょっと意外と思ってしまうが、彼の優しい顔を見て、少し心が落ち着いた。


「それにしても、貴方がいつも使ってるあの剣、凄いですよね。大きくてカッコいいです」

「これか?」


 神癒奈に言われて永戸はケースから剣を取り出す。何かの武器に後から外付けされたような見た目をしていて、先の方に火薬式の鉄針が取り付けられてる無骨な見た目の大剣で、神癒奈はそれに興味津々だ。


「これは、お前の鈴と同じようなやつで、友人の形見なんだ。まぁ、姿形はだいぶ変わってしまったけどな」


 剣を見せつけながら、彼はそう語る。鈍く銀に輝く鋼鉄の剣、それは、彼が英雄殺しであるための証のようなもので、この剣と、彼の着るコートが、彼の噂を噂たらしめるものだ。


「この武器で、俺は今まで幾度となく敵を殺し続けた。それが、たとえ英雄だろうと、極悪人だろうと、関係なくな」


 この剣を語るときの永戸は、どこか暗そうで、けども懐かしむような雰囲気で、語っていた。友人の形見……そう彼は言うが、英雄殺しと呼ばれる前は、果たしてどんな人間だったのだろうか。


「そしてまた、明日も俺はこれで敵を殺すだろう。明日はよろしく頼むぞ」

「はい、分かりました」


 頼りにしてるぞと言われ、神癒奈は尻尾を揺らしながらにっこりと笑う。話をしてるうちに敵を殺すと言う覚悟はできたのか、神癒奈は落ち着いた状態で過ごすことができた。


「じゃあ、もう寝るぞ、明日もあるしな」

「はい」


 明日に備え、二人は焚き火を消して横になって眠る。きっと明日は、強敵との激戦や、知られざる絶望が待ち受けているであろう。だが、それでも、世界に蔓延る悲しい真実を見なければならないと、神癒奈は思った。


「じゃあ、おやすみ、神癒奈」

「おやすみなさい、永戸さん」


 背中合わせに二人は眠る。星空の下、静かな夜の闇に包まれながら。

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