英雄と禁忌の違い
イストリア第61支部の四課の課長ユリウスは、鋭い眼光をまっすぐにモニターの先にいる第108支部の四課の課長に向けた。
「し、信じている?あの"禁忌"とされた者を、全員⁉︎」
「あぁ、信じている。彼女達はこの課の大切な隊員であり、この先、世界を守っていく"英雄"だよ」
確信を持ってユリウスはそう言い、向こうの課長を見る。
「……禁忌は、禁忌は管理すべきだ! 危険を冒す前に」
「だからと言って爆薬付きの首輪をつけて常日頃から使い捨ての駒のように扱うのか?」
「当然だ! 力を持ちすぎたものはいずれ大きな過ちを犯す! だからこそ我が部隊は兵に首輪をつけた!」
「…馬鹿馬鹿しいな、兵士は君の言うことを何でも聞いてくれる人形でも何でも無いのだよ、お人形遊びの趣味があるのならクリスマスにおもちゃ屋で好きな物でも買ってくるといい」
冗談混じりに言うが、ユリウスの顔は本気の顔だ。大戦を経験した彼の冷たい眼差しが、108支部の課長に刺さる。
「確かに巨大な力は恐怖だ、私も君と同じように最初は彼女達に恐怖を抱いていた。だが彼女達は力を正常に、人を守る方に使う事を決めた。だからこそ、私は彼女達が持つ責任を共に背負う事にした」
この言葉を発する時、ユリウスは神癒奈に謝罪した時を思い出した、あの時からユリウスは、神癒奈を含めた全員の立場の責任を背負うことを決めた。そして、アズウルとの戦いの後、永戸達の戦う姿を見てから、彼らと共に戦い続けることも決めた。
「もう一度言う、彼女らは禁忌ではない。彼女らは世界を守ると覚悟を決めた英雄だ。彼女らは自ら戦うことを選び、世界を守るために戦いに赴いている。人を縛り付けることでしか戦う力を得られない君が、我々の覚悟を甘く見るな」
紅茶のカップを置き、ユリウスは覚悟ある目で向こうの課長を睨みつけた。
こんな話がある。ある学者が言ったことだが、この数々の異世界にある"英雄"と"禁忌"の二つの存在、二つは相反する者ではあるが、元を辿れば、この二つの存在は同じ者だったのではないかと。英雄と禁忌は鏡合わせの存在のような者で、力を持つその者の心次第で、どちらかに分かれると、そう提唱された。
向こうの課長は神癒奈や永戸達を禁忌と捉えた。だが、61支部の特査の隊員達は、彼らを英雄と称えた。
「リオーネ女王に手出しをする理由も大体察せられるよ、彼女も禁忌だと捉えたから、そうだろう? 全く、頭の硬い考え方をしている。彼女は我々に援助をしてくれると言ったのに」
「禁忌が禁忌と触れ合うなどそれこそ危険だ! 触れ得ざる者の領域に軽々と踏み込んで、どうなるのか…!」
「……ただの取引にいちいち手綱を引く者が必要なのか? よほど人を信頼しないのだね、君は」
紅茶をまた一口飲み、ユリウスは静かに言う。
「我々の逆鱗に触れない方がいい、同じ組織同士互いに殺し合う無駄な争いは即刻やめたまえ、でなければ、私の部下達が君を確実に潰しに行く」
「なっ…⁉︎」
ユリウスのその言葉に、向こうの課長は口をパクパクとさせる。
「これは警告だ、我々の仕事をこれ以上邪魔するならば実力で排除させてもらう、君の部隊の人形達全てをだ」
そう言うと、ユリウスは通信を切った。通信が途切れ、108支部の課長はぐぬぬと歯を噛み締める。
「我々の戦力が押されてます…このままでは全滅も…」
「ええい戦力を全て投入しろ! 禁忌には、禁忌で立ち向かわせてもらう!」
秘書の発言を聞いて、自分の部隊の危機を知ると、課長は怒鳴り散らした。
ーーー
ユリウスが会話を終えた頃、永戸達がいる屋敷では乱戦になっていた。
「くっ…敵の攻撃が激しくなってきた!」
ライが必死に盾とバリアで2人を守るが、徐々に部屋の奥まで追い詰められつつあった。永戸達が必死に戦ってくれてるお陰でなんとか敵を潰していけてるが、そろそろこちらの疲れも出てくる頃合いだ。
「だ、大丈夫なの⁉︎ こんな大勢、捌ききるのは困難じゃ…!」
「だが、巻き込んでしまった以上、君達を守るのが私達の役目になっている、だから、信じて欲しい!」
ライが冷や汗をかきながら近づいてきた敵を盾で弾き返す。
「クソッ! いつになったら敵はいなくなるんだ! これ以上は…!」
永戸も限界が来ていた、身体に走るノイズが多くなってきた、神癒奈のところに行って回復したいところだが、相手は待ってくれない。その時だった。
「っ⁉︎」
唐突に横腹に攻撃を受け、永戸は屋敷の壁に叩きつけられる。
「なん…だ⁉︎」
振り向くと、そこには大剣を持った巨漢が立っていた。
「これはこれは、誰かと思えば天下の英雄殺し様ご本人じゃあないか、あえて幸せだぁ! 生きるか死ぬかの処刑隊に配属してから初めての幸せだ!」
「ぺっ……なんだよ、生憎握手会のチケットは配ってないんだ、俺に、触れんな!」
じゃらじゃらと首輪についた鎖を揺らしながら、巨漢は永戸に会えたことを喜ぶ。
永戸は血を吐くと、二刀で武器を構え巨漢に向けてまっすぐ突っ込む、巨漢から大剣が振り下ろされるが永戸はそれを寸前で避けて斬撃を入れようとした。
だが、謎の強い力を受けて彼は地面に叩きつけられる。
「がはっ! …けほっ…!」
「おやおやぁ? 英雄殺し様と言えど、俺の衝撃波の前では無力な赤子同然か?」
「バカを…言えっ!」
能力をバラす辺り三流なのは確かだが、だが相手も死線を乗り越えてきてるらしい、永戸を地面に押さえつけたまま、大剣でトドメを刺そうとした。
だがそれを、神癒奈が刀で弾き返す。
「あん? なんだ…俺と英雄殺し様との間に割って入ってくるとは、邪魔を、すんじゃねぇ!」
「永戸さんをやらせはさせない!」
神癒奈の瞳が青く光ると、神権が行使され、巨漢の動きが一瞬止まった。神癒奈はそのまま刀を突き刺そうとするが、衝撃波を受けて吹き飛ばされてしまう。
「ぐぅ…なんだったんだ今の力は…まるで金縛りみたいだったぜ…だけどよぉ、狐ぇ、動けなくても衝撃波は撃てるんだよ!」
「くっ!」
次の瞬間、神癒奈に向けて、不規則な挙動で衝撃波が放たれた。目に見えない攻撃が神癒奈を襲うが、彼女はそれを停止の力場で防いだ。
一瞬の隙を見せたところで神癒奈はもう一度神権を行使、屋敷の建材を変形させ、巨漢を縛り付ける。
「いけぇええっ!」
「…は?」
刀を振ると、目の前の空間が切り裂かれ、巨漢の身体がスパッと真っ二つに切られ、地面にぼとりと落ちた。
「永戸さん…! しっかりしてください!」
「助かった…すまん、世話をかけた」
神癒奈の手によりノイズは消され、永戸は再び能力が行使可能になる。これで安心と思った神癒奈だが、背後に影が迫っていた。
「後ろだ!」
永戸はガンブレードを撃つと同時に反動をうまく使ってわずかに移動する、その直後、永戸達のいた場所はぐしゃりと潰れた。
「何…何が起きて!」
「ああクソ…面倒くさいな、回復能力持ちかよ!」
2人で立ち上がって倒したはずの巨漢の方へ向く、そこでは巨漢がちぎれた身体を少しずつ繋ぎながら大剣を持ち上げた。
「しってるか? 俺だってお前らと同じ禁忌なんだぜ。簡単には死なねぇから覚悟するんだな」
ぶんっと大剣を振り回しては巨漢は構える。
「2人の力を合わせなきゃ、倒せなさそうな敵だな…」
「ええ…!」
永戸と神癒奈の2人も、巨漢に向けて武器を構えた。
彼らがそんな戦いをしている中、桐枝は走っては次へ次へと敵を切り裂いていた。
「桐枝さん…ペース落ちてますよ…!」
「こっちだって精一杯っすよ! 敵の量が半端ねぇっす!」
エイルと背中合わせに立つと次々とやってくる敵に身構える、すると、空の上からフィアネリスが落ちてきた。
「フィアネリス先輩…!」
「大丈夫です…心配は、ご無用…!」
「でも、血が…!」
立ち上がったフィアネリスだが、腹部から、血が流れていた。
桐枝とエイルは上を見上げる、その先にいたのは、漆黒の装いをした悪魔だった。
「キャハハハ! ダッサ、これが決戦兵器と呼ばれた全知の機械の天使だなんて思えなーい」
上から悪魔が降りてきてフィアネリスと桐枝達を見下す。
「首輪をつけられて飼われてる悪魔に言われたくはないですね…!」
フィアネリスは傷を魔法で塞ぐと、自身の装備であるラストダンサーを構え、悪魔に突貫した。
「バカ正直に真正面から来るなんて、愚か…!」
「愚かなのは、どちらなのでしょうね!」
悪魔が手に持っていた鎌で槍を弾くが、フィアネリスは空中で一回転すると足で思いっきり踵落としをして悪魔を地面に叩き落とした。
「やってくれたわね! ぶっ殺してやるわ!」
「いや、殺されるのは、アンタの方っす」
悪魔がキレた所で桐枝が背後から聖剣でバックスタブを決めた。聖剣が悪魔の体を貫き…彼女を倒す事に成功…。
「……切った感触が、ない⁉︎」
「っ! 桐枝さん後ろ!」
「なっ…!」
「……死ねっ」いつの間にか背後に立っていた悪魔が、鎌を桐枝の首に向けて振るう。桐枝はその場にしゃがみ込み、鎌の一撃を避けた。
「これで!」
エイルが触肢に装着されたサブマシンガンで悪魔を撃つが、やはり感触がない。それどころか、悪魔の姿は先ほどから増えていた。
「分身…!」
「これでアタシがどれが本物か分からなくなったわねぇ、今から、徹底的にいたぶってあげるわ」
数をどんどん増やす悪魔に対して、フィアネリスと桐枝とエイルはジリジリと三人で固まる。
「三人で叩きますよ…! 私が彼女の位置を特定します、分かったら一気に攻撃を!」
「うん!」
「はい!」
永戸達とフィアネリス達、それぞれで禁忌対英雄の戦いが始まった。




