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ヒトとキツネの異世界黙示録  作者: 遊戯九尾
第十章 白竜の女王と最硬の盾
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しばしの居候

「はぁ…帰ってきたのはいいけれど…」


 仕事を終え、家に帰ってきたライ。武器などを下ろして着替えようとするのだが…。


「じーーーっ」

「…一応、異性なんだ、あっちを向いていてもらえるかな?」


 同じく家に上がっていたリオーネにライは着替えを見られる。


「人間の身体ってどうなってんのか気になるのよ、ましてや異性の身体だし」

「君のような年頃の娘には刺激が強いからダメだ! ほら、あっちを向いていてくれ」

「何よ、アタシの方がアンタより何倍も生きてるんだから、年頃はそっちじゃないの?」


 何故リオーネがライの部屋にいるのか、それは、彼が一番守るのに適任かつコミュニケーションに困らない人材だったからだ。

 本当は神癒奈達もいる永戸の家が一番安全だとユリウスから言われたのだが、あんな作戦を立てた男と一緒に住みたくないとゴネられ、結局ライの家に居候する事となった。

 で、その時、召使のエイザークからは…。


『もし女王様にふしだらな行為や弁えない行為を行ったら、我ら竜族が貴様を地の果てまで追いかけて八つ裂きにしてみせるぞ!』


 と凄みのある顔で言われた。

 と言う事で居候先がライの家に決まった。


「人間ってこんな狭いところで暮らしてるのね、アタシの城とは大違い」

「竜族である君とは違って、人間はこれだけのスペースでも暮らしていけるからね。君にとって、その身体は不満かい?」

「うーん、別に不満はないかしら、人間って便利な体してるのね、こんな小さな体でいろんな事ができるんだし」


 そう言うリオーネは、いちいち着替えなくても、ドレスから部屋着へ一瞬にして変わった。恐らく魔法の服装か何かなのだろう、人間体の彼女のスラリとした体にピッタリ合った服に変化している。


「……今日は色々ありすぎて疲れたわ、ベッドはアタシが使うけどいいわね?」

「いいよ、やれやれ、強情な女王様だ…」


 すぐにベッドに横たわったリオーネに対し、ライはため息を吐きながら床のクッションを枕にして横たわる。部屋の電気が消え、静かになる部屋…そんな中、ライとリオーネは互いに背を向けながら並んで寝ていた。


「ねぇ……アンタ達が危ない仕事をしてる事は聞かされてたけど、今までどんな戦いをしてきたの?」


 か細い声で、リオーネは呟く。今日の襲撃があってまだ驚きを隠せていないのか、声が震えていた。


「……人には聞かせられない戦いだ」

「…アタシにも、聞かせて欲しいな…アンタ達とは、協力関係を結ぶかもしれないし」


 寝る前に絵本を読んで欲しがる子供のように、リオーネはライにこれまでのことを聞いた。


「そうだな、外道に研究材料にされた子供のなれの果てを殺したり、巨大な邪神を倒したり、勇者となった子供を殺したり、果てには…絶望という存在と対峙したり」

「絶望?」

「あぁ……今でも思い出すよ。あの時の恐怖を」


 ライが目を閉じると、絶望…アズウルと出会った時のことを思い出した。

 あの時、自分は何もできなかった。数えきれない数の敵を前にして、戦う事を諦めていた。

 彼から見えたアズウルの姿は、父親の姿だった。


「どうして絶望が父親の姿になってたの?」

「死んでたんだよ、父親の死んだ姿を見せられたんだ」


 幼い頃から彼は父親に憧れていた。父親は立派な騎士で、一国の近衛になるほどの実力と勇敢さを合わせ持つ戦士であった。全ての戦を戦い抜き、怪我を負う事も死ぬ事もなく家に帰ってきた。そんな父親が、ライにとっての英雄そのものだった。

 そんな父親が目や口から血を垂れ流しながらだらりとした姿で話しかけてきた、それが彼にとって恐怖でたまらなかったのだ。


「そう……嫌な事を、聞いちゃったわね」

「気にしなくていい、いずれは、乗り越えるべき存在だからな」

「……話を変えるけど、じゃあ、なんでアンタはこんな所で戦ってるの?」

「そうだな……私も憧れたんだ、英雄に」


 ライは父を追うように騎士を志した。剣の腕前こそよくはなかったが、己が持っていた能力であるバリアの能力を磨き上げ、戦場では常に先陣を切り、自身の盾で敵と戦ってきた。その甲斐もあって、イストリアの四課のメンバーに抜擢された。

 四課に配属された事を当初は誇らしく思っていた。だが、現実は違った。四課の戦いは、普通の人には耐え難い、過酷な戦いであった。人には話せないようなあらゆる事件に出会い、戦った。


「本当に、辛い戦いをしてきたのね」


 リオーネが小さな声で呟くと、ライは頷く。

 だが、悪い話ばかりではなかった、四課に入り、戦友とも呼べる者ができた。それは、永戸のことだ。彼といる時は、彼が心強く思えた。守る事に特化したライと比べて、能力もごく普通の身体強化であるにも関わらず、果敢に敵に立ち向かう彼とは、相性が良かった。

 歳もそこまで変わらず仕事が終わったら一緒に飲みに行ったりした。ぶっきらぼうに見える彼だが、なんだかんだで面倒見が良く、ライとは暇があればつるむくらいの仲だった。


「何よ、あのバカとはそーいう関係なの?」

「違うさ、だけど彼は、凄いと思えるよ」


 異世界大戦の生き残りであるが故、性格は確かに見た目はガラが悪い、けど、擦れた性格こそしているが、彼の根っこの部分はただの優しい奴だとライは出会って少しで気づいていた。だからライは、彼を追いかけた。英雄殺しと呼ばれた彼の背中をただただ追いかけた。

 あの時、絶望で押し潰そうとしたアズウルに立ち向かった彼の強い心に、憧れたのだ。


「アイツ、そんなに強い奴なんだ」

「あぁ、彼は、並大抵のことでは潰れやしない、強い人間なんだ」


 そう言うとライは天井を見て思う。自分は彼にどれだけ近づけているだろうかと。

 彼は多くの屍の上に立っている。あの紅いコートも、血だらけになった証だ。歩んでいくうちに積み上がった死を受け入れてその上に立っている、彼は隠しているつもりだが、本当はすごく葛藤している筈だ。


「…彼のような英雄になるのは、難しいな」


 彼ほどの器を持つ英雄になるには、どれだけの困難を乗り越えればいいだろう、どれだけの死に直面しなければならないだろう。

 そう考えるが、考えても仕方がないので、ライはそのまま眠りについた。それを見たリオーネは心の中で思う。


(……不思議ね…英雄になる条件なんて、そんなに難しくないのに、バカみたいに考えて)


 多くの人を救い、慕われれば英雄として扱われるだろう、リオーネはそう思った。だが、彼の考えてる英雄像は、もっと深い何かなんだろうと、リオーネは考えた。

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