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ヒトとキツネの異世界黙示録  作者: 遊戯九尾
第十章 白竜の女王と最硬の盾
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竜の女王様

 ライ・カルカロスにとって、朝は爽やかな時間だった。

 朝目覚めればパンを焼き、コーヒーを淹れ、食事をとりながら新聞を開く。食事を終えれば着替えて身だしなみを整え、いつも使っている盾を背負って職場へと向かう。

 これと言って特別なルーティンはなく、けれど、落ち着く時間だった。

 だが彼は今、そんな爽やかな時間をぶち壊される危機に瀕していた。

 イストリアへ向かう途中に、人攫いに出会ってしまったのだ。子供が詰め込まれているのか、男が145cmほどの子供を袋に詰め込むと、ライの方へと走ってきた。これを見ているわけにはいかないので人攫いを殴って子供を助けたのだが……問題は、その子供だった。


「もー何よ!! この街の人間は敬いの心はないわけ⁉︎ このアタシをさらうなんて死刑ものよ! 今すぐぶち殺してやるわ!」


 次の瞬間、子供の詰まった袋がバリバリと破られ、光に包まれると、巨大な銀色の竜が現れた。その竜は人攫いを見ると、口を開いてそのままがじりと食べた。骨の折れる音と共に男は食べられ、ライは唐突に目の前に起きた怪獣映画のような出来事に驚愕し、盾を構えることもなくその場に崩れ落ちた。


『…何? アタシをジロジロと見て。アンタもこいつの仲間な訳⁉︎』


 竜の殺意のこもった目線がライに向けられる。このままでは食われると思ったライは全力で首を横に振った。


「ち、ちちち違う! 私は君が攫われそうだったから助けたただの通りすがりの者だ! 断じて攫おうと考えたわけではない!」

『そっ…なら、いいわ』


 竜が光り出すと、元の小さな子供の姿に戻る。その姿は子供でありながら美しく、透き通るような銀髪に、紅い瞳を持ち、そして、頭と腰から、竜の証である角と尻尾が生えていた。街中であるのにドレスを纏っているあたり、どうやらいいところの貴族か何かのようだ。


「助けてもらう必要はなかったけど、一応、礼は言わないとね、感謝するわ、人間」

「あ、あぁ…」


 ライは立ち上がり、竜の少女を見る。むふーっと堂々とした態度で構える少女は、ライを見上げると、こう言った。


「これは、何か礼をしなきゃいけないわね、まぁそうね、一日アタシと一緒に過ごす権利を…」

「女王様ーっ!」

「…うげっ」


 使いの者か、別の竜の者が竜の少女を見つけると、全力で駆け寄ってきた。


「探しましたぞ! 一人でいては危ないと申したではございませんか! このような街中で竜化をするなど言語道断! 本日の目的をお忘れですか!」

「そんなの分かってるわよエイザーク! あーこら手を引っ張るな! 一人で歩けるわよ!」


 そう言い残すと、竜の少女は使いに引っ張られ、去っていった。ライは、目の前で起きた出来事にポカンと見守る事しかできなかった。


 ーーー


「っていうことがあったんだ、どう思う?」

「どうって……言われてもなぁ」


 職場についてライは永戸に話を持ちかけるが、永戸も引き攣った笑顔しか出なかった。砂糖の入ったコーヒー片手に永戸がうなる。


「人攫いが攫おうとしたのがまさかの竜の子供ねぇ……」

「この都市って竜も住んでるんですか?」

「なーーーーくはないかな、ただインフラに関しては整備されてないが」


 神癒奈の質問に永戸が答える。この都市、ミズガルズは多種族が住めるようにインフラが整理されている。だが流石にドラゴンは規格外だ、人の姿が取れない限り、交通、住居、さまざまな面で暮らすことが難しくなる。

 そんなこの都市でいきなり竜が現れたとなると、奇妙な話だと永戸は思った。


「結局あの子はなんだったのか…」


 ライがそう考えてると、課長のユリウスがオフィスに入ってきた。


「おはよう諸君、今日の任務だが、今日は少し特殊な依頼を受けてもらう」

「今度は何っすか? 悪の組織の撲滅? それとも適当な神殺し?」


 桐枝が調子に乗って聞くが、ユリウスは首を横に振るとこう答えた。


「一言で言えば、イストリアの活動の紹介をしてほしい」

「急にほんわかな依頼が来たな? 課長、活動の紹介って、一体どこに紹介をする気ですか?」

「我々の活動に興味を持ってくれた者がいてくれてね、もし活動を気に入ったら支援金を出してくれると言ってくれたんだよ。まぁ話だけではわからんだろう」


 そう言うとユリウスは扉を開け、部屋の中にある者を入れた。それを見た途端、ライは口を再びポカンと開けることになる。


「初めまして、イストリアの特別調査隊四課の諸君、アタシはリオーネ・グランディス・アンヴァーシュ・ハルト・ナーシサス。誇り高きドラゴンにして、ここより遥か遠くの竜の国を統べる女王よ」


 入ってきた者は、ライが先程助けた竜の少女だった。少女が胸を張って自己紹介をすると、部屋にいた四課の者達全員が凍りつく。


「あら、下等生物に友好的に接しようとした気楽な挨拶のつもりだったけど、理解が及ばなかったかしら?」


 少々見下した態度でリオーネはそう言う、だがこの場の全員は、彼女の言うことに理解ができなかった。


(い、今自分から女王って言いましたよね…? こんな子供が…女王…なんですか?)

(それを言ったら神様のお前も同じだろ、でもなんでその女王がこんなブラック職場に興味を持ったんだ?)

(下等生物、はぁ、このクソガキはどうやら死にたいらしいですね? 丁度いいです、新しい武器の実験台になってもらいましょう)

(だ、だめだよフィアネリス先輩! 子供相手にそんな怒っちゃ)


 四課の者達がヒソヒソと話すが、聞こえていたのかリオーネは声を上げた。


「アタシのこと子供って言ったわね…? 言っとくけどアタシはこう見えて90年は生きてるわよ、たかだか10年20年しか生きてない人間やその他の種族風情が、調子に乗るんじゃないわよ」


 額に青筋を立てながらリオーネはそう言うが、永戸達は神癒奈やフィアネリスをじっと見つめる。こっちのこいつらの方が十倍以上生きているんだが? と。


「ま、まぁいいわ。今日あたしが来た理由は単純よ、このちっぽけな窓際仕事をするアンタ達に、このアタシが支援金を送ってあげようと言う話で来たわ。まぁ、どんな仕事か眺めてアタシを満足させられたらの話だけどね」


 そんな窓際な職場じゃないんだけどなぁと全員が思う。そう思ったところで、ライとリオーネと目が合った。


「あーーーーっ! あんた! 今朝の!」

「や、やぁ…また会ったね、女王陛下」


 ライ自身も複雑な気持ちなのか目を逸らしながらリオーネと会話する。するとリオーネはちょうどいいものを見つけたと言わんばかりにライに近づいて来た。


「丁度いいわ! 今からアンタをアタシの案内係に任命してあげる」

「い…いいのかい⁉︎ 私はレディのエスコートはした事はした事はないんだが…」

「アタシを助けてもらった恩義もあるわ、1番信頼できる

「ふむ、今朝二人は出会ったみたいだし、ではライ君を案内役として彼女につかせよう」


 ライがリオーネの案内役となり、彼は冗談だろうと辟易するも、リオーネは完全にこのポジションを気に入っていた。手前にいる執事らしき竜から射殺すような目線が刺さる。


「一体どうしてこんなことに……」


 ライは己の不幸を恨んだが、彼にとって慌ただしい日々は、ここから始まった。

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