猟奇的な獣
調査団のキャンプで休んだ翌日、二人は早速周辺の調査を始めた。死体が多く出たとされる森の中を歩き、気になるところに目星をつけていく二人。
「結構荒らされてますね……」
辺りに残る爪痕や足跡などを見て、尻尾を興味ありげに揺らす神癒奈。そこへ永戸がマーカーで印をつけていく。
「だな、けどこの痕跡、相手は人じゃなく、間違いなく魔物の類になるだろうな」
剣とか魔法で斬りつけられたとかではない、荒々しい爪痕や動物の死体、人がやったとは考えられにくい。一体どんな魔物がやったんだろうと神癒奈が想像する隣で、永戸はマーカーの数をチェックする。
「よし、ここら辺はこれでいいな、他のところに移るぞ」
「はいっ!」
元気よく返事をして、神癒奈は次のところへ向かおうとする。すると突然、遠くから動物の叫び声が聞こえてきた。
「っ! 行くぞ!」
叫び声を聞いた二人は慌てて声のする方へ走っていく。そうして声の元へたどり着くと、犯人はそこにはいなく、動物のこと切れた死体があるだけだった。
「遅かったか……」
永戸は動物の死体へ近づき、状態を見る。やはり爪で裂かれたような傷がある。血もドクドクと溢れ出していて、死んでから間もない。
「っ……血の跡がありますよ! 向こうに続いてます!」
死体のそばに、滴ったような血痕があるのを見つけた神癒奈は、それのいく先へ走っていく。
「待て! 魔物のいる危険性もあるぞ!」
後先考えずに走っていく神癒奈を、永戸はケースから剣を取り出しながら追いかけていく。走りながら剣に鉄針を装填していくが、この前の戦闘で、能力者に対抗できる白銀製の鉄針を使い切った為、用意したのは通常の鋼鉄製のものだ。
「この先に、動物を殺した元凶が……っ!」
血痕を辿って走り続けた神癒奈だが、何かを見つけたのか、止まって木に隠れた。
その先にいたのは、一匹の獣だった。見たところ小さな子犬のように見えるが、その爪には血がこびりついており、それで、今も目の前で死んだ動物を切り刻んでいた。
「あんな小さな動物が……今回の事件の元凶……?」
目の前にある事実を直視して、神癒奈は目を疑う。だが、こうもしていられないと思うと、彼女は獣の観察を続ける。
一つ疑問に思ったのは、獣は動物を切り刻み続けてるが、捕食をしていないことだった。普通、動物というのは食事の為に獲物を狩ると言うのが当たり前だが、この獣は、そういった捕食という行動を見せていない。そう、言うなればまるで、"殺す"事そのものを目的としているように見えた。
そう考えると、神癒奈は恐怖感を覚えるが、だが、爪でぐちゃりと切り刻まれ、内臓が飛び散っていく動物の姿を見ると、そのような感情とは裏腹に、ふつふつと怒りが込み上げてきた。
「もうやめてください! 死んだその子をそれ以上傷つけるのは!」
知性ある者としての本能が、心が見ていられなくなったのだ。生き物が殺されてもなお傷付けられているのを見てられない、そう思った神癒奈は声をあげて獣の前に立つ。
「ーーーーっ、ーーーーー!!!」
神癒奈に気づいた獣は動物の死体を前足の爪で殴り飛ばすと、彼女に向いて吠えた。神癒奈も、この獣は自分をやる気だと捉え、刀を抜いて構える。
「おいおいおい、調査だって言ったろ、勝手な行動は…っ!」
ようやく神癒奈に追いついた永戸が、勝手に動いた彼女を叱ろうとするが、目の前にいた獣を見て、状況を察し、何も言わずに彼女の前にたった。
「こんな小さな奴があれだけの動物を殺したと言うのか、なぁっ!」
吠えながら目の前に飛びかかってきた獣を、永戸は慌てずに左手で殴り飛ばし、そのまま空中に舞う獣を、剣で両断する。体を真っ二つにされた獣は、そのまま地面に落ちて動かなくなり、それを見た彼は、安堵の息を漏らし、神癒奈へ振り向いた。
「ふぅぅ、後先考えずに勝手に行動するはやめてくれ。任務にも支障は出るし、万が一危険な目にあったらどうするんだ」
「でも! あんな風に、生き物の命を弄ばれるのは見ていられません!」
動物の死体を指差し、こんなことはあってはならないと主張をする神癒奈だが、永戸も彼女への心配を兼ねてなのか、説教をやめなかった。
「それに、これで犯人が分かったから、この調査も終わりに……」
言い訳するように言葉を重ねようとするが、ここで神癒奈は、永戸の後ろで蠢くモノを見てしまった。死んだはずのあの獣が、ぐちゃぐちゃになった身体を引きずりながら動いているのだ。そして、首が取れたかと思うとその断面から新たに体が形成され、巨大な怪物へと変貌した。
「永戸さん後ろ!!」
「はっ⁉︎」
慌てて神癒奈は永戸を横に突き飛ばして自分も避ける、するとそこへ、新たに大きな身体を得た獣が突進をしてきた。
「くそっ!さっき体ぶった斬ったはずだろ! なんで動いてんだこいつ⁉︎ と言うかなんだこの大きさは! 大型犬にしてはいくらなんでもバカデカすぎだろ!」
体をすぐに起こした永戸は、巨大になった獣を見つめる。体格が人間の倍ほどある獣を見て戦慄を覚え、一歩、二歩と2人は下がってしまう。
虎よりも巨大になった獣は、元の体だったものを引きずりながら、2人に少しずつ迫る。その姿を見た神癒奈は、少し前に見た、勇者の成れの果てのような姿を連想した。
「ここで……やらないと!」
未知の怪物への震えを抑えながら、神癒奈は刀を手にする。それに対して獣が雄叫びをあげて2人を威嚇すると、神癒奈は少しひるんでしまう。その隙をついてか、獣は神癒奈に飛びかかるが、永戸が剣を構えて降り注ぐ前足を止めた。
「ひるむな! 少しの恐怖が命取りになるんだぞ! お前が俺についてくと決めた覚悟はどうした!」
迫ってくる獣を防ぎながら叫ぶ永戸の声を聞いて、神癒奈はハッと我に帰る。そうだ、覚悟を決めたのだ、こんな怪物と戦う事だって、あると分かっていたんだ。そう思うと、手の震えが止まり、神癒奈は落ち着いて刀を握りしめることができた。
「……覚悟なら! あります!!」
問いかけてきた声に神癒奈が答え、そのまま彼の前に出ると、刀を爆速で抜き放ち、獣の胴体を刀で斜めに叩き切った。獣が痛みで身を引き、血ではなく黒くどろりとしたものが噴き出てくるが、2人はお構いなしにそのままさらに攻撃を重ねようと踏み込む。
「たたみかけるぞ!」
「はい!」
永戸が片手で拳銃を撃ち、獣の脚の肉を吹き飛ばして転ばせると、獣の懐へ潜り込んで首元へ剣を突き刺し、轟音と共に鋼鉄製の鉄針を撃ち込んだ。
「今だ!」
「はい! その身を焼き貫け、『業火!』」
彼の合図と共に、神癒奈は炎の槍を複数放ち、鉄針と一緒に突き刺さった槍は獣を内側から焼いた。炎の中で空気を焼かれ、まともに呼吸出来ない獣は、ガクガクと震えながらまだ立とうとする。
「身体を内側から焼かれても頑丈なやつだ。だが、これでしまいだ」
炎で身を捩らせ苦しむ獣に永戸は近づき、そのまま剣で首を絶つ。流石に首を切られれば死ぬだろうと2人は思うが、驚くべきことに、首を切られた獣は、未だ炎で焼かれながらも動いた。
「冗談だろ⁉︎ 首が切られてんだぞ!」
永戸もこれには驚きを隠さず、動きが止まってしまう。獣はその隙を逃さず、永戸をそのまま押し倒し、羽交い締めにすると、首の断面から牙の生えた触手を伸ばし。彼を引き裂こうとした。
「いい加減に、してください!」
だが、伸ばされた触手は、寸での所で神癒奈が刀で切り裂かれ、そのまま足で獣を蹴り飛ばして永戸を救った。獣はそのまま木にぶつかり、体力か、あるいは生命力が尽きたのか、そのままぐったりとして動かなくなった。
「……やりました?」
「わからない…けど、念には念を入れた方がいいかもな」
そういうと永戸は神癒奈に目配せをして、どういう意図か読み取った彼女は、炎を放ち、獣をもう二度と動かない状態まで焼く。立ち所に火は獣の全身を包み込み、煙は空まで登っていく。
「一体、なんなんだコイツは……真っ二つにしてみれば巨大化して復活して、首を切ってもまだ死なずに動いた。いくらなんでも、常軌を逸している」
「はい……とても、普通の生物には見えませんでした」
焼き焦げていく獣を見つめながら、二人はこの獣の恐ろしさを実感する。ただ殺す為に生き物を殺し、死ぬ程の攻撃を受けても再び再生して襲いかかる。とても、まともな生物には見えない。もはや一種の怪物だ。
「キャンプの人に伝えてみましょう、何かわかるかもしれません」
「あぁ、そうだな」
そうして2人はキャンプに帰ろうとするが、ここで、キャンプの方角を見て、ある異変に気づいた。
「なんですか……あれは……?」
その先に見えたのは、黒い巨大な影だった。先程の獣よりも断然大きく、木の影からでも見えるほどの大きさの、ナニカが、キャンプの方で蠢いていた。それを見た神癒奈は、恐怖で尻尾をふるふると震えさせる。
「嫌な予感がする。急いで帰るぞ!」
このままアレを放置しておくのは不味い、そう危機を察知した二人は、あの巨大な影を追って駆け出した。




