俺は、気付かない
結局どちらの選択肢も選べなかった俺の提案は、意外にもすんなりと受け入れられた。
驚きだったのは、その時の従者の彼が俺の背中を大きく押してくれた事だ。
どうやら彼は『男爵家の令嬢を娶るなど滅相もない』と思いつつも『こうなってしまえば、王子は多分言う事を聞かないだろう』という諦めを抱いていた様である。
そんな彼にとって、双方を両立させる俺の日和見案はひどく魅力的に映ったようだった。
こうして俺は、結局未だに『シンデレラ』の物語軸に滞在している。
そしてあれから、定期的に王城へと訪れるようになっていた。
王子の『友人』としての義務である。
「やぁシンデレラ! 久しぶりだね!」
煌めく笑顔でそう言う彼に、俺は苦笑しながら手を上げて応じる。
『「俺の子を産んでくれ」発言』の時にはすこぶる引いた俺だが、『友人』として関われば中々どうして彼は良い奴だった。
因みにあの恐ろしい瞳は、取り敢えず彼を説得してなりを潜めさせた。
「そんな視線を向けてくるんじゃ『友人』としてお付き合いするのに相応しくない。これが続くようなら、俺は『友人』としてのこの集まりに顔を出せなくなるかもしれない」と言ってみたら、彼がこちらに配慮してくれた形だ。
そんなので引いてくれたのだから、やはり彼は良い奴である。
「それでな、今議会が紛糾してるんだよ」
用意された紅茶を飲みながら、俺と王子は今、とある世間話に花を咲かせている。
俺が何やら疲れている様子の王子に「どうしたのか」と尋ねたら、この話になったのだ。
しかし。
(うーん、議会ねぇ)
議会と言われて俺の頭に浮かぶのは、テレビ中継の国会の様子くらいなものだ。
そう、国会って確か。
「みんなで意見を交わして、最後に多数決を取って全体の3分の2以上の賛成が得られれば可決、みたいな?」
「ん? 何だそれは?」
思考が、思わず口をついて出てしまったらしい。
聞かれたので「いやだから」と、俺は思った事をただ口にする。
「意見が割れてるなら、多数決をとれば一発なのになって思ってさ」
「ほう?」
「例えば『紙に書いて箱に入れる』とかにすれば、誰がどっち側かなんて周りには分からないから素直に良いと思った意見を選べるし」
それもこれも、全ては国会の真似事でしかない。
しかも、かなりうろ覚えな。
それなのに。
「その考え、面白いかもしれないな」
そう言って、王子はフッと微笑を湛えながら紅茶を一口呷った。
どうやら彼の憂いは少なからず軽減されたようである。
(まぁ、結果オーライか)
「良かった良かった」なんて思いながら、俺もティーカップへと口をつける。
その時、後ろにいた従者の目が爛々と輝いていた。
しかしその事に、俺は全く気が付かない。




