僕が世界を救うまで、あと一秒。〜上位存在は、みんなが知らないところで意外と頑張っている〜
■前書き
本作に興味を持っていただき、ありがとうございます。
本作は、神様的な存在が頑張る短編小説。
自然科学と史実の要素をちょっとだけ含む、コメディ寄りの作品です。
なお本作は、Twitterで相互さんのツイートから着想を得て、また表題の使用許可をいただき、筆を執るに至りました。
その元となったツイート主である、ばにら。さまへ、ここで改めてお礼申し上げます。
それでは本編に移ります。
お楽しみいただけますと、幸いです。
僕は、大変な決断を迫られていた。
――残された時間は、一秒。
◆◇◆◇◆
僕は、いわゆる『上位存在』だ。
人間からは『神様』と呼ばれることもある。
僕の仕事は、世界を見守り、文明を適度に発展させること。
この適度に、というのが結構難しく、また、腕の見せ所でもある。
そして僕は、だいたい何でもできる。
ちなみにそれは、人間などの生物から見れば、の話だ。
また、だいたい、と言ったのは、できないこともあるからだ。
まず先に、できることから挙げよう。
できることは、物理的な干渉。
これが、そこそこ自在にできる。
例えば、何かを形作ること。
人の姿をとることなどは、とても簡単だ。
天候の操作なんかも、お手の物だ。
あとは、壊すこともできる。
極端な話、僕の管理下にある世界を、跡形もなく消滅させることだって可能だ。
とは言え、そんなことをしたら、復元がめちゃくちゃ大変だ。
というか、復元は現実的に不可能なレベルだ。
それに、『上』から超怒られるだろう。
『上』というのは、『さらなる上位存在』のことだ。
僕は、その『上』の下で働いている。
そしてその『上』について説明すると、僕ができないことの話も、自然とついてくる。
例えば僕は、時間には干渉できない。
それは『上』が管理している。
進めたり、巻き戻したりが、できるらしい。
他にも色々あるけど、前置きとしてはもう充分だ。
それよりも簡潔に今の状況を。
僕があと一秒間、何もしなければ。
僕が今まで見守ってきた文明が、滅びる。
◆◇◆◇◆
一秒の猶予が、不幸中の幸いだ――。
僕の見立てが甘かった。
その兆候に気付いてはいたけど、これほどの大きさとは思っていなかった。
それが分かっていたら、絶対に目を離したりはしなかった。
次の瞬間には、火山の大噴火が起こる。
大噴火、と聞くと、『下位存在』の者たちなら次のように想像するだろう。
山頂からマグマが天高く、噴水のように吐き出され、山は流れる溶岩で覆い尽くされる――と。
そうじゃない。今回のそれはわけが違う。
“地球”のものに例えると、その世界最高峰の“エベレスト山”が、一瞬で消し飛ぶ。
それぐらいの量をもつマグマが、爆発的に噴き出す。
既に小さな噴火は始まっている。
周辺住民がやいのやいのと騒いで避難に走っているけど、さっき言った通り、そんなレベルじゃない。
これは世界規模の超災害、その引き金になる。
手を打つ。今すぐに。今しかない。
僕が自由に物理干渉できることは説明した。
でも限度はある。
これほどまで勢いづいたものを、一秒で自然に鎮めるのは不可能だ。
抑え込むしかない。
外側から。無理矢理に。
大きなものを形取る――“クジラ”だ。
その大きさは――巨大な山ほどだ。
そして見た目は、透明だ。
僕たちは、『下位存在』から明確に認識されてはいけない――。
――。
――よし、間に合ったッ!
のしかかり、抑え込む――ッ!
えっ――あっ……。
熱っ……。
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!!
熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い!!!!!!!!
てか痛い痛い痛い痛い痛い!!!!!!!!
い゛だだだだだだだだだだだだだだだ!!!!!!!!
間違えたあ゛あ゛あ゛あ゛!!!!
“感覚”を持つ“生物”を形取るんじゃなかったあ゛あ゛あ゛!!!!
“感覚”を持たない“物質”が正解だったあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!
――我慢だ。
我慢、我慢、我慢、我慢我慢我慢我慢――。
――いや無理!!!!!!!!
無理無理無理無理無理無理!!!!
無理に決まってるだろうが!!!!
馬鹿!!!!
僕の馬鹿!!!!
そ、そうだ、何か、他の――ことを゛ッ、考え、よ゛うッ。
気゛を゛ッ、紛らわ゛――ッ。
そう、僕が、今の今ま゛でッ、何を、していたかと、言う゛どッ。
“地球”を゛ッ、見て来てッ、勉強をッ、して、いたッ。
“地球”、はッ、僕の、仲間が、見守って、いてッ。
その、文明はッ、僕の、受げ持づッ、世界よりッ、ご、五百年ほどッ、先を、行っで、いる゛ッ。
僕の、仲間はッ、かなり゛、優秀でッ。
干渉の、仕方がッ、絶妙でッ。
い、色々、さ、参考にッ、なった。
例えば、な、何だっけ、ひ、ヒミコ? 卑弥呼? ――火巫女?
――熱い!!!!!!!!
駄目だ駄目駄目!!!!
今熱いものを連想したら駄目!!!!
何か、別の――そう、そうだ、あれにも、干渉したと、言っていた。
歴史上の人物、確か、名前は、ジ、ジャンダ・ヌルク――?
――熱い!!!!!!!!
だから熱いんだよ!!!!
何がヌルクだよ!!!!
こちとら全然ぬるくないんだよ!!!!
他には、そうだッ――僕の、仲間は、イタズラが、好きだ。
暇つぶしに、実在しない、生物を、形取って、それは、“チュパカブラ”とか、“ツチノコ”とか――そういう、噂を作っては、楽しんでいるらしく――。
――ああ。
やっと……収まってきた。
これで、今回の仕事は、終わりだ――。
◆◇◆◇◆
最後に一応、補足しておこう。
大噴火が、世界規模の超災害の引き金になる、と言った件だ。
山が一つ消えるくらいなら、大した問題じゃない。
問題は噴火と同時に舞う、火山灰だ。
大規模噴火が運ぶ火山灰は、世界すべてを覆い尽くす。陸も空も。
そんな環境に、ほとんどの動植物は適応できない。もちろん人間もだ。
すると僕の仕事は、イチからやり直しになる――とまあ、そういうわけだ。
はぁ……疲れた……。
――ちょっとだけ、休憩。
とりあえず、数百年ぐらいは……。
◆◇◆◇◆
――数年後。
僕たちにしてみれば、その歳月は僅かなものだ。
その僅かな時間のうちに、また滅亡の危機が訪れた。
――隕石だ。
嘘でしょ……。
そう言いながら、僕は重い腰を上げた――。
■後書き
これにて、終幕。
人知れず苦労している『上位存在』――そんなものが存在していたら面白いな、と思いながら書きました。
以上!
お読みいただき、ありがとうございました!