14.日常パート(?)
どうやら凛さんは本当に何の用事も無しにうちまで来たみたいで、部屋のソファに寝転がってゴロゴロしている。いくら家が近いからって……はるとくんきゅんきゅんしちゃう!!
「……何を考えているのかは分からんが、すごく気持ち悪い顔をしているぞ」
「ドストレート。野球部か!」
ついついツッコミ精神が。でも会話のキャッチボールはもちろんできません。陰キャだから。
「陽斗、お菓子が食べたいぞ!」
いつもは俺の定位置であるソファから首だけ俺の方に向けて催促をする。でもうちに買ってくるお菓子って大抵楓が全部食べちゃうんだよな。
「あー。楓が食べました。元からそんなに家にお菓子置いてある訳じゃないんですよ」
「……今決めたぞ。私の全権力を駆使して桜庭君の事を退学させてやることにする」
「急にコメディ感がなくなったけど!?」
寝転がりながら氷点下の瞳で俺を見つめる凛さん。たかがお菓子の事で退学にされる人の気持ちとかたまったものじゃねぇな。それも至って真面目な顔で言うことじゃない。それもこれも全部お菓子が悪い。と言うことで終身刑で俺に食べられ続けてくれ。
「おーかーしー!」
「ないですって……」
「むむ……」
「あー、もう。今度駅前のミスド奢ってあげますから。今は勘弁して下さい」
意外と子供な所あるんだよな、なんて思いながら。まぁそれくらいの出費なら凛さんのためならと割り切れるかなぁ。なんて紳士、暁選手。
「まぁそんな事で怒るほど私は非常識じゃないんだがな?冗談冗談!」
どういうことだ。不服そうな目でずっと俺のことを睨んでいたのに、俺がそうやって代案を出した瞬間けろっと表情を変える凛さん。そして今まで見たことないような満面の笑みを浮かべて、
「ところで今ミスド奢ってくれるって言ったよな?」
「いや、怒ってないなら……」
「いやー、たまには良い所あるじゃないか!」
「凛さn「仕方ないから奢られておいてやるぞ!」」
なんでこんな人が生徒会長やってるんだ。皆さーん!騙されないでください!この生徒会長詐欺師です!全然子供なんかじゃありません!
……適当に理由付けて後回しにして忘れてもらおう。そうしよう。
「まさか私を言いくるめてうやむやにしようなんて考えてないよな?」
「そ、そんなことあるわけないじゃないですかヤダナー」
……忘れてたこの人エスパータイプなんだった。
「そんな事があったら私悲しすぎて昼休みに陽斗大好きアピールをしながら陽斗の教室でお弁当食べちゃうかもなぁ!」
「やばいこの人自分の使い方世界一分かってる感じだ!」
「冗談だ。凛ちゃんジョークだぞ」
そんなことをされたらクラスの男子だけじゃなくこの学校の男子全員が決起して俺の事を地獄に送りに来ることは間違いないだろう。こんな陰キャが凛さんと、なんて考えるだけで怖い。
「……まぁ、今回だけですよ」
「やった!陽斗、愛してるぞ!」
「ぐふっ!?」
りんの ひっさつ すまいる こうげき! はるとは ぜんしん ふくざつこっせつ!
「……ジョークがいちいち攻撃力高いんですよ」
「攻撃力?」
「こっちの話です」
本当に俺の知り合いの美少女の言葉は攻撃力が高い。このままじゃ凛さんの事をお姉さんと呼ぶ日は絶対来ないだろう。よくてかわいい妹ポジションだ。
……ちなみにミスドというのはミス・ドーナツというチェーン店の事だ。決して性別は男ではない。
「......ところで陽斗はいつまで私の事を凛さんと呼ぶんだ?」
「お姉さんは嫌ですって」
「違う。お姉さんでもいいんだが、さっきの桜庭君みたいに凛とは呼んでくれないのか」
「……そんな事できるわけないじゃないですか。凛さんも馴れ馴れしくて嫌でしょ」
凛さんはすごく優しい。だからこそ俺に昔から気を遣ってくれて、全部知っているからこそ俺に良くしてくれるんだ。絶対に、勘違いなんてしちゃいけない。「嫌な訳ないじゃないか」なんて言いつつごろんと寝返りを打った凛さんは背中越しに、どんな顔をしているのか。
そんな不安に襲われた俺に凛さんはそっぽを向いたまま、ぼそりと言った。
「仮に記憶が全部無い状態で陽斗に出会ったとしても、きっと私は陽斗の事を好ましく思うぞ」
彼女なりに気を使ってくれたのか分からないが、普段とはかけ離れた言動。こういう時の凛さんの心情を俺は分かっている。
「......凛さんにしてはえらく遠回しですね」
「......うるさい」
照れ隠しに次ぐ照れ隠しの応酬。凛さんは逃げるようにうつ伏せになり、ソファの上のクッションに顔を埋めた。少し崩れた髪型と服装がえらく扇情的でつい目を逸らしてしまう。
「でもこんな所に俺は何度も救われてきたんだろうな」
いつもはまっすぐで決断力のある人なのに、大事なところになると照れて遠回りしてしまう。でもそんな所に人間としての優しさを感じていたのかもしれない。
俺も、凛さんも何かを言い出すこともなく。無言だけど居心地の悪くない時間が少し過ぎる。あまりにも動かない凛さんについ意地悪をしたくなって......
「凛」
静かに彼女の耳元に忍び寄り、ぽつりと優しくその名前を耳に落とす。あまりの急な出来事にゆっくり首を回した凛さんの呆気に取られた顔が面白くてつい微笑みが漏れた。
「あははっ、やっとこっち向いてくれましたね」
そう言うとぷるぷると全身を震わせて顔を真っ赤にした凛さんが俺の事を見ている。これはやってしまったな。きっと失礼な態度に怒ってるんだろうな......
「っっ〜〜〜〜!!い、今何て!?」
「......もう言いません」
「陽斗〜〜っ!?もっかいだ!!」
「やです」
......どうやら怒ってる訳じゃなさそうだけど、今度は後から恥ずかしさの波が襲ってきたので、ふいと顔を逸らした。好春も「もっかい」を求めてきてたのを思い出して、美人はもう1回を求めたがるのか、なんて的外れなことを考えていた。
「ふいって......!かっこいいしかわいい......!」
後輩にしてやられたのが恥ずかしかったのか、顔の熱を抑えるように頬を手を当て何やらぶつぶつ呟いている。
「何ぼそぼそ言ってるんですか」
「い、いや!なんでもにゃいぞ!」
舌を少し噛んだのか、びくりとして口元を抑えている。こんな所学校の男子達には見せられないな。
「......この辺りにはかわいい子猫が住み着いてるみたいですね」
「わ、わたしはいじわるはきらいだ!」
嫌いだなんて本心で言っていないなんて事はよくある鈍感主人公だって分かる。それでもいつもは見せない姿のギャップにつられスイッチが入ってしまった俺はあえて本気にした振りをして、悲しそうに凛さんの目の前にぐっと顔を寄せる。
「本当に、俺の事嫌いなんですか......」
「き、嫌いじゃない!好きだ!いやそれはそれで誤解が......誤解でもないんだけど......」
「ふっ......あはははは!冗談です凛さん、分かってますよ!」
「は、はるとぉ〜〜〜!!」
いわゆるガチ恋距離くらいの距離で意地悪をすると、強気な意思を感じる愛らしい目も、真っ直ぐ通った鼻筋も、整った女の子な唇も、透き通るような髪も、その一つ一つが彼女が最高の美少女であることを教えてくれる。
この反応が気遣いだなんて、俺は思えない。まだどこかで今の自分に自信を持ちきれていなかった心に、優しさを、先輩としての愛情を教えてくれたみたいだった。
「凛さん」
「......ふんっ」
「ありがとうございます」
まだ顔を少し紅くしたままの凛さんは少し考えたようにした後、結局何も言わなかった。
最近の俺は、どうやら美少女に救われがちみたいだ。
「.......全然関係無いんだが」
「何ですか」
「まだ会話シーン続くのか?長くないか?」
「急になんていうメタ◯スライム発言」
何だろう。急に呼び捨てにしてもいいんじゃないかと思えてきた。メタの権化メ◯ルスライムも暴れ倒してる。
「まぁ今回は日常パートらしいからな」
「メタ◯キング」
王だった。
引き続き読んで頂きありがとうございます。
しれっと作品タイトル変わってます。




