1.とある1日
初投稿です。拙い部分など多いと思いますが、暖かい目で見てください。
もう桜の花も散ってしまった春中頃、ざわざわとした喧騒に包まれる教室の中。
平日の朝という憂鬱を感じながら、俺はいつもと同じように教室の隅にある自分の席に座ってスマホをいじっていると、自分を呼ぶ声がした。
「おはよう。本当陽斗はいつ見ても一人だよね」
「……うるせぇ、余計なお世話だっての」
相手に目もむけずにそっけなく返事を返した暁 陽斗の態度は、その相手が自分の友達である入谷 透であると理解しての行動だった。
恐らくこのクラスで俺に話しかける数少ない男子である彼は、端的に言うとかなりのイケメンである。ダークブラウンの絹糸のような髪を持ち、一つ一つのパーツが整ったその甘いマスクは王子と形容されることがあるほどの美形で、その比喩でさえ過度な表現ではないほどだ。その上性格も良く文武両道。欠点という欠点が見当たらない。実際俺は透が告白されたという話を本人から一週間に一度くらいのペースで聞く。こんな完璧少年と中学の頃から友達な俺は幸せなのかもしれない。
そんなラノベの設定をまとめてぶち込んだような評判は学年が違えど知られているくらいで、言わば陽キャというにふさわしい人間であろう。
ではその主人公の友達である俺はこれまた完璧なのだろう、そう思った諸君。もれなく家の床をスケートリンクにしておいてやろう。
そう、俺はそんな透と真逆ともいえるような存在だ。全てのステータスが平凡かそれ以下。友達と言える友達もほとんどいなくクラスでの立場も下から数えた方が早いであろう。陽斗、と言う名前のイメージとはかけ離れた陰キャである。そして極めつけは、
「なぁ、陽斗。いつも思うけど、その前髪とマスクどうにかなんないのか?」
目が全部隠れるほど長い前髪に、口元を隠すマスク。俺は学校でほとんど素顔をさらしたことがない。まぁ、晒した時点で興味がある人間がいるのかと言われれば、多分いないのだが。
「俺が指名手配されてるの知ってるだろ」
「おまわりさんこいつです」
こんな風に適当な冗談で返すまでが俺の朝のテンプレート。クラスの皆にイケメンのスマイルを提供する仕事をやってます。
「おっすお二人。おはよー」
と、そうしていると数少ない友達パート2が登校してきた。彼の名前は川上 大和。こいつはイケメンではないがコミュ力の鬼で、緊張なんて文字は大和の辞書にはないそうだ。そしてこれは蛇足だが、赤点、補修常習犯で、サンタクロースだなんていうあだ名がついている。また、大和とも中学の頃から友達である。
基本的に友達も少なく、人と関わろうとはしていない俺だが、この二人と過ごす時間は楽しいと感じられる。たまに陽キャの重圧に押しつぶされそうになったりもするが。
そうして二人と話していると教室後方からドアが開く音がして、一瞬だけ教室内が水を打ったように静まり返った。
「おっ、桜花三大美女のうちの二人がおでましだぜ。そんな人たちと同じクラスになれるなんて、俺たちは幸せ者だよなぁ」
先ほどの静寂の原因はこの二人である。俺たちが通っている桜花高校の中で、とびぬけた容姿を持つ三人に敬意をこめてつけられた呼び名が、「桜花三大美女」。そして何とこのクラスには、そのうちの二人が在籍するのだ。もちろん陽斗はそんな彼女達とどうこうなれるとは全く思ってないが、中には夢を持っている男子もいるそうだ。
「お前らは二人のうちどっちがタイプなんだよ。ちなみに俺は断然水瀬さん派だな!茶髪の綺麗なストレートヘアの元気系少女……少し抜けてるところがまたいいんだよなぁ……!」
朝二人が登校してくると必ず大和がこの話題を出してくる。大和が言った彼女のフルネームは水瀬 可憐。誰にでも分け隔てなく接する性格に数多の人間から好感を持たれている。そしてその卓越した容姿からモデルにもスカウトされたことがあるらしいが、断ったそうだ。
この話は大和と何度もしたことがあるのだが直接どちらがいいか聞かれたのは初めてだったので、正直あまり興味はないが俺もその話題に乗っかる。
「俺は……月見さん派かな。この前デパートで見かけた時なんだが、落とされて転がっていた商品を一人で直していたんだ。まぁ優しい心を持っている人なんだな、って思ったよ」
「くぅーっ!美人の上に性格もいいなんて、まるで女神みたいな存在だな!」
「まぁ、そこまで興味無いんだけど」
俺が話した少女の名前は月見 好春。「和」が似合うような黒髪ショートボブのかわいい系美少女で、身長は少し小さめ。しかし水瀬とは少し違って月見はかなり物静かで彼女と話したことがある人は少ないらしい。そのため、彼女と話したということが広まるだけで嫉妬の目線を男子からいただくことになる。言うまでもないとは思うが、もちろん俺も話したことは無い。
そんな俺と大和の会話を聞いていた透はというと、ふふっと爽やかな笑みを浮かべて「どちらもすごく魅力的な女性だと思うよ」なんて言うイケメンな回答をよこしてきた。……なんで俺こいつと友達なんだろう。
そうしていると、生徒に始業を告げるチャイムが校内に鳴り響き、まばらに広がっていたクラスメイトも各自の席に着いた。そして俺は机に突っ伏してそのまま夢の世界にレッツゴー!
「ねぇ陽斗、僕が暇になるから当たり前のように寝てくのやめてくれよ」
……とはいかない。俺が今座っている座席は教室の左後ろの隅なのだが、右隣に座っているのが完璧イケメンの透で、更に前に座っているのがあの水瀬さんなのだ。
「ディズニーランドが俺を呼んでるんだあああ」
「ミッキーは陽斗みたいな夢の無い少年は求めてないと思うよ」
毎日毎日俺を現実に引き戻してくるイケメンは、俺が頭を上げて恨みがましく前を向いているのを満足そうに見ている。透だったら話し相手も腐るほどいるだろうに……
「んんー、暁君は寝坊助さんだね」
それに水瀬もなぜか授業が始まると毎回後ろを向いて俺にちょっかいをかけてくる。そしてそれを見た男子共がネズミを仕留める猫のような殺意を向けてくるのだ。直接的な攻撃はないものの、心臓に悪いからできればやめて欲しい。
「……俺の体の八割は睡眠によってできてるからな」
「残りの二割はあんでもつまってるのかな?」
誰が某国民的あんぱんヒーローやねん。
「いやいや水瀬さん、陽斗の頭の中には月見さんしかいないらしいよ?朝から珍しく語ってたからね」
透がオレオレ詐欺に成功した詐欺師のようなニヤつき方で爆弾発言。その反面俺は口を開けたまま透を見ることしかできない。するとすかさず水瀬が目を輝かせて突っ込んでくる。
「えええ!?暁君も好春のこと狙ってるの!?競争率高いところだよー?」
さすがに授業中だったので大きな声を出すことはしなかったが、水瀬が俺に顔を近づけて驚きを表情に出していた。水瀬の綺麗な茶髪が頬にあたってくすぐったい。
「いや美人だとは思うが狙ってるなんてことはあり得ない。そもそも俺なんかがどうにかできる人ではないってことはよく分かってる」
「へぇー、暁君は睡眠と好春でできてるんだ、へぇー?」
俺の弁解なんて意にも解せずニヤニヤした目線を俺に向けてくる二人。特に透はマジで許さん。冷蔵庫の中の生卵全部ゆで卵にしてやる。割って驚け。
「お前らの頭の中に本当にあんを詰めてや……」
反論しようとした瞬間俺の机を強く叩かれた。鈍い音がしたのでうとうとしていた生徒が何人かビクッてしているのが目に入った。
「俺の授業で呑気におしゃべりとはお仕置きが必要だな?お前らからアンパンマンにしてやろうか、暁、水瀬」
怖いくらいに貼り付けられたような笑顔で俺達に顔を近づけてくるのはこのクラスの担任の近藤先生。近頃では珍しい体育会系の先生でその笑顔の裏には有無を言わせない迫力が隠されている。水瀬のこめかみには冷や汗が伝っている。
というか、おい透。何一人だけちゃっかり何もしてませんみたいな態度とってんだ。肩が震えてんのめっちゃ見えてんだよ。お前の周辺だけ震度5か。
「特に水瀬、この前の小テスト何点だった?」
「……28点です」
唐突にそんなことを言いだすものだから、危うく噴き出してしまうところだった。完璧に見える三大美女にも一つは苦手分野というものがあるのだろう。透の肩なんて震度6まで到達してるぞ。
「次は単位やらんからな?」
終始笑顔を絶やさなかった先生に、俺と水瀬はこくこくと頷くことしかできなかった。
その後、半分怯えながらも無事授業を終えた俺は、何事もなかったように次の授業の準備を進める透に詰め寄ってわき腹をつねる。
「ちょ、痛い痛い、ごめんって陽斗!」
「購買のメロンパン」
初めは渋られたが、無言の圧を加え続けると透が折れた。今日の昼ごはん、ゲットだぜ!
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