7/20
走-③
ベールの女が人気のない通りの隅にある建物に入るのを、鈴花は見逃さなかった。
ステンドグラスの嵌め込まれたドアが閉まるより早く、鈴花の腕が扉を突き飛ばす。
真鍮製のドアベルが激しい音を鳴らす。
鈴花が息をきらせながら中へ入ると、薄暗い室内が瞳孔を途端に膨張させ、鈴花の目をくらませた。
そこは静かな、物置のような部屋だった。
およそ木で作られた家具や、淡くとろけそうな明かりがついたランプがぽつぽつと柱を照らしており、どこか異国の気配がある。ハアハアと息をしながら立ち尽くす鈴花の背後で、ドアがゆっくりと閉まる音がした。