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走-②
しかし鈴花に男との面識はないので、無視して走っていると、鈴花の追跡に気がついたベールの女も、慌てて逃走を再開した。
黒いベールの女、喪服を着た少女、半裸でタトゥーの男。
妙な三人組の逃走劇に、道ゆく車が次々と止まった。赤信号にも関わらず、ベールの女は横断歩道を渡ろうとするので、いくつものブレーキ音と、クラクションが津波のように周囲へ響き渡った。
鈴花は躊躇したが、自分も追われている身であるためにその音の洪水へ飛び込んだ。横断歩道の白と黒を飛び越え、黒いベールの女を追う。
べこん、と変な音がしたので振り返ると、タトゥーの男が車の屋根を踏みつけて走っているのがみえた。
(なに、あいつ)
想像以上にヤバい奴? そう考えながら、鈴花はとにかく走ることにした。止まってはいけない。あの男に追いつかれたが最後、私はあの車のようにぺしゃんこになって殺されるのだ。そんな確信を抱いた。