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走-①
あ、死んだな……。
鈴花がそう悟った瞬間、視界の端に黒い布がちらりとあらわれた。
路地の先で、黒いベールの女が道端で眠っている野良猫をみつめて立っている。さっきまで追われていたことを忘れているかのように、ただそのもふもふした球体に心を奪われている。
「腕時計!」
鈴花が叫ぶ。目の前の男がぎょっとする。
「あれ、お前……」
「ごっ、ゴメンナサイ!」
「え? おい、コラ逃げんな!」
鈴花が走り出す。
その後ろを、男が追いかける。
「待てって、スズカ!」
何故か、男が鈴花の名を呼んだ。