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葬-②
糸杉が街路樹のように植えられた通りの真ん中で、鈴花は立ち止まった。
自分の左腕につけていた腕時計をむしり取ると、鈴花はそれを道路の上へ叩きつけた。
(ハア……、ハア)
荒い息が鈴花の口から漏れていた。
季節は八月で、あたりは蝉か何かの泣き声がやたらとうるさく、目眩がしそうになる。
鈴花は低く叫んだ。
「うるせーんだよ……」
喉に血の滲むような声だった。鈴花が自分の喉に触れると、じっとりとついた汗が指の間を流れて落ちた。
鈴花はしばらくそれを眺めたあと、地面に落ちた腕時計へそっと腕を伸ばす。
鈴花が腕時計を拾いあげようとしたその瞬間、誰かの指先が先に腕時計を拾い上げ、それは視界の外へと消えた。鈴花が顔をあげると、腕時計は目の前の雪のように白くしなやかな指の中に握られていた。
その指の持ち主は、見知らぬ黒い女だった。