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葬-①
* * *
「ご愁傷さま」
久々に会う親戚が、父の亡骸をみてそう呟くのを鈴花は聞いた。
死を悼んで発せられた言葉のはずなのに、鈴花の胸に湧き上がるのは妙な感情だった。例えるならそれは怒りであり、憤り。喪服のスカートの裾をぎゅっと握りしめた拳で、鈴花は目の前の親戚を殴ってやりたいという気持ちを必死で堪えていた。
(若いのに、あの子は可愛そうにねえ)
(あの人も病気とはいえ、気の毒に)
遠くで遠い親戚の女が二人、声を潜めて話している。
女の目がちらりと鈴花をみると、鈴花はついに我慢がならず、弾丸のように葬儀場の外へと駆け出した。
遠くで母親が鈴花の名を呼んだが、鈴花は止まらなかった。
葬列に並ぶ何人もの男女が、走り去る彼女の背中に哀れみの視線を向けていた。
誰ひとり、鈴花の行動を制止できなかった。誰もが、鈴花の存在を悲しみ深い少女という記号として認識し、それを疑わなかった。
父親を早くに亡くした少女。十七歳の彼女にとって、それはとうてい耐えられる重さではないと、皆そう思い込んでいた。