第五章 八月その20
「わへい!ガードの裏だ」
黒崎の指示はガード裏へのカムアラウンド。
先ほど友利が手前に置いたストーンの裏、ハウスの中にストーンを入れるというもの。
「…簡単に言ってくれるけど…」
「感じるな、感じろ」
「考えるな、感じろ、ですよね?」
旭先輩のボケにツッコミを入れる。
我ながらその程度には冷静らしい。
ふうっと息を吐いて。
僕は野山先輩や、黒崎や、リューリに教わったことを一つ一つ思い出す。
「わへい、蟻だ!地面にいる蟻を見付けるんだ!そうすればお前はいつもの実力が出せる!」
「旭先輩、ちょっと黙っててくれませんか?」
苦笑しながら僕が言う。
まぁ、旭先輩なりに気を遣っているのだろう。
…方向がだいぶおかしいが。
『足を揃えて、ブラシは短め…。足を下げ…前に…出す』
…滑走。
『…低く…』
黒崎のブラシ目掛けてさらに、滑る。
『手で押さず…静かに…』
野山先輩の教えがフラッシュバックする。
『未練たらたらで…行ってらっしゃい…』
そっとストーンをリリースする。
このリリースした瞬間はいつも不安になる。
指示より内側ではないだろうか?
ウェイトが足りないのではないだろうか?
「ラインは…いいかな。ウェイトどうですか?」
「ちょうどいいかな?ちょっと強いかも」
「そのまま、そのまま…」
『曲がってくれ…止まってくれ…』
僕がリリースしたストーンがハウスの前のラインを超え曲がり始める。
『ガードを超えてくれ…』
ゆるゆると、ガードを超える。
『止まれ、止まれ』
ハウスの中央のラインを超えていく。
相手チームのスキップが僕のストーンをスイープし始める。
『止まれ!』
なんとかガードの裏に止まる。
まぁティーラインより後ろに行っているのであまりよくはないが…。
「ナイスショット!よくやった!」
「いや、ティー奥じゃあダメだろう?」
「一応半径50㎝くらいはずれるかなと思って作戦は考えてるよ」
「それは…ありがとうなのかな?」
ハウスの円は約3.6mだから50㎝のズレは相当だ。
僕と友利の精度じゃ確かにそんなものかもしれない。
次に精度を上げることにして、今はこれでヨシとする。




