第一章 四月その4
野山乃花という冗談みたいな名前に立ち眩みを覚えた後。
僕らはそれぞれカーリングシューズをレンタルし受付からカーリング場の中へと向かった。
カーリングの経験者は自分のデッキブラシ(?)とシューズを持っているため一目でそれとわかった。
カーリング場内へは扉が二重になっていた。
中の冷気が外に出ないためなのだろう。
カーリング場への扉を開けると、そこは予想以上に広い空間だった。
前方と後方には観客席。50メートル程の氷のレーン(シートというのだと後程知った)が全部で六つ。
天井からの明かりもそうだが氷が反射しているのかやけに眩しさを感じた。
そしておそらく僕は会場に呑まれた。
この感覚は久しぶりだった。初めての剣道の大会。初めての会場。そう言った所は決まって僕を、僕ら初心者を呑みこみ平常心を無くさせるのだ。
平常心を無くしていたからか、それは分からないが僕は反射的にカーリング場に向かってお辞儀をした。
道場に入るときの癖が出たのかもしれない。
「…変わってるね。キミ」
後ろから野山乃花先輩がぽそりと言う。
先ほどと変わらずキャスケットを深々と被っているが、さすがにヘッドフォンははずしている。
その代わりに大きな耳当てをしていたが。
「礼儀正しいね!良いことだよ」
土屋旭先輩が肩を叩いていく。
『さぁ、行きますか』
僕はキラキラと輝くカーリング場へと足を踏み入れた。